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夜はまた今度  作者: 下田尚志
プロローグ
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プロローグ

初めまして。尚志です! これから『夜はまた今度』という作品を載せていきたいと思います! 是非お付き合いいただけると幸いです!

(ちなみにプロローグだけ文字数が多いですが、プロローグなので許してください……ごめんなさい、)

 下校時、ホームで待つが電車は一向に来ない。アナウンスによると、人身事故で遅延しているらしい。まあいくら遅延しようと帰れるのならどうでもいい。というより、帰れなくてもいい。そっちのほうがいい。

 人身事故。誰かが線路に飛び出したのだろうか。いつもなら五分程度の遅延で済むが、今回は運転見合わせになっている。

 冷たく乾いた風に打たれ、みんな苛立っているだろう。仕方のないことだろうな。仕事や学校に疲れ、やっと帰れるところだったんだから。そのような人たちの中で、僕の考えていることは他とは全く違かっただろう。

 僕は、痛かったかどうかをずっと気にしていた。飛び込み自殺は痛いのだろうか。怖くはなかったのだろうか。もし怖かったなら、なぜその恐怖を乗り越えられたのだろうか。

 参考にしたかった。一番いい自殺法を知りたかった。今の僕には自殺の選択肢がある。こんなにも自由が無いのは嫌だ。家族に色々押し付けられ、学校では虐められて。生きていたいという思いは、死にたいに押しのけられていた。

 中学生のとき、自殺のニュースを見た。ある歌手がアメリカで銃を使い、自殺をしたそうだ。理由は誹謗中傷による鬱。一番すぐ死ねる楽な方法と考えた結果、銃の利用が選ばれたらしい。僕はこのニュースのおかげで「死」という逃げ場を知った。

 自殺というものはやはり怖い。どれだけ痛いのだろうか。死ねたとして、そのあと本当に幸せになるのだろうか。経験者はいない。聞くことは不可能。

 軽快な音楽と共に電車が来た。来てしまった。帰らなければならない。

 溜息を吐きながら、入れる気がしない車内にむりやり体を沈めた。この居心地の悪い乗り物は、更に辛いところへ僕を運んでいく。逃げることもできる。しかし逃げた先が絶対的に幸せである確証は無い。なにより、逃げ出せるような実行力も無い。

 家の最寄り駅で電車から脱出し、階段を下りて改札にICカードを通す。ただ向かう先を真っ直ぐ見つめて進んでいった。

 夕方五時。秋も後半に入ってきた今、この時間でも黄昏時と呼べるほどに、空が赤く染まっている。僕は背中から夕日を浴びながら、暖かく儚い色に変わった建物たちを眺めた。

「綺麗だな」

 自然が綺麗だという者もいれば、人工物が綺麗だという者もいる。僕はその二つが合わさったとき、本当に美しい景色になると思う。まさに今見ている景色だ。

無意識に指が動き出す。この景色に反応し、自動的に。今朝できた痣が何度か痛むが、そんなことを無視して動かし続けた。景色に合わせて頭の中に音楽が流れ続けている。けどその度に「痛い」と感じ、気分が下がる。本当に最悪だ。

 太陽に照らして手の甲を見る。見事に紫色に変色している。今朝殴られたときに頭を庇ってできたものだ。

僕はなんとなくビルの前に行き、壁に触れてみる。自分が前に立つことで人型の影ができた。せっかくの綺麗な景色が汚れてしまった。

「なにやってるんだろう」

 視線を動かし、本来の道の方向を向く。しかし、道は無かった。なにも無かった。平らで少しの凹凸も無い地面と、自分を照らし続ける低く大きい太陽だけ。夕方時の砂漠にいる気分だ。ただ砂漠とは違い、暑いとも寒いとも感じない。この場を形容するとき、「綺麗」以外の言葉が浮かばなかった。

「なにこれ……」

 夢だとは思わなかった。自分がしっかり帰路に着いていたことを、疑う気は起きなかった。だとしたら、

「気付かずに死んじゃった?」

 色々な自殺方法について考えてきたが、こんな綺麗でなにも考えずに死ぬ方法があるとは知らなかった。

 音が聞こえてもう一度ビルのほうを見る。そこには心惹かれたビルは無かった。その代わりに沢山の屋台が並んでいる。幅広く長い一本道を挟むように屋台が並び、先には大きな建物がある。神社だ。

 僕はただひたすらこの異質な空間を見続けていた。恐ろしいほどに恐怖心が無い。それどころか、今までで一番心音が穏やかだった。

「なんなんだろこれ……」

「なんなんだろうね……」

 自分以外の声に驚いて横を見る。僕よりも少し身長の低い男の子が、右側で屋台を眺めていた。

 サイズの合っていない学ランを着ている。僕とは違うところ、変に装飾が着いてない感じ、おそらく公立高校のものだろう。つまり僕と同じくらいの年齢なのか? ただ、その割にはあまりにも幼く見える。身長はひとまず置いておいて、顔も童顔で、なにより表情が若い。目が大きいからか、多くの光を反射してキラキラしている。この光景に感動してか口が大きく開いており、園児が初めてカブトムシを見たときのような表情になっていた。制服を着ていなかったら小学生だと思ってしまいそうだ。

「そちらもいきなりここに?」

 問いかけてみる。店員さん以外に、名前も知らない人と話すなんていつぶりか。口をうまく動かせずに、滑舌も悪くなってしまった。通じていればいいのだが。

「そうなんだ! びっくりしたよね」

 大丈夫だったようだ。先程は気にしてなかったが、高い声をしている。女子のような声とは言わないが、声変わりはまだ迎えてないように感じた。

「すごいね! お祭り、初めて見た」

 彼は袖から右手を出して屋台を指差し、話し出す。

 少し見えた白い手首には、黄色いリストバンドが着いていた。学生の割にはおしゃれしているんだな。僕が知らないだけでみんなやっているのかもしれないけれど。

「うん。凄いね。僕もこんなに凄いのは初めて見た」

 彼の明るさに、僕は敬語を失った。きっと同世代だから責められることは無いだろうが、ちょっとした罪悪感を感じる。

 それにしても、本当に異様な光景だ。目を輝かせてしまうのもわかる。オレンジ色に染められた祭りの景色。夜の祭りとはまた違う風情を感じた。

「そういえば、その首輪いいね! なんて言うんだっけ? 犬の首輪みたいなの」

「え?」

 首輪なんて着けた覚えは無い。おしゃれとは縁が全くなかったはずだし。

 首元を触る。確かに体の一部ではないなにかがあった。体温を感じられない皮のような触り心地の。

「チョーカー?」

「そうだそれ! 学生でチョーカー着けてるって珍しいね!」

 本当に珍しいな。リストバンドで驚いていた自分が恥ずかしい。

「そっちも似合ってるね。リストバンド」

「え? リストバンド?」

 彼は手首を晒し、確認する。僕と同じように驚いたような顔をしていた。

「まあいいや!」

 いいのか。まあ、僕のチョーカーよりは違和感が無い。手も隠れる大きな学ランを着ているから全く目立たないし。

 そういえば、ここまで話していて一度も名乗っていなかった。

「僕は道永蓮(みちながれん)。君は?」

 こちらから名乗っておく。この先関わることがあるかはわからないが、お互い知っておいて損は無いだろう。

指原優(さしはらゆう)。よろしくね! レンくん!」

 笑いながらこちらを向く。羨ましくなるほど無邪気な可愛さを持っていた。

「うん。よろしく優くん」

 僕も小さな笑みを作りながら返事をした。優くんは少し眉を傾かせ、寂しそうな顔をした。何かを言い聞かせるように頷く姿に、理由もわからぬ罪悪感が生まれた。

「俺も自己紹介していい?」

 二人で話していたら、見知らぬ男性が近づいてきた。

 高身長で手足がすらっと長い。顔も濃くて、少し西洋の血が混ざっていそうにも見える。まさに「イケメン」といった感じの人。黒色のオーバーシャツを着ており、耳にはピアスをしている。前髪は黒くて少し大きいヘアピンで横に止めており、広いおでこが晒されていた。

秋頭空也(あきとうくうや)。ここ『夕方世界』のまとめをやってんだ! どうぞよろしく。二人とも!」

「ニカッ」という言葉が似合うような大きな笑顔だ。駅にいたときの自分の闇を、吸われてしまったように感じる。貶すためではない笑顔。それのおかげか「この人になら着いて行っても大丈夫だ」と本能的に感じ取れた。


 この作品は私が一年以上かけて作り上げた力作なのですが、何分ちょっと長い……。なので一話1000文字程度に抑えながら1日1章分を16時に、その次の章の一話だけを16時半に、という形で載せていこうと思います。一つの章二万字いかないくらいの量なのでかなり長いですがお付き合い願えるとありがたいです‼︎

 特に2個目の章からかなり物語が動きますのでせめてそこまでは読んでいただけたら……。はい、傲りましたね。皆さんの気分で読んでいただけると幸いです!

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