25-3.
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グリフィン議長に会うことができた。どこぞの誰かが話を通してくれたのかもしれないし、そうではないのかもしれない――どうだっていいな、そのへん。どうあれわたしはデモン・イーブルなのだから。
出会いの場は奴さんの事務所だった。
粗末な事務所だ、しかし、接客の応接セットは立派で――その立派なソファへと促された。
「わたしはだな、グリフィン議長」そこまで言って、デモンはコーヒーカップを優雅に口にした。「一般的な世情に飽いていて、だからこそ面白いことを探している。おまえはわたしの欲求を満たしてくれる要素たりえるのかね?」
「それはわからない――とでも申し上げておきましょう」五十は過ぎているだろう、きちっと整えられた口ひげがナイスミドルなグリフィンが言う。「私は国家の安寧を図ろうとする立場だ。その点については、与野党との立場はあれ、キルケー首相と一致しています」
「そこまでさらりと言えるのに、だったらどうして対立するんだ?」
「さんざんぱらの話、ポピュリズムは嫌いなんだとしか言いようがない」
「ああ、素敵だな。まさに説得力のある一言、一撃だ」
彼の解が愉快なものだから、デモンは馬鹿にするように笑ったわけだ。
「なんだかんだ言っても、わたしは図りかねているんだよ、そのレッサーヴァンパイアという存在を」
するとグリフィンは「ヴァンパイアだ。しかしレッサーヴァンパイアだ」と歌うように述べ――。
「実際のヴァンパイアよりは劣ってでもいると?」
「そうは言いません、が――」
「何が言いたい?」
レッサーヴァンパイア氏とは、組める部分があるのかもしれない。
そんなふうに、グリフィンは言って――。
「おまえはまともな役人ではないのか? そんなのをくそったれと呼ぶんだが?」
「デモンさん、と、いうと?」
比較的、どうでもいいことなので、デモンは「――まあいい」と受け流した。「誰かの期待を集めているかもしれない存在……いいさ。わたしがじきじきにこの目で確かめてやろう」
するとグリフィンは嫌な笑みを浮かべて――。
「レッサー、レッサー、レッサーヴァンパイア。デモンさん、あなたは彼を舐めているようだ」
「阿呆が。それがわたしのデフォルトなんだよ」デモンは露骨に顔をしかめた。「しかしだ、そんなことより――」
「そんなことより、なんでしょう?」
「もはや言わずもがなだが、聞いたぞ、レッサーヴァンパイアとこの国、村の若い女が愛しあっていたとな。しかし魔女狩りがごとく、つまるところおまえたちはその女を足元から焼いた。だからこそのレッサーヴァンパイアの怒り……興味深いと言っている」
「基本的に、レッサーヴァンパイアとは我が国に仇をなす怨敵なんですよ」
「知らんがなと謳っておこう。おまえたちは恐らく過ちを犯したんだ。であれば、報いを受けるしかない」
「それを理不尽とは言いませんか?」
「抜かせ、馬鹿男め。そこにあるのは他者的にも事実であり、わたし的にも当然の真実なんだよ」
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ミライが聞いてほしいというので、話に付き合ってやっていた、ミライの家、テーブルを挟んで向き合いながら。ミライは事の深いところを聞いてほしいのだと言い出した。
「いろいろわかったよ。ミライの先祖――祖母らしい女が愛したレッサーヴァンパイアは、不思議なことに、ヒトのせいで害悪に見舞われたというのに、いまだニンゲンをそこそこ愛しているらしい、とな」
「で、あるとするなら――」
「ああ、そうだ。おまえの祖母が奴さんを愛したことについて、悪いと断ずることはできないんだよ」
「……悲しいです」
「しかし、それがホントのところだ」
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レッサーヴァンパイアとは、いよいよ向き合った。
黒く長い法衣、シルバーの刺繍が施された高貴としか言えない一着。
ヒトにだけ矛先を向けるあたり、レッサーヴァンパイア殿は原則、優しいのだろう。そこにはきっと、いろいろと許せない、怒りを含んだ側面というかファクターがあって。だからある程度、攻撃の手を緩めないのだ、あるいはそれって綺麗で潔いことなのかもしれない。
あまり好手ではない。
街中にあって、こともあろうにレッサーヴァンパイアはわたし目掛けて突っ込んできた。
残念だな、そうそう簡単に打ち崩せるわたしでははないんだよ。おまえは馬鹿だから、そのへん、わかっちゃくれない。だからこそ、おまえなんてどうでもいいとして、前向きに事を進めたいとも考えてしまうんだ。
わたしはえらく強いんだぞ、なあ、レッサーヴァンパイア――。