道永蓮の夕方7
「蓮。いじめが無くなってせっかく余裕ができたんだ。物騒なもん通さず、直接世界を見ようよ」
「意味無いよ! 誰も僕を見なかった。視線がこっちに向いても、違いを嫌悪するだけ。助けを乞いても無視する。そんな人ばかりの世界を見て何になるの⁉︎ そんなののせいで僕は否定されて邪魔される。壁を見続けたところで意味なんて無い!」
みんなそうだ。僕をネズミの死体を見る目で見てくる。酷い目に遭っていてもいつも悪者扱いは僕に対してだ。それで無視するだけならまだしも、やりたいことの邪魔までしてくる。そんなんばっかの世界を見てなんになる!
「意味なんてどうでもいい! ただ、見えない死後より、見える現実をまず大切にしてほしいんだよ‼︎」
空也さんの叫び声、初めて聞いた。まるで子供が癇癪を起こして出したワガママのような。そんな自分勝手でしかないセリフが、酷く心臓を潰してきた。
少しの間のあと優ちゃんは横で膝を着き、両手を僕の肩に置いた。
「レンくん。……知ってる? 私、生きてたんだよ?」
僕の肩を揺らしながら優しい声で話し出した。そんなの知ってるよ。当たり前だ。
「私もカイくんも空也さんも、みんな生きてたんだよ?」
「知ってるよ」
「みんな見てたよ?」
「……」
食い気味の主張に言葉を失う。確かに、みんな見てくれていた。空也さんは嘘の無い「ニカッ」って笑顔で見てくれていた。優ちゃんは太陽のような笑顔で見てくれていた。飛鳥くんは……。
「あっちの世界でも見てくれる人はいるんだよきっと。もっと広く世界を見れたら、見つけられるはずなんだよ」
「嫌だよ。もうやだよ」
周りが嫌なだけじゃない、自分も嫌なんだよ。現実を見て、更に自分を失うかもしれない。自分の感情の乏しさに気付くかもしれない。それが怖くてたまらない。
「レンくん。私ね、後悔したんだ。『現実で二人に会いたかった』って。私を曝け出して受け入れてくれる人がいるって知って。それをなんで見つけられなかったのかなって。もし、現実で曝け出せてたらって」
優ちゃん、それは優ちゃんだからだよ。本来の姿が、人を惹きつけられる優ちゃんだからだよ。




