25-2.
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いろいろと頑張ったわけ――でもないのだが、まずは「朽ちた国」の長と会うことができた。キルケーというらしい、なんとも危なっかしいな名だ。白亜の接客室において、白亜の壁を背にしながら、キルケーは豪奢な黒い革張りの椅子に座っている。絵になるさまだ。キルケーは年齢的にはおっさんながらも若々しくまたおっさんらしからぬ有能らしく、だからそれなりの姿を晒してみせるのだろう。
「ここにきて、我が国民の数はいよいよ右肩下がりなんだ、デモンさん」
そのへんは耳にした覚えがあるので、「そうらしいな」とテキトーに相槌を打っておいた。
「デモンさん、その理由については、やはり見当がつくだろうか?」
「悉く、レッサーヴァンパイアに蹂躙されているからだろう?」
「仮にそうだとしたなら、我々はどうしたらいいと思う?」
「打って出ろ、前にだ。でなければほんとうに死に絶え、滅びてしまうのだろう?」
「簡単に言ってくれる」
「成せないのなら雁首揃えて晒して死んでしまえ。おまえらが途絶えたところで世界の趨勢にはなんの影響もないんだからな」
「手厳しいな」
「ヒトの世における価値観とはそんなものだ」
デモンが説いたのは真理である。
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その日、その夜、ミライがいよいよ打ち明けてくれた。
「魔女狩りというか、そのあたりが理由でリアルから遠ざけられた男性こそが、レッサーヴァンパイアというんです」
念押しをされるように事実を知らされた気分だった。
レッサーヴァンパイアが悲しい存在であることもわかる――そのあたりは察するよりほかにない。
そのうち、会うことになるのだろう、レッサーヴァンパイア。
美男なら目の保養になるのだろうなと思ったりする俗物根性――。
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どうでもいいタイミングで、キルケーとの二回目の面会。
彼はつくづく俗物で、だから自らの保身しか考えていないように見えた。
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レッサーヴァンパイアの襲撃。街のニンゲンをかたっぱしから殺して回っているらしい。デモン・イーブルは宿のベッドで熟睡していたものだから、その次第は寝起きよりしばらく経ってから聞いた。宿には平常運転であることを望んだ。一階の食堂に降り、きちんとテーブルを前にして、箸とフォークとスプーンを使っていろいろ食べた。いいカンジだ。どれもこれもうまかったのだ。尊い事実だ、じつに素晴らしい。
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レッサーヴァンパイアによる被害は甚大なものらしく、そんなふうにイジメられるさなかにあって、やっぱりミライから聞かされた。「ほんとうに私の御先祖様は――祖母は、レッサーヴァンパイアと恋に落ちたんですよ?」と。涙ながらに語ったのは何かが途方もなく悲しく感じられたせいか――。
つくづく興味深さを覚えるものだから、デモンは「ホントいったい、どういうことなんだ?」と訊ねた次第である。
「申し訳ない話ですけれど、直感的に、あなたにはまだやることがあると思うんです」とはミライの言葉。「次はグリフィン議長に会ってみてください。議長というとおり、議会の長です」
「身勝手な進言が続くな。そいつと会ったら何かが変わるのかね?」
「それは、わかりませんけれど」
「国の実力者なんだな?」
「はい。野党第一党の党首でもあります」
「そういう輩はまず決まって阿呆なんだがな」デモンは皮肉に顔を歪めた。「しかし、おまえはわたしがどうして国の要人に会えると考えるのか」
するとミライは「それだけの胆力がおありだと考えるからです」と応えた。
「会えるだろうが、そのじつ、そこにあるのは寝技なのかもしれんぞ?」
「あなたは自分を――自分の身体を安売りしたりしません」
「そんなの当たり前だな」
デモンは、朗らかに笑った。