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夜はまた今度  作者: 下田尚志
二人の夜
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飛鳥海斗の夜中6

 出たところは大学の前だった。俺の高校から歩いてすぐの場所にある小さな大学。ここからならあまり目立たずに行けるだろう。

 左を向いて目的地に向かう。大学を抜けた先にある、いつも道永を苦しめていた公園。

 近づいていくほどに、枯れて耳が痛くなるような声が聞こえてきた。啓太と玄弥の声だ。まだ、あいつらが道永に何かをしているのだろう。

 公園に着き、覗き込む。あいつらは、ただひたすら暴力を振るっていた。おそらくなんの計画も無い。ただ、殴って蹴っているだけ。感情をぶつけているだけに見えた。

「や、……」

 あまりの勢いに、道永は声も出せなくなっていた。俺はいつも、こんなことをしていたんだな。今までと同じような立ち位置から同じような光景を見ている。でも、感じ方はガラッと変わってしまった。

 ある程度攻撃したあと疲れたのか、二人は動きを止めた。その隙をついて、道永は啓太を押し倒す。

「なんで、なんでこんなことするんだよ! いい加減にしろよお前らにこんなことされてる暇なんかねーんだよ!」

 道永は枯れた声で叫ぶ。すでに喉を潰しているのだろう。鼓膜に醜く響き、耳が痛くなる。あの綺麗なピアノを演奏していた奴が鳴らす音とは思いたくない。

「うるせえ! お前が自分勝手で傲慢だからだろうが!」

 押し倒された啓太も叫び出す。啓太はすぐに体制を直して殴った。それに対して道永も応戦する。

 道永が、殴ってる……。抵抗こそしていたものの、ここまで大きく殴り返すような奴ではなかった。それに、口も悪くなっている。こんなに感情を表に出している姿は見たことがない。

「自分が一番辛いみたいなふりしやがって、気持ち悪いんだよ! その上自殺しようとか可哀想アピールかよ! お前はなんでいつもそんななんだようぜえな!」

 どちらも恐ろしい形相だ。こんなに声を上げて、公園の外でも聞こえてくる。それなのに誰も止められないのは、この緊迫した空気のせいか。きっと大人数名が入るだけで、誰かが呼んで警察が来るだけで、たったのそれだけで状況は変わるだろうに。本当に、見てくれないんだな。

「お前らに何か言われる筋合いなんてない!」

 醜い光景だ。最近、色々なものを見てきた。綺麗な世界、輝かしい笑顔、優しさ。それに並んで初めて見たものはこの景色か。


「頑張って頑張って頑張って頑張って成果を上げて! それでも認めてもらえなかった人だっていたんだ! お前は違うだろ? 頑張れば認めてもらえたのに逃げただけだ! 努力もしてないくせに偉そうに可哀想ぶるな!」


 ……あいつらは、俺のことを思ってくれていたんだな。「一人ぼっちじゃないから」っていうのはこのことか。くそ、こんなときなのに、なんで嬉しくなってんだよ。それに、異様に胸が痛い。息が荒い。あいつらにそんなに見てもらえていたのに、一番欲しいものをくれていた友達がいたのに、こいつらを捨てて死んだのかよ俺は。罪ばっかり残して死んでたんだな。本当に最低だ。気持ち悪い。

 俺は公園に足を踏み入れた。

「あいつは頑張っていたのに。あいつは、お前なんかと比べ物にならないくらいに努力してたのに‼︎」

「もういいよ啓太」

 啓太と道永の間に入り、二人を引き剥がす。そして、みんなの顔を見た。みんな、息を切らしながら泣いている。暴力と、涙による疲れが目に見えてわかった。そしてみんな、目を丸くして俺を見ている。

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