道永蓮の昼1
今回から本編スタート!第一章は『道永蓮の昼』です‼︎
本編からは各章前書きは一話のみ、後書きは最終話のみという形で書かせていただきます。変に沢山書いてもうざったらしいですもん!
それではまず、蓮の人生を覗いてみてください。
朝、痛みと共に起きた。
狭く、ただベッドと机があるだけ。牢獄と見間違えられそうな場所だ。違いがあるとすれば、窓に格子が着いていないところだろうか。
僕は無様な姿で床に寝転がっていた。目の前には薄く貼られた埃のみ。つまらない景色だ。鼻が痛い。遠くでドアが閉じる音がする。養父は僕をベッドから落としたあとに、家を出たのだろう。
ベッドによりかかりながら立ち上がり、関節という関節をできる限り伸ばす。葉擦れのような音が耳に篭る。
勉強机の椅子に座る。机の上にあるテキストを整頓し、数学と化学を近くに置いた。そして、数学の問題を解き始める。勉強は案外嫌いではない。知らないことを知れるのは楽しいし、問題が解けたときは嬉しくなる。ただ、自由にやりたい。他にも好きなものがあるし、そちらのほうにも時間を使いたい。しかし親は強制してくる。いついかなるときも、勉強勉強だ。
僕の家は所謂お医者一家だ。代々ほとんどの人が医療関係者を務めていた。そのため、なれなかった者は落ちこぼれ扱いされてしまう。養父も養母も、僕を落ちこぼれにしないために必死になっているのだ。
「はぁ」
溜息を吐きながらページをめくる。数学は得意だが、公式の意味を理解しないと気が済まないため付箋が異様に多くなってしまっている。今日は化学の勉強できなさそうだ。
二ページほど問題を解き終わると、視線をぶらさずに鞄の準備をしていく。持ち帰る量が多すぎて、いつも肩が痛くなる。本当はもっと置いていきたいが、親がそれを許さない。そんなに詰め込みまくっても意味が無いと思うのだけど。
準備が終わり、ブレザーの面倒臭い制服に着替え、テキストを持ちながらリビングに入った。今日はもう養父はもう行った。これ以上怪我を増やさなくて済む。よかった。
リビングに入ると、木製テーブルにゆっくりともたれかかる。冷たく乾燥したザラザラ触感がなんとなく心地よかった。復習のために早起きしているし時間に余裕もある。少しのんびりしよう。
椅子に置いた腰はとても重たかった。動かすには一苦労かかりそうだ。これを持ち上げた先に向かう場所は害悪組織。持ち上げる気も起きない。中高一貫の私立進学校だからか、自由気ままに勉強をしたい僕に合わなすぎる。有名大学に進める確率が高いというだけで勝手に入れられてしまったが、正直辞めたい。
テーブルに手を置き、指を泳がす。丁度掌のあたりに不自然な傷があった。
「やっぱり、こっちも嫌だな」
僕は重い腰をむりやり持ち上げ、すぐに家を出た。
自分のマンションから駅まではほぼ一直線の道のり。朝に歩いてもなんの変哲もない景色だ。ただビルやマンションが立ち並んでいるだけ。人間の都合に合わせて自然を全て遮断したもの。面白さが全く無い。
まあ、全てというのは言いすぎか。一応「残していますよ」と言わんばかりに木も生えている。ただとても窮屈そうだ。人間に置き換えたら、酸素カプセルに生涯閉じ込められているようなものだろう。こんなもので自然を生かしてると言い張る人たちがアホらしい。
足の筋肉がだんだんと締まっていく。ここまでの道のりはなにも意識せずに歩けていたが、そろそろ限界らしい。歩き始めて十分というところか。坂がキツいというわけでもないのにここまで弱いだなんて、自分が不甲斐なく思えてくる。
駅までの所要時間は十五分。そこから電車で十分運ばれる。そこから学校までは普通の道のりだ。特徴があるとすれば、大学の目の前を通るということくらい。進学校の横に置くにはまあまあレベルが低い大学だ。割と小さく、正直威厳が無いと感じてしまう。図書室を使うために通っていることもあって気に入ってはいるが。
大学を通り過ぎ、更にその先の公園を越えたところに学校はある。
自己主張強く配置された校章が日光を反射し、僕の目を焼いてくる。残像が生まれ、目で追いかけながら片手間に歩いた。
警備員の前を通りながら校舎に入り、下駄箱を開ける。靴を入れたあと、すぐに閉めて歩く。
適当に散策する。いつもはゴミ箱やバケツとか、なんの捻りもないところにあるが、今日は一癖あるらしい。固い用具箱の扉を開けても上履きはなかった。
「うっわ! なにこの汚い上履き!」
そうか。女子の下駄箱に隠されていたのか。見つからないわけだ。
「ごめん、それ僕のだ」
目を合わせずに平謝りをする。すぐに膝めがけて上履きが投げられ、地面に落ちる。砂と埃が混ざったような吐き気を催す匂い。これだけ離れていても、正直臭かった。
「まじ最悪」
ネズミの死体を見ているような目だな。もういいや、今更だし。
灰色に染められた上履きを無言で取り、女子たちから離れる。後ろからまだコソコソ話が聞こえてくるが、どうでもいい。