第13話 作戦②
今回の箱庭訓練の目的はとにかく外敵の駆除数をあげること。
彼方がフルオートの回避の能力を発揮しているとすると、今回の班の構成としてはやり方によってはうまくハマるかもしれない、と改めて木葉は思った。
「俺は岩になれる。知っていると思うが」と熊野が木葉の思考を読んだように口を開いた。
「はい。熊野先輩は鉱石に体を変化させることができる、ですよね。しかもその硬さで動ける、と認識してます」
熊野は頷く。
「私の恩恵は、ちょっと説明が難しいですが皆さんが知っている通りです。私たち三人は一見すると攻め手にかける組み合わせです。『防御』の熊野先輩、『回避』の彼方、そして私。でもうまく組み合わせるといけるかもしれません」
ちょっといいですか、と熊野と彼方にもう少し自分に近寄るように告げて木葉は考えていた三人の連携について話した。
可能性案も含めた2パターンのコンビネーション。
2つ目は最近、木葉が自身の恩恵について感じている可能性としての能力を盛り込んでいる。
これができれば私たち三人はかなり強力なチームになるはずだ。
「なるほど。1つ目は確実ではないが順当にいけるな。外しても何度か繰り返せば問題ない。ただ、もう一つのはそんなことが本当に可能なのか?」
「わかりません。こればっかりは実践してみないと検証できないので。ただ、私の恩恵の本質としては可能性がある気がしているんです」
「恩恵は『突然できることが分かる』か。理解と解釈で進化するモノではあるな」
「そ、その前に僕がちゃんと避けれるのかな」彼方が不安そうに狼狽する。
「大丈夫。私はあなたの恩恵はこれまで誰もなかった特別なものだと思うの。だから平気。もし失敗したらその時は私の恩恵で、私が彼方へのダメージを背負うから彼方には被害はないわ。そこは私が必ず保証するから信じて。これは私が考えた作戦だから私がリスクを背負う」
木葉はこの作戦を考えた時に、彼方にリスクを押し付けるようなことをしたくなかった。
ただ、お互いの能力を信じればこの方法が上手くいく可能性が最も高い。
だからこそ彼方に万が一なにかが起こった時には自分が身代わりになるつもりだ。
それが最低限の責任で、木葉が考える「公平」だ。
「公平」でないことを自分が率先してしまうくらいなら外敵にやられた方がマシだ。
木葉は心からそう思った。それが木葉の信条であり、絶対の軸。
ホールが地元を飲み込んだあの日から、人々の命が不公平に虐げられたあの日から、変わらず木葉は正しく公平であるべき世界に戻すべく戦うと決めた。
それが亡き母と妹への誓いだった。
だからこそ、自らだけが安全な場所に身を置くことを良しとせず公平に体を張っていかねばならない。
木葉がヘリの小さな窓から外を見ると小田原市内上空に差し掛かるところで、その先の箱根の山々の奥に巨大な富士山が見えた。
5月になり徐々に気温が高くなり、夏がもう少しで訪れるのを日々感じるが、富士山はまだ白く冠雪している。
木葉にとって見慣れた景色だが、改めて美しいと感じた。
あの山肌の大部分が特忌区区域になっているとは信じ難い。
ただ、それが木葉が生きる、この世界だ。
機内でアナウンスがあり、東富士演習場まであと10分はかからないという。ふと気になり木葉は左右を見渡した。一番奥の座席に伏見たちが座っているのが見えた。
伏見は腕を組んで前屈みに頭を下げている。瞑想しているようにも、寝ているようにも見えた。
昨日の予感が杞憂に終わればいい、と思った。




