想像と違った魔法使い
叔父さんは胸を張って説明する。
「私の姪なんです。あなた料理人を探していたでしょう? 彼女はぴったりです!」
「……料理人」
「そう。なかなかあなたの気に入る人がいなかったけれど、今回こそはきっと大丈夫。しかし、またしばらく忙しかったんですか? さんざんな有様ですね。きちんと手入れをしてください」
呆れたように言う叔父さんに、魔法使いは一つ頷いた。
「忙しくて……三日ぶりの睡眠だったんです」
「それはまた。忙しいのでしょうが、こんな場所でそんな生活では体を壊しますよ。やっぱり人間、美味しいものを食べてよく寝ないと! 彼女に作ってもらえばいいんです」
私は自分の軽率さを呪った。包丁も握れないくせに、叔父さんに言いにくいからといってなぜ安易についてきてしまったんだ。初めから断るべきだったのに。
「まあ、お互い一度話してみなくてはいけないでしょう。じゃあ、私は先に帰っているよアンナ。雇用条件について詳しく聞くといい」
「え、叔父さん!?」
「君の腕前なら絶対に大丈夫だ!」
そう言って親指を立てた後、叔父さんは上機嫌でいなくなってしまった。嘘でしょう、私こんなところに置いて行かれた! 信じられない! 幽霊屋敷にフード男と二人きりなんて。
しばらく沈黙が流れ、私は汗をだらだらかきながら立ち尽くしていた。目の前のソファには、黒いフードの男がじっとこちらを見ている。私は向こうの顔が見えないのに、あっちは私を凝視だなんて不公平ではないか。
「あの、初めまして……アンナと申します」
「アンナ。家政婦は探していませんが」
この家の状態なら家政婦は必要なのでは?
「い、いえ、私は料理人として働いていました」
「……女性が?」
ぽつんと言ったその言葉に、なんだかむっとした。
確かに女の料理人は珍しいので、よく馬鹿にされたりもする。だが、顔も見せず、客人に座るよう促すことすらしない人に言われるのは癪に障った。
「珍しいでしょうが、事実です。それより、せめてあなたの顔を拝見したいのですが」
私がそう言うと、何かを察したのだろうか。彼は小さく頷きながらぼそぼそと言う。
「すみません、決して馬鹿にしたわけではないのです。私が生きてきた中で、女性の料理人に出会ったのは初めてだったので驚いただけです。フードも失礼しました」
そう言って彼は、被っていたフードをようやく取った。
その姿を見て、驚きで目を丸くした。
真っ黒な髪は肩まで伸び、意外とさらりとしていた。だが、肌は真っ白、いやもはや青白い。目の下にくっきりクマが出来ており、なんて不健康そうなのだ。そう言えば、三日ぶりに寝ていた、みたいなことを言っていたっけ……。寿命一か月の人間でももう少しまともな顔色をしているんじゃないだろうか。
だが、瞳はとても綺麗な青色をしていた。改めて見てみると、顔立ちはとても綺麗である、気がする。鼻筋もすっと通っていて、まつ毛も長く薄い唇の形もいい。カサカサで若干出血すらしているが。
想像していた魔法使いは、こんなに不健康そうじゃなかった。彼はずいぶん私の思っていた像とかけ離れている。