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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
16.愚直な押し相撲
94/147

16-6.

*****


 国においても有名至極なリオネスが死んだわけだ。そこにあったのは殺しであり、ゆえに必然、いずれは行政の機能が自らの首に届くだろうと考え――だから、デモンは早々にずらかってやることにした。誰もつまらん事情でしょっぴかれたくはない――と、そんな話をくだんのカフェにてカフェラテを口にしながらベリーと話していたわけだが、どうやらツッコミを入れられるような心配は、たぶん、ないらしいのである。「アレハンドロは、あなたを敵に回すことを良しとはしなかったようですよ」とのことだった。だとしたら、それは賢明な判断だ。あまりにしつこく迫ってくるようであれば、遠慮なく殺してやるつもりなのだから。それができない、デモン・イーブルではないのだ。


「つまらん出来事につまらんかたちで関わってしまった。である以上、わたしはここを去ることにするよ」

「永住されても良いと思います」

「ほぅ。それはどうしてかね?」

「だってあなたは、オンリーワンですから」


 にこやかな一言にして、もっともな一文である。

 だからといって、考え自体は変わらない。


「一定の答えは出たと言える。ミサキだったか? 彼女の死については答えが得られたんだからな。そして、罪を背負うべきリオネスは死に絶えた。まあ、わたしが殺してやったにすぎんのだが」

「感謝しています。デモンさんがいなかったら、誰も何も、動かせませんでしたから」

「わたしはしたいようにしただけなんだよ」

「それでも私は、あなたに感謝しています」


 デモンは大げさなくらい両手を肩の外で広げ、それから、「なら、重畳だ」と笑ってみせた。「馬鹿だったな、リオネスは。だから死んだのさ。なあ、ベリー。この星、この地球においてはえらくつまらん事象が多くてだな、だからわたしは人類について諦観しかけているんだよ。そも、どうしてゴミに等しいニンゲンを好いてやらなければならないのかという議論に終始するということだ」という考えは真実であり、事実だった。


「私に……私に、彼らを捕まえることはできるでしょうか」

「解釈の仕方次第だよ」

「だったら――」

「ああ、そうだ。前だけ向こうと思わんかね?」

「でも、私が討とうとしている存在は、とても強固なんですよ?」

「二度も三度も言わせるな。引くという選択肢はあるのかね? ない、だろう? 自らの存在について確固たる価値を得たいのであれば、おまえはとにかく前に進むべきだ。過去に答えなどありはしない」


 デモンはそう強く言い――。

 微笑んでみせてから「おまえは働くしかないんだよ」と言ってのけ――。


 ベリーは、深々とした吐息をついたのである。


「みんな、馬鹿なんですね。だから馬鹿が苦労を被っているんですね」

「それは誰にとっても真実だ。しかし、だからといって、誰かを馬鹿だと罵る権利は、じつは誰にもないんだよ」

「意外です」ベリーは晴れやかに笑った。「他者を蔑むにあたっては、絶妙な立場にあるデモンさんだと思っていました」


 真理を突かれたから腹が立ったというわけではない。そも、真理を突かれたとすら思っていない。ただ、ベリーの物言いがとても偉そうで可愛げに感じられたから、デモンは眉根を寄せ、「ナマをほざくな」と口を尖らせた次第である。


「私の言い分は生意気ですか?」

「そうだよ。吐き気すら覚える」

「だけど――」

「ああ。議論したいなら突っかかってこい。いつかどこかで、また必ず、な」

「はいっ!」


 幼稚園児みたいに、いい返事だった。


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