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婚約者が性格最悪すぎるので、わたしも全力で毒舌返しします!  作者: ぱる子


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第12話 婚約継続宣言①

 翌朝、王都の社交界は昨夜の事件について大騒ぎだった。


 フェリクスやクラリッサが二人の婚約を破談に追い込もうとした陰謀は、あっという間に噂になり、いまや誰もが「まさかあの二人がこんな形で逆転するとは」と驚愕し、あるいは(あき)れ、あるいは興奮している。


 それもそのはず、公の場で名だたる貴族たちを前に、カイルとレティシアは揃って敵を追いつめる華麗な連携を見せたのだから。仲が良いとも言い難い二人が、絶妙なタイミングで毒舌を繰り出しながら、陰謀の証拠を次々と突きつけていく様は、周囲にとっても衝撃だった。


 その後、伯爵家と公爵家は大きく揺れながらも、どうにか「婚約継続」へと再び方針を固めつつある。しかし、その最終宣言をどこで行うかが問題になった。両家の親は何度か話し合いを重ね、「せっかくだから盛大に宣言してしまいましょう」という考えに至ったようだ。


 もっとも、当の二人は「大仰なセレモニーなんてやってられない」と内心思っているのだが、あれだけ派手に陰謀を暴いたせいで、周囲がそっとしておいてくれるわけもない。結局、この日の午後、貴族たちが多く集まるお披露目の席を用意して「婚約は継続される」と発表する運びとなったのである。


「はあ……わたし、こんなの聞いていないんだけど」


 伯爵家の応接間にて。ドレスを選びに来た仕立て屋と使用人が大慌てでレティシアを飾り立てている。彼女は苦い顔を浮かべながらも、仕方なく腕を通されるが、気分は乗らない。


 真っ白なレースをふんだんにあしらったドレスが美しいことに異論はないが、それを身に着けるイコール「婚約者としてこれからも堂々と生きていく」ことを周囲に宣言するようで、わずかな戸惑いを抱えずにはいられない。


「レティシア様、こちらをもう少し絞りましょうか?」

「ええ、任せるわ。……ああ、本当に嫌になる。どうしてわたしがこんな大勢の前で恥をかかなきゃならないの」

「そ、そのようにおっしゃらずに。お似合いですよ。皆さま、きっと目を奪われることでしょう」

「目を奪われなくていいから、そっとしておいてほしいだけなのに」


 使用人たちは気まずそうに笑う。実際、この宣言の場がなければ、先日までの破談騒ぎを完全に鎮めるのは難しかっただろう。しかしレティシア本人にしてみれば、面倒でたまらない。


 とりあえず着替えと髪のセットを終え、鏡に映った自分を見下ろす。光沢のある白い生地が肌を引き立て、金色の髪をシンプルにまとめあげた姿は、まるで式の当日を思わせるほど優雅だが、微妙に不服そうな唇の形で台無しだ。


「……あなたも少しは頑張りなさいよね、カイル」


 とは言え、こうして形だけでも婚約継続を宣言しないことには、伯爵家と公爵家の立場も宙ぶらりんになってしまう。それをわかっているからこそ、レティシアは大人しく従っているのだ。


 一方、ほぼ同じ時刻、公爵家の邸宅でも同様の慌ただしさが起きていた。カイルはどこか冷ややかな面持ちで礼服を身にまとい、使用人に髪を整えられている。


「……面倒くさい。こんな式典じみた場に興味はないと言っているのに」

「ですが、カイル様。こちらの継続宣言で、今後の婚約の扱いが公式になりますから」

「公式ならとっくになっているだろうが。勝手に騒いで破談だのなんだのほざいたのは向こうじゃないのか?」

「そうはおっしゃいましても。今回、周囲の誤解を完全に解くためには、多少オーバーに振る舞うほうが効果的です」

「…………」


 納得いかないまま、仕方なくカイルは礼服のボタンを止めていく。漆黒の生地に銀の刺繍が施されたデザインは、彼の冷徹な印象をさらに引き立たせる。普段から器量よしと言われる彼だが、こうしてしっかり装われると、どこか神々しさすら帯びる。


 しかし当人はまったく意に介していない。むしろ「どうせ一人で着飾っても無駄だ」とすら思っている。どうせなら、あの毒舌な娘――レティシアがどんな姿で現れるかのほうが、多少は興味がある。


「ふん……あいつ、どうせまた嫌味を飛ばしてくるんだろうな」


 それを想像すると、なぜか口元がわずかに緩んでしまう。カイルは慌てて無表情に戻し、さっさと応接室へ向かった。そこでは父親が待ち受け、「これから伯爵家の屋敷で宣言の場を持つ」と穏やかに言い含めてくる。


 カイルは面倒そうにうなずくが、そのまま馬車へ乗り込み、伯爵家へと向かった。

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