第14話 熊と壁
演習場につくとなにか様子がおかしい、と伊勢崎 栞は感じた。
もちろん赴任したばかりの栞に自衛隊の基地の普段の様子はよくわからないが、どこか非常時の喧騒というか、あたりの空気感が切羽詰まった余裕のなさを感じる。迎え入れた東富士演習場の隊員の様子もおかしい。
遠くの方で慌ただしく銃火器を積んだ車両や隊員が駆けていく。ヘリを真っ先に降りた中山がそばの隊員を捕まえて話を聞いている。
何か非常時が起きているのは間違いがなさそうな様子だ。
栞はかつての渋谷松濤ホール発生時の院内の様子を思いだした。あの時もこんな空気感が漂っていた気がする。
中山が小走りで戻って来ていつの間にか横に立っていた藤特等ら外特機動隊の面々に報告をした。
「藤特等、スタンピートです。下級外敵が中心らしいですが、教導連隊第一中隊が特忌区域の防衛ラインの維持迎撃を行なっていますが、中々押し返せず怪我人も出ているようです」
藤聡明は報告を聞くと一瞬考える仕草をしたが、すぐ様に決断を下して指示を出した。
「下級でも数がおおいとやっかいですからね。絢、豪太、外敵の対応を二人にお願いしたい」
高千穂絢と磯前豪太がお互い顔合わせて頷いた。
「了解。豪太くん、行こう」
「うっす!スタンピートなら俺と絢さんが適任ですね」
中山から外敵の位置情報を聞くと高千穂絢は手持ちのザックから大きめのマントのようなものを出すとさっと身にまとって磯前豪太を伴って走り出した。
あっという間に走り去っていく二人を見ながら栞は中山に尋ねた。
「スタンピートってなんですか?」
「外敵の集団攻撃ですね。特忌区域は事実上の外敵のナワバリです。通常は外敵はナワバリの中にはいってきた人間のみを攻撃します。我々自衛隊は特忌区域の外郭を防衛ラインとして警戒をしていますが、基本は区域に入らない限り外敵と交戦することはありません。ただ、周期や要因は解明されてないのですが、このナワバリを外敵が広げてくることがたまに不定期に起きます。つまり、防衛ラインはその外敵による特忌区域の拡大を押し留めることを目的にしています。そのナワバリを拡大する際に外敵の行動がスタンピートです。一気に大量の外敵が群をなして防衛ラインの一部に襲いかかります」
「大量の外敵が1箇所を目掛けて突進してくるということですか?」
中山は栞をみつめて頷く。
「そう。まるで誰かが指示しているみたいにね」と中山は自分でも消化されきれてない想いのように小さく付け加えた。
二人のやり取りを聞いていた藤聡明が後をつぐように続けた。
「自衛隊の攻防は一進一退ですが、事実上多くの特忌区域が徐々に拡大してきていることを防げていません。だからこそ逆に我々外特機動隊は彼らのナワバリの中での外敵の駆除に特化して活動しています。攻めることこそが最大の防御ですから」
「高千穂さんと磯前さんのお二人だけで大丈夫なのですか」と栞は急に不安になって聞いた。
大量の外敵と聞いて、自衛隊の一個部隊が交戦して対処できない状況に二人が加わって大きく戦況が変わるのだろうか。
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