結婚??
「ウィン! お久しぶりです」
「やあやあ、アンナ、久しぶり! うわー美味しそうだねえ」
「まだ少し余ってると思います、ウィンも食べますか?」
「やったー! ついにアンナの料理にありつける!」
彼は大げさに喜ぶと、ノアの正面に腰かけた。ノアは呆れたような顔で、すぐに食事を始める。私が余っていた料理をウィンのために運ぶと、ノアが不機嫌そうな声を出す。
「いいんですよアンナ、ウィンの分まで用意しなくても。急に来たウィンが悪いんです」
「ひどい言い方だな~いいじゃん。……うわ、なにこれうっま!! え、ちょ、想像以上なんだけど」
一口食べたウィンが目を丸くして言ったので、嬉しさについ笑ってしまった。彼はノアと違い、何でも大げさに反応してくれるタイプなのだ。
「ありがとうございます」
「いや待って、お世辞じゃないから。めっちゃうまい。アンナってここに来る前は何してたの?」
「遠い町のレストランで働いていました。父が有名な料理人だったんです。王宮でも働いていたとかなんとか……」
「なるほどねー! 女性って珍しいと思ってたけど、この味なら納得。僕が言うとわざとらしいと思うだろうけど、本当に思ってる。こりゃ一流料理人の腕だよ」
目をキラキラ輝かせウィンは言うので、私は素直に頭を下げる。
「ありがとうございます」
「なるほどねえ、ノアの顔色がいいと思った。アンナのおかげだな」
言われて、私もそういえばそうかもしれない、と思った。初めて会った時に比べて、ノアの顔色はだいぶいいように見えた。まあ、色は相変わらず白くて病人のように見えるけれど、クマは少し薄くなっているし、乾燥で唇が割れていることはなくなった。
そう思うと同時に、またノアの唇を意識してしまい、顔が赤くなったのを必死に隠した。
「そりゃこんなうまいもの毎日食べてたら、血色もよくなるよなあ。でも贅沢なやつだな、舌肥えるんじゃない?」
「大きなお世話です」
うるさいな、とばかりにノアは言うが、小さな声で付け足す。
「でも味が一流なのは同感です」
ノアがそんなことを言ったので、なんだかすごく嬉しくなった。いつも完食してくれるし、美味しいと思ってくれているだろうと分かってはいたけれど、口に出されるとまた違った嬉しさがある。
ウィンは私とノアを交互に見たあと、少しの間黙って料理を食べた。そしてしばらくして完食したあと、ノアに本題を切り出す。
「そうそう、今日来たのはさ、お前今度のパーティーどうするのか聞こうと思って」
その話題が出た途端、ノアがうんざりという顔をした。静かにパンを食べながら答える。
「高熱を出そうかと」
「馬鹿」
「面倒なだけです、行くメリットが一つもない」
「でも今回のはそう簡単に欠席できないだろーが」
何の話だろう、と思いながらも、私には関係なさそうな話なのでキッチンに行こうとする。だがそれを、ウィンが止めた。
「あーアンナ! ちょっと待って、アンナからも言ってやって」
「え? あの、何を」
「今度、第三王子の婚約パーティーがあるんだけど、こいつ欠席するつもりなんだって。何とか言ってやってよ」
首がもげそうな勢いでノアの方を見てしまった。王子……王子って言ったの!?
口をパクパクして驚いた後、ようやく声を絞り出す。
「ノアも……ウィンも、そんな凄い所に呼ばれる人たちだったんですか……?」
「ありゃ、そっちに驚いたか。一応ねー、魔法使いはかなり希少な存在で、魔物や他の国から攻められないよう結界を張ってるんだ。そういう仕事もあるから、結構重宝されて、偉い人たちとかかわりもあるわけ」
唖然としてしまった。確かに昔父は、魔法使いはとても珍しい存在でこの国は彼らに守られている、と言っていた。でも、そんな風に働いていてくれていることを私は知らなかった。
本当に凄い人なんだ……私ったら、片付けてとか口うるさく言ったりして。
「そうなんですね……すみません、私、知らなくて」
「あー違う違う、アンナは知らなくて当然。むかーしこのことは常識だったんだけど、そうすると悪い奴らが魔法使いの命を狙うようになって大変だった時代があるんだ。それで、結界のことは一般の人には秘密にするようになった。だから、今の人たちは知らない人の方が多いよ。知っててもすごいお年寄りだとか、一部の人だけだね。まあ、結界のことは知らなくても、魔法使いは王室と深いつながりがあって重宝されてる、ってことは、貴族の間じゃ常識だけど」
「……私たちの平和は、ノアやウィンのような魔法使いに守られているんですね。ありがとうございます」
私が深々と頭を下げると、二人とも面食らったような顔をした。ウィンは嬉しそうに、ノアは気まずそうに視線を揺らす。
「まあ、とにかくそういう仕事をしてるんだ。その中でも、悔しいことにノアの力は凄くってね。こんなんだけど、魔法は超一流で」
「こんなんとはなんですか」
「本当は、ノアなんてもっと豪邸に住めるし、爵位を手に入れることもできるけど、本人が興味ないからねー……こんな幽霊屋敷に住んで、物好きにもほどがある」
「言いたい放題ですね」
爵位? 豪邸? 呆気に取られるしかない。
もしかしてもしかすると、ノアって本当にめちゃくちゃ凄い人なのでは……? ごくり、と自分の喉が緊張感で鳴ってしまう。すぐ部屋を散らかすし、よく寝不足で死人みたいな顔色になる彼は、とんでもない人間らしい。
「んでさ。色々パーティーだのなんだのに呼ばれるのはいいけど、見ての通りノアはそういうの苦手なわけ。まあ、結婚相手をあれだけ押しつけられそうになれば面倒になるのはわかるけど」
ウィンがそんなことを言ったので、ずっと黙っていた私は目を丸くした。
「結婚相手?」
少し裏返った声が出てしまった。ウィンが頷く。
「そ。ノアほど優秀な魔法使いの遺伝子は、そりゃ国としても残したいでしょ。魔法使いって遺伝的な要素も大きいからね。お偉いさんたちは、いろんな女性をノアにどうだって押し付けてくるわけ。それが本人も嫌で、パーティーを参加したがらないんだよ。王族ですらノアのことは邪険に扱えないから、そのノアと結婚出来ることは有益だと考える人が多くてね」
ノアが結婚……? ちらりと彼を見てみると、私が焼いたソテーをゆっくり頬張っているところだった。
色々と衝撃的だ。ノアが本当に凄い人なんだってことも、結婚しろと周りから言われているということも。でも確かに、ノアがパーティーだとか結婚相手を探しているだとかのイメージは全くわかない。
そうか、結婚しろと言われているのか……。




