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 しばらくしてノアの言っていた通り第三王子が現れ、皆の前で挨拶をし、乾杯した。その後、二人は順番に挨拶回りを始める。


 第三王子は金色の髪をした、美しい男性だった。さすが王子というべきか、顔にも態度にも自信が現れて堂々としている。これがオーラというものなのか、同じ人間とは思えなかった。


 ノアと壁の方でひたすら待っていると、ようやく彼らがやってくる。私は間近で見る王子に、これまた汗がどっと吹き出して緊張しだす始末。ここで粗相したら、私の一生は終わりかもしれない、そんなことを思いながら。


「ノア! 来てもらえたんだね」


 ぐうっ。お、王子のオーラが眩しい、庶民には辛いです! 


 なんて攻撃を浴びている私をよそに、ノアは冷静に返す。普段通り、あまり表情も変わらず、抑揚もない話し方だ。


「改めまして、ご婚約おめでとうございます」


「ありがとう。それでノア、そちらの方は?」


「私の婚約者です」


「えっ!!??」


 ノアと、その婚約者が同時に私に注目する。私は再度、先ほどのように挨拶をした。


 王子は目を真ん丸にして驚きながらも、満面の笑みを浮かべる。


「やっとか! いや、ノアは全く結婚に興味なさそうだったから困っていたんだ。それはおめでとう」


「ありがとうございます」


「これで山ほどある縁談話から解放されるな」


「ええ、必要ないので」


 王子は笑って祝福してくれる。思ったより気さくで明るい人だなと感じた。王子ってもっとこう、お堅い感じの人かと思っていたけれど、どちらかと言えばウィンにテンションが似ている。


 「ところで、カルミオン……という名を存じ上げないのだが……」


 王子がそう尋ねてきたので、私たちは一瞬黙った。


 さっきはスルーしてしまった疑問だが、さすがに王子相手に無視はできない。ノアを見てみると、彼は少し考えているような顔をしていた。誤魔化そうか、正直に言おうか悩んでいるのかもしれない。


 少しして、ノアは意を決して言った。


「彼女は貴族ではありませんから」


「え?」


 王子が驚いた顔で私を見る。同時に、周りの人々も私たちに視線を集めた。そんな視線から私を庇うように、ノアが少し前に出る。


「私だって貴族ではありませんからね」


「まあ……それはそうだけれど、君の場合は話をさんざん蹴ってきたからで」


「なので私と同じです。今日は紹介するために来てもらいました」


「そ、そうなのか。いや、少し驚いただけだよ、とても素敵な方だ。まあ、ノアが結婚相手として選んだのならきっと素晴らしい人なんだろう? どこで出会ったんだ?」


 王子の質問に、ノアはさらりと答える。


「彼女は料理人です。その腕前を買ったのが始まりです」


 すると、それを聞いた人々がざわめくのが分かった。その反応に私は首を傾げる。


 確かに女の料理人は珍しい。でも、こんなに驚かれるようなことなのだろうか? それとも、ノアの婚約者が料理人というのが、やはり不釣り合いだと思われているのだろうか。


 その疑問はすぐに答えが出ることになる。こちらに聞こえていないと思っているのか、周囲の人間がひそひそと話し出したからだ。


「女性で料理人ですって……一日中鍋やフライパンを扱う、あの仕事を? 変わった人……」


「あれは男の仕事だろう、体力もいるし女性には務まらない。無理だよ」


「ほら、そう言ってるだけだよ。いわゆる家政婦なんだろう。ちょっと料理が得意なだけのただの家政婦。せいぜい、庶民の中で少し金がある人間が雇うやつだ。それを料理人と名乗っているんだ、図々しい」


「随一の力を持つ魔法使いと家政婦じゃ釣り合わないから、料理人と言っているだけだろう。その方が少しは印象がいいと思ったに違いない。くだらない嘘だ」


 そんなことを口々に噂している。全てこちらの耳には届いているが、それを分かって言っているのだろうか。私は静かに拳を握りしめた。


 料理人と名乗っただけで、こんなことを言われるとは思っていなかった。女の料理人がそんなに珍しいだろうか? 私の言葉を嘘と決めつけるのも不愉快だし、家政婦という仕事に対しても失礼なことばかり。言葉の節々に、見下した感情が感じられる。


 これが貴族という物なのだろうか。ばかばかしい。


 でもここで私が何かを言うわけにもいかず、黙って俯くしか出来ない。


 するとノアが、ゆっくり声の主の方に振り返った。


「誰ですか? 私の婚約者を嘘つき呼ばわりしたのは」


 びくっと向こうの体が反応する。ノアは鋭い目で彼らを睨みつけ、普段のノアからは考えられないほどの厳しい声を出したので、私は驚いて彼を見上げる。いつだって、ぼそぼそ小さな声で淡々と話すだけで、大きな声を出したり怒ったりするところなんて見たことがない。


「彼女は嘘などついていません。それに、料理人は男の仕事だと決めつけていることはとても視野が狭く残念な考えですね。才能がある人間はそれにふさわしい仕事に就くべきです。私が今、魔法を使えているように」


 しん、と沈黙が流れ、人々がみな、戸惑ったような目でノアを見ているのが分かった。


 私は何も言えず、ただノアの横顔をじっと見ているしかない。


 そんな中、沈黙を破ったのはやはり王子だ。


「まあまあ、ノア。君がどれほど彼女を大事に思っているのか、よく分かったよ。君の言う通りだ。ノアの胃袋を掴んだ腕前、よほどなのだろうね。いつか僕もご馳走になりたいものだ」


 穏やかな笑顔でそう言った王子に、さすがだなと素直に感じる。場を収める能力に長けている、と思ったのだ。王子の言うことに誰かが反論できるわけもなく、周りは渋々黙り込む。


 王子は私ともしっかり目を合わせ、今日参加したことに対してお礼を言ってくれると、彼らは次の人へと移っていった。ノアは私に小声で謝る。


「すみません。嫌な思いをさせました……」


「いえ、そんな! ……ノアがああ言ってくれて、とても嬉しかったですから」


 私がそう答えると、彼は少しほっとしたように微笑んだ。普段、彼のこんな表情を見ることはあまりないので、なんだかとても可愛らしく見えてしまう。


 確かに周りの人間には腹立たしく思ったけれど、ノアが庇ってくれたことは本当に嬉しく思ったので、怒りはすっと消えて行ってしまった。それこそ、まるで魔法のように。


 彼が分かってくれて、庇ってくれる。その事実が何よりも大事だし、私にとっては尊いことだった。



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