路傍に佇む人
世の中には不可思議なことがある。ここに紹介するのは、私の友人の奇妙な体験談だ。
―私は毎朝、始発のバスで出勤していた。一番前の左の席に座り、バスに揺られながら外の景色をぼんやりと眺めるのが常。乗客はいつも四人。顔触れは同じで、四十代と思われるスーツ姿の腹の出た男性、大学生らしき長身の男子、可愛らしい女子高生、そして自分。お互いに会釈をしたこともない。皆、他人のことには無関心だという態度でバス停に並び、バスに乗ると寝てしまうからだ。
或る月曜日、道端に太った男が黒いコートに身を包み、フードを目深にかぶって佇んでいるのが見えた。心にヒンヤリとするものを感じ、思わず目をそらした。
翌朝、気になっていたので注意して歩道を見ていた。昨日見た男の横に、長身で細身の男性が、やはり黒いコート、フードのいでたちで俯いて立っている。小さな疑問が頭をかすめた。朝早く何を待っているのだろう?
水曜日の朝、身じろぎもせずに舗道を眺め続けた。あの場所に来ると、今日はまた一人増えて三人になった。背の低い女性が加わっている。黒いコートとフードで身を包んでいるのでハッキリとはしないが、若くてしなやかな感じを受けた。同じ格好の人間が一人ずつ増えていき、皆じっと何かを待って佇んでいる様子に、得体のしれない不安を覚えた。何か引っかかる。何だろうか。職場に着いてからもそのことが頭を離れなかった。
午後、はっと気がついた。あの人達の外見は、いつも乗り合わせる乗客三人とそっくりだ! なぜよく似た人間たちが毎朝あそこに佇んでいるのだろう。いろいろな可能性を考えた。偶然、似ている三人が何かを待って立っている? どっきりカメラ? いやいや違う、何だろうか。自分のそっくりさんも加わるのだろうか?
翌朝、その場所に来るとやはり一人加わっていたが、自分ではなく太めの女性だった。四人目はこのバスの中にはいない。考えすぎかもしれない。
金曜日の朝、五人になっていた。五人目は自分の外見に酷似している! 慌てて運転席を見るとそこには中年の女性。四人目の女性と姿かたちがそっくりだ! 心臓が凍り付くような恐ろしさで体を硬くしていると、五人は近くのバス停に駆けていき、ぞろぞろとバスに乗ってきた。だめだ! バスに乗るな! 自分に似た男がすぐ横に立った。近寄るな! 頭を抱えて俯せになった。膝ががくがく震えている。いったい何者だ! 何のためにこんなことをしているんだ!
バスが交差点に差し掛かったので信号機をちらっと見ると、信号はすべてが青になっているではないか! 何故だ? その時、大通りをタンクローリーが猛烈なスピードでこちらに向かってきた。危ない、ぶつかる! 爆走してくる大型車! その運転手の引き攣った顔が見えた。この記憶が最後だ。―




