飛鳥海斗の夜中8
「親に見てもらいたかったんだ、俺。見てもらえているお前が羨ましかったんだ。それだけじゃない。才能を持ったお前に、頭のいいお前に、かっこいいお前に嫉妬したんだ」
あのとき、屋上で言うべきだった言葉。拳より届けなくてはいけなかったもの。本当に、遅すぎる。
「もし、俺たちの立場が逆だったら、幸せだったかもな。お前は親を気にせず自由にピアノが弾けて、俺は親に期待されて必死に努力して。それだったら、お互い生きたいように生きれたのかもな」
「飛鳥くん……」
そうしてくれないなんて、神様は本当に最低だ。あの神神神って奴が原因なら、すぐさま殴り飛ばしてやりたい。
「変な嫉妬なんかせず、仲良くすればよかったな。俺と、お前と、指原と。三人で仲良くなれたかもしれないのに」
指原とお前と俺は、他の人からしたら変わり者だろう。マイノリティーで、他の人から蔑視されるであろう存在。そして、みんな、親に本来の自分を見てもらえなかった存在。親に否定され続けた存在。きっと、気が合っただろう。
「お前と、ただ話せばよかった。そうすればよかった」
これも、俺の後悔の一つだ。俺は道永に憧れていたんだ。環境や能力だけじゃない。厳しい環境でも自分を貫こうとしていることに。そんな憧れが嫉妬に変わり、仲良くなる未来は消え失せた。なんでできなかったんだよ。あのとき、道永の自殺を止めたとき、俺も自分の話をしていたら、変わった未来があっただろうに。本心を話せていたら。
「死んで、後悔することばっかだ」
なんで死ぬまで気付けなかったんだろう。後悔したときに、直す手段が無くなっていたら意味がないのに。
「初めまして」
突然誰かの声がした。俺は驚いてそちらを向く。他の三人は全く反応をしていない。俺にしか聞こえていないのか?
声を発したのは、スーツを着た女性だった。長い髪を綺麗にまとめ、姿勢正しく立っている。
「私は死神の花垣薫と申します」
俺が死んだとき、神神神に提示された役職の一つ「死神」。それを勤めている人か。
「あなたはルールを犯した。このまま現世にいられたら困る。私がこの場であなたを連行します」
「っ……」
声が出ない。体も動かなくなっている。何もできない。
「今、あなたの行動を制限しています。そうしないと、私の存在もバレてしまいますから」
死神ということは、この人も死者。そう簡単に姿を見せるわけにはいかないということか。それに、死神という役職があることも隠したいのだろう。
「あなたの発したい言葉は伝わるので安心してください」
そうか、それなら安心した。だったら、お願いします。俺は、せめてあいつらにあと一言だけ言いたい。死にたいと思わせる原因となった俺だからこそ、最後に、生きる道を小さくでも、作りたい。それさえできれば、地獄でも、それ以下でもどんな所でも行く。だからお願いします。どうか、お願いします!
「……少し、来るタイミングが早かったかもしれませんね。あと一分も時間はあげられませんが、最後に一言だけなら」
ありがとうございます。




