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夜はまた今度  作者: 下田尚志
道永蓮の夕方
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道永蓮の夕方10

「道永!」

 起きたそばから大声で呼ばれた。僕をいじめていた一人、志村啓太(しむらけいた)くんだ。彼は単身で僕のところに来た。汗をかいており、明らかに部活の最中だったという感じだ。

「何してるの?」

「謝りにきた。お前に」

 いきなりの手のひら返しだな。昨日の今日でこれなんて。正直ムカつく。さっさと突き放して別の所に行きたい。けど、今は空也さんのアドバイスに従おう。志村くんのことをしっかり見よう。

 志村くんは僕の近くまで来て正座をし、手も床につけて頭を思いっきり下げた。頭は勢いよく地面にぶつかっていたが、動じずそのまま喋り出した。

「道永、本当にごめんなさい。もちろんこんな形だけのもので許してもらえるとは思っていないけれど、形だけでもまずはちゃんと謝らせてください」

 本当に律儀だ。僕を一年間ほど甚振ってくれた人。でも、飛鳥くんが死んでからのここ数日で、彼がただの悪人ではないことがわかった。あれだけ思いの丈を苦しみながら叫んでいた人が、こんなことをしているんだ。その行動だけで、彼の謝罪は信じられる。

「それと、こんなの虫のいい話なのはわかっているけれど、……道永、お前の友達にならせてください」

「……」

 かなりご都合主義な言い分だ。その行為にどんな意味があるかもわからないし、場合によっては嫌悪感が復活しそうな言葉。

 僕は志村くんの目の前で正座をし、真面目な顔で向き合った。

「なんで?」

「俺は、海斗のやりきれなかったことを引き継ぎたい。友達としても、共犯者としても」

 飛鳥くんのやりきれなかったこと。きっと沢山あっただろな。どこかに消えた彼は、限られた時間の中で、僕に思いの丈を吐くことだけを選んだ。きっともっと沢山やりたいことはあっただろうに。

「道永に罪滅ぼしをすること、道永と向き合うこと、道永と友達になること。それを俺が引き継ぎたい。だからお願いします。今までのことをチャラにしたいなんて言わない。信用できないなら信用してもらえるまで努力する。お願いします!」

 また頭を下げられる。友達って、こんな土下座されてできるものだっけ? よくわからないや。でも、今までの彼、今の彼を見てわかる。志村くんはきっと、本当にいい人だ。いじめっ子に対してこんなこと言いたくないが、いい人なのだからしょうがない。これが、見ていくということなのか。

 考えた。本当に許していいのか。いくらいい人でも、僕を苦しめた人なんだ。でも、ここまで言っているんだもんな。その努力を見るくらいしてもいいか。

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