秋頭空也の夜中7
死ね
辛かった。自分の存在意義がなくなった世界が。それどころか、自分がいることで世界に害を及ぼすことが。そこでは、俺は電車内にある嘔吐物と同等の価値。存在するだけでみんな嫌な顔をする。捨てられたとしてみんなは真顔でただ流れていくだけ。それなら、まだみんなのために捨てられたほうがましだ。そう思った。
「優しさは悪意に飲まれやすい。そして間違った方向へいってしまう。だから、別の優しさに助けられるべきだと思うんです」
別の優しさ。そっか。奏音みたいな優しさ。俺はその優しさに気付けなかったんだ。優しくされてあげられなかった。
「あなたは後悔した。誤った行動をしたと。そして自分なんかでいいのかと言った。それらの考えを導き出したあなただからこそ、この役職をやるべきなんです」
俺は本当に後悔したのだろうか。正直わからない。ただ「奏音の声をもっと聞きたかった」と思っただけだった。それに、どれだけ言われても俺は殺人者だ。そんな奴が悪意から救う優しさになんかなれるわけない。
「俺は優しくない。悪意から救うなんて」
「優しさを自己評価しても、高得点は得られませんよ」
高柳さんはどこまでも俺を慰めてくれる。本当に優しいのは高柳さんだよ。初めて会ったどうしようもない奴にここまで寄り添ってくれるんだから。
「信じることが難しいなら騙されてください」
「騙される?」
手が暖かい。いつの間にか、握られていたのか。
「あなたはそのままで大丈夫です。そのままで、多くの人の側にいてあげてください。絶対に、できます」
このままの俺で、人の側に。
「本当に、このままの俺でいいんですか?」
「駄目なところがあったら私が補いますよ」
握られた右手に力を入れる。俺と高柳さんの話は、握手と俺のネガティブの負けによって集結した。こんな終わり方、なんか暖かくて大好きだ。
「……それなら、俺でもまだできそうですね」
そこからの話は早かった。人と関わる休憩場を作ろうということで、祭りを開くことになった。場所も高柳さんの神社を使ってもいいということで、本当にとんとん拍子で進んでいった。
二人で話し合った結果、この世界の住民は自殺者のみにすることにした。高柳さんの「自殺を選んでしまった者は優しい人が多い」という考えに基づいてだ。まあ、高柳さんは普通に寿命を迎えた人だけど。




