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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
16.愚直な押し相撲
91/160

16-3.

*****


 街中の路地がけっこう好きで――いや、確かに嫌いではなくて、それはなぜかというと、些細ながらも玄人好みの飲食店がしばしば発見発掘されるからだ――と思い、信じている。まったくもって尊い傾向だ。カフェなんかで店自慢のケーキなんかを見つけられるとかなり幸運で、そのラッキーは無視できないから日光すらまともに浴びることのない道すらつぶさに散策する、あるいはライフポイントに影響するダメージを強いられ、多大な散策を余儀なくされる――というわけだ。無愛想な立て看板にピンクと白のチョークで二重線に「名物パンプキンパイ!」と無邪気に記されていて――そんな店を見つけた。レモンティーとあわせてオーダーし、ぱくぱく食べた。非常にうまいものだった。なんだかんだでばくばくばくばくと二つも三つも食べてしまった。店を出ると、心地の良い、丁度良い満腹感を覚えながら先を進んだ。表通りに出たところで、偶然も偶然に違いない、ベリー・レノと出くわしたのだった。


「宿をお訪ねしようとしていたところです」

「だとすると、当該事象はおまえにとって僥倖と言えるわけだな。で?」

「進展はありません」

「なんだ、それは」デモンは、あっはっはと笑った。「だとすると、言ってみれば作戦会議かね?」

「そんなところです」苦笑のベリー。「私が抱えているのは難題だと理解しています。いったい、どうしたら尻尾を掴めるんでしょうか……」


 暗い顔をして、ベリーはそんなふうに訊ねてきた。弱気に晒されているニンゲンほど、弱気な質問をぶつけてくる。そのへんあたりまえなのだが、だからといって、その旨、許そうとは考えない。後ろ向きなニンゲンはめんどくさい。だから「いつも前向きでいろ」と、デモンは自らと向き合うニンゲンすべてにそんなふうに投じてやる。気が向けばの話でしかないのかもしれないが――。


「尻尾なんてどうだっていいんだよ。おまえからすれば、リオネス・ユズリハこそが目下の敵なんだろう? だったらとことん攻め抜いて、最後まで追い詰めてやればいい」


 するとベリーは俯き大きく吐息をつき、左の目から水滴を一粒――頬に涙が転がったことを、目ざといデモンは見逃さなかった。


「ヒトが、女性が一人、殺された。それは記号となりえる事柄でしかありません。誰にも救えなかったのだと思います。状況的にどうしようもないことはままあります。ですけど、だからといって、真面目に取り組まない理由にはなりません。違いますか?」


 デモンは問いに対して「違わんと言っている」と答え、それから「ふん」と鼻を鳴らした。「しかしだベリー嬢、どうあれ加害者、あるいは加害者連中がはっきりしているのであれば、やはりそいつをそいつらを、問答無用でしょっ引いていいのではないかね? ――と、わたしは問いたいんだが?」と続けた。


「確かに、なんらか別件で問い詰めることはできるかもしれません」

「そうなんだろう? だったら――」

「正直、私はアレハンドロに対する追求は無理だし無謀だと考えています」

「それでいいのだと思う。殺人を犯したらしい人物を罰せられればそれでいい。察するに、あらためて奴さん――リオネスと会うんだな?」

「はい。もう何度目かわかりませんけれど、アポはとれました」

「付き合おう」

「頼もしいです。だけど、いいんですか?」


 興味があると言ったろう? デモンはそう口にし、「だが今日は宿に戻ってもう寝るよ」と告げ、大きなあくびをかました。太古の以前より、ヒトは眠気に敵わないと決まっている――。


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