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第10話 御殿場箱庭訓練

 白兎木葉が教室に戻ると大半の生徒たちはすでに着席していた。


 普段は個が強く、個々人がバラバラというかあまり教官の命令を聞くような従順な生徒の集まりではないが、今回は全員が一様に前を向いて無駄口を叩かずに教室前方に登場するであろう人物を緊張感を持って待っているのがわかった。

 それもそのはず、藤聡明はそれくらい木葉たちにとって大きい存在だ。

 横須賀クラスの一期生にして、日本の適応者史上の最高戦力。

 外来天敵特別機動中隊・隊長の特等陸佐。

 なによりも、日本で初めて「ホール」に潜入し帰還した英雄。世界でもその偉業を達成しているのは数人しかないと聞く。

 文字通りこの未曾有の世界における「希望」そのものだ。木葉たち適応者の訓練生にとっての憧れでもあり、もっとも高みの存在だ。


 木葉も当然緊張を隠せないが、それよりも先ほどの動揺が胸を突く。


 私としたことが、まったく感知できなかった。

 自身で思い返しても、木葉は目の前の伏見との言い争いで全身が怒りにかられてまさに「臨戦体制」だった。

 言ってしまえば何があろうと瞬時に反応できるほど、「やる」つもりの体勢だった。それは伏見も同じだっただろう。

 それなのに、作務衣の男は全くの意識の外から忽然と木葉と伏見の内側に入った。

 彼に私たちを攻撃する意図があれば瞬時に二人ともこの世から消えていたであろう。恐ろしさに生唾を飲み込む。


 あれが八雲。

 藤特等の相棒にして、国内NO.2の戦力。

 いや、本当のところの実力は誰もわかっていない。

 裏切り者、蝙蝠男、軽薄、非国民。

 さまざまな蔑称がありつつも「天才」といわれる男、丈二郎(ジョウジロウ) ガルシア 八雲(ヤクモ)。『裏切り者』の所以は、彼が渋谷合同作戦までは「米軍」に所属するアメリカ人だったからだ。

 この時代にめったにない適応者の国籍転籍。しかも八雲は世界でも指折りの数・質ともにトップクラスの米軍適応者でも最高戦力の一人だったと言われ、その転籍は日米同盟間にあっても国際問題にも波及しかけたと聞く。

 それほどの実力者であるからして当然ただものではないだろうが、まさかあれほどの能力であるとは。

 木葉は改めて、初期世代の生き残りの適応者たちがいずれも怪物レベルであることを思い知った。そしてそのような実力者を従える藤特等の実力も推して図るべし、と木葉は再び緊張につつまれた。



 藤聡明が入ってきた。

 静かに教室の前方のドアを開けると先ほどと同じくゆっくりとした足取りで教壇に立った。

 すらっとした長身に銀縁の眼鏡。その佇まいは「凪」を感じさせる。荒々しい暴力的な武と正反対が故に、達人の域に達した武道への「畏怖」を感じさせる。一体彼はどのくらいの外敵をこれまでその腰に下げた刀で切ってきたのだろうか。


 「今日はみなさんに特別研修の話をしにきました。聞いたことあると思いますが、御殿場での『箱庭訓練』です。近く、同盟国が連携した大規模な作戦展開の可能性があります。自衛隊上層部としては我々適応者の戦力の底上げが必須と考えています。そこで久しぶりですが富士山麓ホールを活用した訓練で集中的に皆さんの恩恵の底上げをする計画が立案・承認されました。ご存知の通り、恩恵はその能力の開花や修練には外敵の駆除を重ねることが最も効率的です。より強力でより効果的な、恩恵のその集中的な底上げを今回の御殿場で行います」


 箱庭訓練。木葉も聞いたことがある。


 かつて初期世代の適応者に対して行われていた訓練だ。

 恩恵は当初偶発的に発露、発見されていた。やがて恩恵を発露させることや、より強力な能力にしていくためには様々なトレーニングの中で「実戦」が最も効果的である、という事実が世界各地で確認されていった。

 つまり「外敵を倒せば倒すだけ恩恵が発露しやすくなったり、恩恵が強くなりやすくなったりする」という事実だ。

 その中で各国はどうやって効率的に外敵を倒すのか、というのが適応者訓練での命題となっていった。

 日本においても試行錯誤がなされたが、その過程で生まれたのが『御殿場箱庭訓練』だ。


 通常ホールというのは、ある程度の傾向を伴った外敵が出現することがわかっている。

 例えばAというホールではBやCやDという外敵が基本発生する、という形だ。

 ただ、それは単なる傾向でしかなく、突如として強大な外敵Xが出現したりすることもあるので「倒しやすい外敵しかでない」ホールというのは基本存在しない。

 その中で富士山麓ホールは少し特殊で「標高」によって出現する外敵に違いが出ていることがわかっている。

 富士山麓ホールは山頂付近のホールを中心に静岡側に傾斜しながら富士山全標高全域をほぼ特忌区域にしている。

 この特忌区域では非常に強力な外敵が複数体確認されているがそれはホールである山頂付近からの一定距離を離れることがほぼなく、標高下部の御殿場付近では攻撃力の非常に低いゼリー状の外敵の出現率が非常に高いことで知られている。

 逆に強力な外敵がその標高に降りてくることが事実上ない。よって自衛隊はこの富士山麓特忌区域御殿場エリアを「箱庭」として外敵に対する様々な訓練・実験などを行っている。


 かつてこの特性に目をつけて、恩恵が発露しなかったり、発露したばかりの適応者訓練生を箱庭で集中的に外敵の駆除を行う訓練を行っていた。

 それが「御殿場箱庭訓練」だ。


 ただ…と木葉は思い当たる。上手い話にはオチがあったはずだ。

 ある程度は狙い通り駆除しやすい外敵だけと会敵して駆除することで、御殿場では恩恵訓練の効果を上げていたというが、ある時「イレギュラー」の外敵が発生して訓練生に壊滅的な被害が出てしまい、それ以来箱庭訓練は中止されいているーーと木葉はクラスの仲間内の噂で聞いていた。

お読みいただきありがとうございます!ここからキャラクターが増えて、異世界、ダンジョン、モンスター要素が始まってきます・・・!ぜひ、応援・ポイントをよろしくお願いいたします!

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