第11話 御殿場箱庭訓練②
聡明は少しクラスの反応を伺うようした後、言葉を続けた。
「皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、かつて御殿場の箱庭訓練は事故があり現在は横須賀クラスの訓練メニューには組み込まれていません。ただ、幸いタイミングよく富士山麓ホールではちょうど手頃な外敵の出現傾向が続いていてリスクもかなり抑えられる形です。また、今回は外特機動隊からも先鋭メンバーを帯同させてイレギュラーに備えます。中隊の中でも主力の実力者たちですから、安心してください。おそらくここ横須賀の武山駐屯地に突然ホールができて君たち訓練生だけで駆除にあたるより、『中隊が帯同している御殿場』の方が安全だと思います。私自身も御殿場には帯同します。そして、他のメンバーにも今日は来てもらっています」
聡明を教室の後方を指すと、いつの間にか3名の外来天敵特別機動中隊、通称・外特機動隊のメンバーが並んでいた。
聡明の紹介に合わせてそれぞれが一言づつ挨拶をした。
「みんな、よろしくね〜。丈二郎ガルシア八雲だよ。なんかあったらすぐ僕が助けにくいくよ〜。あと、ゲームとかお菓子持っていくから夜はみんなでパーティしようねぇ」と先ほどの作務衣の男、丈二郎ガルシア八雲が軟派な雰囲気でヘラヘラと手を挙げた。
その八雲の横には一際小柄な女性が立っていた。
「こんにちわ。高千穂 絢です。頼りにならないと皆んなからは見えるかもだけど、みんなのためになれるように頑張るね。」とおっとりと話した。
150センチくらいの小柄でショートカットな風貌も手伝ってクラスの生徒だと言われた方がしっくりくるほどの幼い雰囲気だ。
高千穂絢。確か、藤特等の同郷の同期で、藤特等と同じ最初の世代の一人。
日本における最初の女性の適応者と言われる人物だと木葉は思い当たる。
「みんな、よろしく。磯前 豪太だ。豪太って呼び捨てで呼んでくれてかまわねぇよ。特等とか、八雲さん、絢さんとかに言いづらい事とか、なんか困ったことあればすぐ俺に言えよ。お前らの安全は俺が保証する。頑張ろうな」磯前豪太は二人とは異なって筋骨隆々の大柄の男だ。
藤特等と同じくらいの高身長ながらプロレスラーやボディビルダー顔負けな鍛え上げられた筋肉を身に纏っている。まるでアメコミにでてくるヒーローのような分かりやすい強さを体現した肉体だ。
「鉄壁の豪太」と言われる、初期世代の豪傑と木葉は過去噂に聞いたことを思い出す。
いずれも藤特等が言うように国内でも指おりの適応者が帯同することに木葉は安堵と逆の緊張を感じた。しっかりと自分の存在意義を証明しなければならい、と。
その後、三人一組の班に分かれて今回の御殿場研修が行われることが告げられ、班分けの布陣が藤特等から発表された。現在の横須賀クラスは総勢15名なので5組の班に分かれることになる。
木葉は先ほどの口論の発端となった戸隠彼方と同じ班を組むことになった。
もう一人は熊野 仁之助だ。
彼方はともかく、熊野は無骨で無口ではあるがクラスでも実力者の一人と言われる大柄の17歳だ。
木葉より1歳上の先輩になり、トラブルとなった伏見と同学年にあたる。
ただ、伏見とは対照的に他者に干渉することもなく粘り強く鍛錬を続ける職人肌というか、普段から周りを率先として引っ張るリーダータイプではないが何かと頼りになる先輩だ。
木葉としても、そのストイックさを含めて尊敬の念をいだいていた。
木葉は教室の後方を振り返る。窓際後方の一角で伏見が振り分けられた同班の2名となにやら話している。
同じ班になったのは伏見と同学年の女子の鳥海 麻子、木葉と同学年の最下級生である大山 景次だった。
伏見はギャングのリーダーのように机の上に大股で座り、その周りの椅子に配下の子分のように班員の2名が座る。
伏見は二人に対しなにやら細かく指示をしているようだ。
木葉が見ていることに気がついたのか、伏見がこちらに目線を上げた。
それに釣られて他の2名も木葉を遅れて見た。伏見がこちらに聞こえない小さいな声で何かを二人に伝えて、ニヤリと口元を歪めた。
木葉は背筋が寒くなる予感がした。この訓練、ただでは終わらないかもしれない。
嫌な予感がした。