道永蓮の昼2
廊下を真っ直ぐ進み、先にある階段を登る。僕が歩こうとすると、綺麗に道が開いてくれる。
三階まで登り、階段に一番近い教室の中に入った。僕の席は窓側列の真ん中。一番目立たない最高の席だ。空気と同化できる。
机に触る。気温が下がってきたこの頃にしては案外暖かい。日差しのおかげだろう。
「まだ来ていないか」
いつもの奴らはまだのようだった。僕は安心して椅子を引き、座布団を敷いてから座る。そのまま座ってしまうと怪我することがあるので、持ち歩くようにしている。
「おっはー」
「おっは」
少しだけでも静かに勉強ができると思っていたが、早速スラムと化してしまった。ヘラヘラ笑いながら、二人組の男子が視界に入ってくる。足音がうるさい。
「おーはーよ道永くん」
「……」
「んだよ無視かよ」
僕はいつもこの二人組に話しかけられる。はっきり言って本当に邪魔だ。
こいつらより先に学校に着けただけ、今日はまだマシだった。もし逆なら、これ以上に色々な目に遭わされる。場合によっては席に着くまでが一苦労になる。
「無視は駄目ですよ〜。挨拶してやってるんだから返さないと!」
こいつらの行為は本当にめんどくさい。機嫌が悪いときは暴力も振るわれるし、「王道ないじめ」というものは大抵受けてきたと思う。流していない和室便器に頭を突っ込まれたときは、本当に学校を辞めようと思った。まさか写真をクラスのグループチャットに流されるとは。というより、そこまでのことをされてもまだ学校に通い続けているのもなかなか特殊なように感じる。
窓に顔を向け、教科書を開く。どうせ話しても話さなくても、やられることは同じだ。それなら少しでも長い時間自分のために時間を割きたい。
「無視すんなって言ってんだろ!」
片方が大きく拳を振りかぶり、僕の頭を殴った。その衝撃で窓フレームに勢いよく頭がぶつかる。こめかみが痛い。血は出ていないようだ。よかった。
少しの間手で衝突部を抑え、和らいだらまた教科書に視線を移した。
「いつまで教科書見てんだよ。バカの癖に!」
少なくとも一学年十クラスの中の十位だから、そんなに頭悪くないと思うけど。お前ら二人よりは成績いいし。
暴力は続く。物を使われないだけまだマシだ。痣ができても、肌は切れにくい。
僕は一切抵抗しない。してもなにかが変わるわけではないし、この時間はどうせすぐ終わるから。