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夜はまた今度  作者: 下田尚志
二人の夜
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飛鳥海斗の夜中9

 体が動くようになった。薫と名乗った死神はまだそこから見ている。監視のためだろう。

 すぐに道永に駆け寄り、両肩に手を置く。勢いに任せてしまい、力強く掴んでしまう。

「お前はまだ死ぬなよ。死んだあとの後悔ほど、やるせなさが残るものはない。せめて、後悔なくしてから死ね」

 道永は唇を強く噛みながら泣いている。この道永の表情が意味しているものは、正直よくわからない。でも、少しでも、道を示せたらいいと思う。

 俺は立ち上がり、二人を見た。

「お前らも、達者でな」

「……」

「……」


 そして、死神の下へ進む。俺はきっともう、『夕方世界』にも帰れない。もう、指原にも、空也さんにも、道永にも、二人にも、会えない。でもよかった。後悔のほんの少しだけでも拭ってから行くことができて。

「行きましょう」

 死神は冷たくそう言って歩き出した。三人を見るのをやめて俺はついていく。

 女性は左腕を横に構え、それをくぐるように右腕を持ち上げた。それと同時に世界が一気に変わる。立体感が無いというか、カラフルな線が集まっているというか。まるで、『ムンクの叫び』の絵の中に入り込んだみたいだ。

「こちらです」

 死神は止まらず進み続ける。この世界がなんなのかも説明せずに。まあきっと、そこまでいいところでもないのだろう。

「あなたは、」

「え?」

 突然、死神が声色を変えて話しかけてきた。明らかに雰囲気が違う。悲しみが籠っていて、しっかりと人間のような声だった。

「あなたは、後悔を残しませんでしたか?」

 ……きっとこの人も、死んで後悔したことがあったんだろう。自殺を犯したのかどうかまではわからないけど。

「多分、残してます。後悔の全部までは把握できていないので」

「そうですか。残念です」

 同情をしてくれている。この人も、きっと優しい人なんだろう。

「でも、一番なんとかしたかったことができた。それだけで俺は十分です」

「……なら、よかったです」

 世界がまた変わっていく。見たことのあるところに飛ばされていた。


 ここは、真っ白い面接会場。神神神と会話したところだ。

「ヤー! こんなにすぐにまた会うとは思わなかったヨ」

 またこいつと話さなくちゃいけないのか。正直、生理的に合わないんだよな、この中年太りおっさん。

「まあ、今回は前回と違って至って真面目だけどね」

 これから俺に課せられる罰が発表される。しっかり受けよう。それが俺の使命だから。


「君には……これから死神になってもらいます」

「二人の夜中」最後までお付き合いくださりありがとうございました! そして遂に次が最終章となります(エピローグもありますのでそちらは16:30に投稿します)。

 ここまで変わっていった登場人物たちが蓮に対し、どのような影響を与えていくのか。どうか最後までお付き合いください。

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