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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
25.ディザスター・レッサーヴァンパイア
138/160

25-4.

*****


 次はレッサーヴァンパイアと静かに会いたいと考え――その願いは叶った。

 宿の一部屋、けっこう広い一室にちょうどいい加減のロッキングチェアの上のデモンだ。


 安っぽい椅子の上のレッサーヴァンパイアは表情をまるで崩さない。

 半面、やる気満々、あるいは正しいことをしているのだと威張っているようにすら映る。

 美しい人物だ、赤い髪、グレーの瞳に真白の肌、何も言われなければ女性と見間違うかもしれない。


「この街、『朽ちた国』を相手に回して、いったいどうするつもりなのかね?」


 レッサーヴァンパイアはいっさい答えを口にしない。しゃべらないのが特徴なのかもしれない。しゃべらないことを美学としているのかもしれない。だったらだったで、まあまあ尊い話である。


「この国を敵に回すのは良いことだと思うんだよ。魔女狩りに遭った思い人の無念を晴らしたいのであれば、とことんまで踏み込み、攻撃し、戦闘すべきだ」


 相も変わらず、レッサーヴァンパイアは何も言わない。

 しかしそのうち、「誰も僕の行動を支持しないはずだ」と悲愴なことを述べた。


「そうかね。おまえの行動には『正義』が、伴われているように思うがね」

「ここに至って、個人的な怒りに任せて相当なニンゲンを殺した。悪いことだとは思っていない、だけど――」

「戦術レベルではなく、戦略級の力を持つ者は稀有でしかない。力を有するおまえだ。気に入らなければまるっと潰し、災害的なまでにヒトを殺しまくってやればいい」


 レッサーヴァンパイアは悪戯っぽくふふと笑った。


「キルケーを殺そうと思う。そうあったほうが、民は自由だ、正しくもいられるし、横柄でもいられる」

「首長を殺せば、それなりに国は混乱するぞ?」

「それでもなんとかなってしまうのが社会であり、ヒトの世界というものだろう?」


 レッサーヴァンパイアの言い分はまったくもって正しい、賢い男でもあるようだ。重要なポジションが空席になったとしても、首のすげかえはなんとでも利く――というのは世にあって定説だ。


「レッサーなヴァンパイア、さぁ、おまえは頃合いを見計らってやってくるのかね?」

「やってやろう、と――」

「突き進んでみせろ。わたしはどうやら良い場面に出くわすことができたようだ。わたしはおまえを応援するぞ」


 そんなふうに醜悪な笑みを浮かべるあなたが女神に見える――レッサーヴァンパイアはそんなふうにのたまい――。


「それはそうだろう。わたしはおまえを大きく立派に見ているんだ。おまえより上であるがゆえにな」


 微笑むと、レッサーヴァンパイアは「ありがとう」を言った。


「愛していたんだろう?」

「そうさ。地獄の蓋が開くほどに、天国の底が抜けるほどに、そして世界がそうあることを願うように」

「だがおまえは不死の吸血鬼だ。そうである以上、どうしたって相容れるはずもない」

「それでも精一杯やろうと考えた」

「それは悪いことではないよ」

「そのくらい、わかっている」


 気持ちのいい返事だった。


 ポジティブだな、おまえは、レッサーヴァンパイア。



*****


 にしたって罪すらない人々を殺害して回ってそれを良しとする感情、思考は、一般的にはあってはいけないのだと考える。しかし、裏を返せばかつて恋人を火炙りにされたレッサーヴァンパイアの気持ちもとことんわかるというものなのだ。だったら向き合い、よしんば「悪」を駆逐してやろう――否、殺害してやろう。あいにくとデモン・イーブルはそこまで穏やかでもなければ、甘いニンゲンでもないのだ。対決することを良しとし、楽しんでやろうではないか。じつはその思いでいっぱいなんだ。


 レッサーヴァンパイアは国を潰すことに躍起になったらしい。以前になかったほどの激烈さを伴った積極的な攻撃なのだという。それならそれでいい。奴さんの胸の内に去来するものがなんであろうが知ったことではないが、面白そうだから受け止めてやろうと考える、これは母性だな、まるで。子宮に根差した母性なんだな、まるで――。



*****


 おまえ、あるいはおまえらは、よくよくわたしとの距離感を計りかねているものだから、わたしとめんどくさい格好で距離をとるのだろうな。おまえらはつくづくそうでしかないものだから、心苦しい考えの果てとして――おまえたちはわたしの対岸に立っているのだろうな、尊いな。正しいことの定義をして、正しいことをしていると信じきっているおまえたちに非はないさ、そこにある「願い」についてすらも。


 馬鹿だらこそ、目下、お手すきであるわたしはおまえたちに対して物申してやろうという限りなのだが。残念ながらわたしは俗物的なおまえを、やっぱりおまえらを、どういうかたちであってもゆるすつもりはないんだよ。わたしの敵対者は馬鹿だと相場は決まっている。だからこそ、おまえはおまえらは、自らの考えを、きちんと見直してみたほうがいい。


 素敵だなと思う。

 どうあれわたしに面倒事を強いてくれた阿呆どもには感謝したい。


 阿呆どもにおまえら、おまえたち、すなわち、世の大多数を指す。


 究極的な悦を得るためには、わたしは世界のすべてのニンゲンを殺さなければならないのかもしれないな。たまにそんなふうに考える。


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