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第12話 作戦

 横須賀クラス15名と藤特等以下4名、そして救護として新任の伊勢崎先生と監督官であるクラスを受け持つ中山教官の総勢21名は横須賀から御殿場の東富士演習場まで、陸上自衛隊の輸送ヘリのチヌークで向かうことになった。


 当日の朝、ヘリに木葉が乗り込むと他のクラスのメンバーはすでに班員ごとに分かれてヘリ内部の左右のベンチシートに座っていた。

 木葉は連泊の準備を積み込んだ大きめのボストンバックをもって熊野と彼方の横に腰を下ろした。


「おはよ。ってあんたそれだけなの」

 木葉は彼方の足元に小さく置かれたデイバックに驚いた。

「あ、おはよう。白兎さん。え、すくないかな?」

 彼方は自分のバックを持ち上げて、「何か持ってこないといけないものあるっけ、パンツとTシャツはいっているし」と慌てている。


「別に、あんたがいいならそれでいいわよ。熊野さん、おはようございます。熊野さんは結構荷物大きいですね」


 熊野はヘリの壁に身を預けて腕を組んで目を閉じていたが、自身の大ぶりの登山リュックを一瞥すると「プロテインにはこだわっているからな」とボソッとつぶやいた。どうやら日課であろうトレーニングのグッズやプロテインなどが沢山詰まっていそうだった。


「白兎、どうやる。知っていると思うが俺はあまり群れて戦うのは得意じゃない」

 熊野が体勢を起こして木葉を覗き込み、出身の山形は庄内地方のイントネーションがぬけきれない言葉でぼそっと話した。


「それについて、昨日班が分けられてから考えてました。作戦はあるのですが、その前に確認をしたいです」


 木葉はまだガサガサとデイバックを引っ掻き回している班員を覗き込み「彼方、あなた本当に恩恵がないの?」と声を潜めて聞いた。

 彼方は顔をあげると申し訳なさそうな、困ったような表情を浮かべた。


「ごめん。よくわからないけど、僕には火の玉や雷をどうやって出したらいいか分からないよ」

「恩恵はそういうのじゃないの。ある日突然、自分で『それ』ができるって知っていることに気がつくの。それまでは全くやろうとも出来るとも思い付かなかった『それ』が、やったこともないに自分には出来るって確信しているの。自転車に乗ったことがないのに、乗り方はおろか乗っている時の感覚がわかる、そんな不思議な感覚」


 木葉は自分自身のかつての感触を確かめるように彼方に語る。

 思い返せばそうだった気がする、自分にとってもう当たり前になってしまったこの能力の始まりは適応者になってしばらくしてある日突然気がついた。

 私には「それ」ができると。


「彼方の『回避』はそういうことじゃないの?」

「ごめん。本当に僕分からなくて、できると思ったこともないし勝手に体が動いているというか、気がついたら避けていたりするだけなんだ。びっくりして反射しているだけな気がするよ」



 お互い15歳で適応者になって横須賀クラスに集められている身なので、決して長い付き合いであるわけではないがこの数ヶ月で彼方が嘘を言うようなタイプではないことは木葉は確信していた。

 彼方の言葉に嘘はない。

 つまり、彼方は回避をコントロールしてなければ、自覚もできていない。


「こいつの努力は本物だ」熊野が木葉をまっすぐに見て言葉を紡いだ。だから嘘をつくような奴じゃない、と言外に熊野も言っていると木葉は感じた。

 熊野はゆっくりとした言葉で続ける。


「つまり、まだ恩恵が出てないか、もしくは珍しい『そういったタイプ』なのか、と言うことだ」


 強制的な常時発動型。

 オンオフの存在しない無自覚で自動的な恩恵。

 木葉が薄っすらと可能性としてを考えていた彼方の恩恵の正体だ。熊野も同じような結論に達しているようだった。

 横須賀クラスではまだ自動的に常時発動している恩恵能力が発現した記録はない。情報が制限されており、海外の事例はわからないがおそらく世界的にもかなり珍しい部類になる。

 彼方の出自がかなり特殊だと考えると有り得なくもない。

 本人はあまり語らないが聞いた所によると、彼方はたった一人で3年間、外敵に囲まれた特忌区域で生き延びた過去を持つらしい。


 しかも適応者になる前の7〜8歳の頃のほんの小さな頃からの3年間だ。


 捕食者がはびこる過酷な環境で一人忍ぶように生き延びたのだとしたら、常時発動型の自動的な恩恵が発現しても不思議ではない。


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