道永蓮の夕方11
「言ってたもんね。『ただ仲良くすればよかった』って」
志村くん。ここまで僕と飛鳥くんに向き合おうとしてくれている。ここで僕が向き合わなかったら、昔の飛鳥くんと同じになる。
志村くんの肩を摑んで頭を上げさせ、そのまま背中側に押し倒す。そして腰の辺りに乗っかり、見下すように志村くんを見た。
「僕さ、いい人じゃないよ。だからどれだけ謝られても、僕のために尽くされても、志村くんも飛鳥くんも大嫌いなままかもしれない」
「……わかってる」
彼の顔が歪んだ。唇を薄く噛み、自分に痛みを植え付けていた。けど僕からの視線から絶対に逃げない。睨むわけでなく、ただひたすら僕の目を見続けた。
すごいな。今まで僕を殴ってきた人、苦しめてくれた人、そんな人の上に乗っかっているんだ。今、明らかに僕の方が上にいられている。これが彼らが今まで見ていた世界なのか。
僕は立ち上がる。そして、また志村くんの目を見る。
「でも、今になって思うんだ。殴り返していたら変わったかもしれないって」
屋上での僕は、ただ殴られるだけだった。彼が自分の心境を言わなかったように、僕も彼の行動を一方的なものにしてしまったんだ。
「僕こそごめん。飛鳥くんを一方的に悪者にしちゃって」
やっぱり、あの飛鳥くんが嫌いだ。一切こちらの話を聞かず、自分のことも話さない。そのくせに自分を押し付けようといじめていた彼が。でも、話してくれた彼はそこまで嫌いじゃない。飛鳥くんは気持ちを言ってくれた。だから僕も、彼を見習うよ。
「そんなこと……」
「もしこんなぐちゃぐちゃな僕でもいいなら、一緒に引き継がせてください」
頭を下げながら掌を志村くんに向けた。彼の呼吸音が聞こえる。とても荒い。緊張していたんだろうな。
志村くんはその手を握り、そのまま立ち上がった。そのあとも彼は手を握り続ける。更に力を入れて。
「ありがとう。……本当に、本当に今までごめん。ごめんなさい!」
彼はいつもより高い声で、しゃっくりをしながら謝罪していた。こんな志村くんは初めてだ。人間臭くて、正直ちょっと惨め。でもだからこそ、関わりたいとも思う。
「なんか、変な感じだね」
「そうだな」
二人とも、気持ちの悪い笑顔だ。それが作れる相手を、案外早く見つけることができた。もしかしたら、もっと早くできたのかもな。まあ、もういい。タイミングがどうであれ、見つけられたのだから。




