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デートの終り。

「フローライト第七話です」

元旦の朝目を覚ますとベッドに一人で寝ていた。


(あれ?ここって・・・)と一瞬わからなかった。けれどすぐにその後思い出した。ここは利成のアトリエだった。


(あー・・・そうだ・・・)


またダメだったのだ。これって一生治らないのだろうか・・・。


トイレに行ってからいつものアトリエのドアを開けたら利成が絵を描いていた。それは明希がモデルになった絵だった。


「おはよ」と明希に気が付いた利成はそう言ってから、「あ、あけましておめでとうだね」と付け加えた。


「あけましておめでとう」と明希も言った。


「この絵、もう後は仕上げだから」と利成が言う。


「そう・・・」


絵が出来上がるのは嬉しかったけれど、もう利成とはお別れだと思うと寂しくてしょうがなかった。


洗面所に行って顔を洗っていたら利成が来て、「これ使って」と洗面所の引き出しから新しい歯ブラシを出してくれた。


歯を磨きながらもう絶対男の人とはつきあうのはやめようと思った。もう無理なんだ・・・。


アトリエに戻ると利成がキッチンに立っていた。


「元旦の朝はいつも何食べてるの?」と聞かれた。


「お雑煮とか・・・」


「そう。でもお餅がないからな」と棚を開けてみている。


「いい。何もいらないから」と言った。早く帰りたかった。


「じゃあ、一緒にコーヒーでも飲もう」と利成が言った。


 


利成が入れてくれたコーヒーを飲みながら明希は哀しくてしょうがなかった。翔太ともあの時別れたくなかったけれど、利成とももちろん別れたくなかった。


「明希、大丈夫?」


利成に聞かれた。


「大丈夫」と答えた。


(そう答えるしかないよ・・・)


向かい合わせにいた利成が立ち上がって明希の隣に座った。


「大丈夫なの?ほんとに?」


利成がそう言って手を握ってきた。


「うん・・・」


「・・・・・・」


利成が明希の手を少しさすった。


「明希、今日も一緒にいれる?」と聞かれて「え?」と利成の顔を見た。


「今日も一緒にいよう」


「でも・・・」


「明希は歌うまいから、カラオケとか行きたいね」


「カラオケ?」


「でも元旦だしね、やってないかな」


「ちょっと待って」と利成がアトリエの隅のテーブルに置いてあるパソコンを開いている。


「やってるけど、料金はちょっと高めだね。でもいいか」と利成が言っている。


(えーと・・・だってもう・・・)と明希の頭の中がグルグルしてきた。もう振られるのに今日も一緒になんて・・・。


「あの、もう私のこと嫌でしょ?だから気を使わないで」


そう言うと、利成がちょっと驚いたように目を見開いてから明希のそばまで来て隣に座った。


「気なんか使ってないよ。それに何で明希のことが嫌なの?」


「だって・・・あんな風に・・・」とそこまで言って口をつぐんだ。


「あのね、あれは一種のパニック障害みたいなのだよ。強いトラウマを受けてどうしてもその時のことがフラッシュバックしちゃうんでしょ?」


「うん・・・」


「だから急には無理だろうけど、治らないわけじゃないと思うよ」


「え・・・ほんとに?」


「うん、普段はどうなの?急に恐怖心が起きたりすることある?」


「ううん、ない。あの時だけ」


「じゃあ、多分だけど単純にその時の強い恐怖心が何度も再現されてるだけだから、少しずつでも良くなるよ。必要なら精神科や心療内科に行くか、カウンセリング受けるとかも有りだよ」


「カウンセリング?そんなの恥ずかしい・・・」


「明希はね、昔から我慢しすぎててそれが当たり前見たく思ってるから“恥ずかしい”なんて思うんだよ。風邪引いて病院行くのに「恥ずかしい」なんて思わないでしょ?それと同じだよ」


「そうなの?」


「そう。何でもまず我慢しないで。大丈夫じゃない時は言わないとね」


「うん・・・」


何だか狐につままれたみたいだった。もう一生こうなのかもと絶望してたのだから。


「リラックスできれば少しずつ治ると思うから、ゆっくりやろうよ」


「うん・・・でも、利成は?いいの?」


「何が?」


「だって・・・できないでしょ・・・」


そう言ってから恥ずかしくなって頬を赤らめてうつむいた。


「いいよ。待つから」


「でも・・・」


「でもはなし」と利成が笑った。


それから利成と一緒にカラオケに行った。利成の歌がうますぎてずっと聴いていたいくらいだった。なのにすぐにマイクを渡されて「はい、歌って」と言われる。


カラオケを散々歌ってから、帰りにスーパーに寄って食材を買った。利成が夕食を作ってあげるというので一緒に明希も手伝った。


「利成って何でもできるんだね」


一緒に作ったオムレツを食べながら言った。


「ただのオムレツだよ。誰でもできる」


「えー・・・前も風景画の時に言ってたけど、それはできる人のセリフだから」


「ハハ・・・そう?」


 


「そろそろ帰る」と言ったら利成が「うん、またおいでよ」と言った。利成が車で送ってくれるというので二人で車に乗り込んだ。車を発進させる前に「明希」と呼ばれたので振り向くと利成にキスされた。その後顔をじっと見つめられたので明希は恥ずかしくなってうつむいた。


「今度バンドのライブやるから明希もおいでよ」


そう言われて顔をあげた。


「ほんと?利成のバンド?」


「そう」


「えー、ほんとに?行きたいから絶対誘ってね」と言った。


「うん。明希も歌うまいんだからもっと人前で歌いなよ」


「えー・・・無理無理」


(そんなの恥ずかしすぎる・・・ユーチューブがやっと・・・)


「明希は昔から奥ゆかしいからね」


そんなことを言われた。いつも“引っ込み思案”“消極的”とは言われてたけど・・・言葉の表現一つでかなり印象が変わるなと思った。


「じゃあね」と手を振る利成の車を見えなくなるまで見送った。だんだんと翔太のことは忘れつつあった。


 

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