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夜はまた今度  作者: 下田尚志
道永蓮の昼
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道永蓮の昼6

 体に強い寒気が走り、目を開ける。便器に座ったままの状態で制服がびちょびちょに濡れていた。滝に飛び込んだみたいだ。体から雑巾のような、濡れた埃の匂いがする。いじめられたきっかけの夢を見て、起きたらこれって。……最悪すぎる。

「ハハハハッ逃げてんなよ!」

「一緒に遊ぼうぜ〜道永くん!」

 あの二人がやったのか。くそ、これでまた教室で目立ってしまう。匂いで更に女子に距離を置かれることだろう。まあ、もうどうでもいいかそのくらい。

 僕はトイレの扉をゆっくり開ける。隙間から逃げられるように。だが途中からは勝手に開き、あの二人が入ってくる。

「まあ汚い! こんな姿のままじゃみんなに嫌われちゃうよ!」

 片方がおかま口調で叫ぶ。

「まあ汚い頭! 早く洗って綺麗にしてあげなきゃいけませんわ!」

「そうねっ早く綺麗にしてあげましょう」

 便器の蓋が開けられ、後頭部を中に入れられる。ある程度力のある男子二人に押されているため、いくら力を入れても抵抗できない。後頭部から入れられているのと、中が水だけだったのがせめてもの救いだ。排出物があるところに突っ込まれたときに比べてダメージが少ない。あのときは口の中に少し入ってしまって、すぐその場で嘔吐してしまったし。

 筋肉が痛い。無駄に抵抗しようとしたせいで、張ってしまったのだろう。それに思いっきり便器に押し付けられたせいか、ぶつかった首が痛い。本当にこいつらめんどくさい。

 何度も頭を出し入れされ、便器内の水が弾ける。雫が顔にもぶつかり気持ち悪い。何度か鼻や目にも入ってきている。

 抵抗も面倒臭くなり、されるがままになっていると、チャイムが鳴り始めた。

「やば、五限始まる!」

「行かなきゃ!」

 二人はその場からすぐ離れ、走って教室に行った。途中水道の水が流れる音がした。あれだけ僕のことを洗ったんだしな。綺麗好きなんだろう。

 態勢を整え、便器に向き直して溜息をつく。

「全然泣かないよな」

 夢で響いた低い声が聞こえ、振り返る。飛鳥くんだ。いることに全く気付かなかった。

 髪の毛は短く、立てておでこを晒している。吊り目気味で、何を考えているかわからない僕にとってはいつも怒っているように見える。体格は僕よりは良いが、だからと言って「強靭な男」というほどがっしりしているようには見えない。

飛鳥くんはこちらに目を向けず、どこか遠いところを睨みながらただ立ち続ける。

「行かなくていいの?」

「あのときは嫌ほど泣いてたのに」

 飛鳥くんは僕と会話する気がない。いつもそうだ。飛鳥くんは僕と接しようとしない。どこまでも彼自身の気持ちを隠し続けてくる。

「気色悪い。辛そうな顔してるだけで本当は辛くないんじゃねーの」

 結局僕の言葉には全く反応してくれず、そのまま教室に戻っていった。

 そして、頭をびちゃびちゃに濡らした僕だけが残る。

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