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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
24.よくあるひとつのこと
133/160

24-3.

*****


 アズラエルは今日も今日とて偉そうな机の向こうに偉そうにいて、彼の左隣にはギラト・ハインリヒが控えている――という構図である。ギラトがゲイであろうことはもはや知れている。アズラエルはそれに応えているのかという話だ、どうだっていいんだが、美男と美青年がイチャコラしやがる光景にはそれはそれで需要があることだろう、ホントどうでもいい。


「大勢については、おおかた知れた」デモンは受け答えをする。「ヴォイドの王は、たやすくおまえにやられるつもりはないらしいぞ」

「政治の権利は市民に」

「おまえはそう言うがなぁ」

「正直に言おう、デモン・イーブル」

「伺おうじゃあないか、ミスター」

「国を壊して、創り直して、何が悪いのかな? 悪役になりきる覚悟が、私にはあるのだよ」


 その言い分は素直で美しいと思い、デモンは深く頷いた。


「しかしだ、そもだアズラエル、創り直すという点については合点がいくが、その上で何を成そうというのかね?」

「重ね重ね言ったつもりだ、デモン嬢。私はこの国にリアルな自治をもたらしたいだけだと」

「自治自治自治――おまえはそう謳ってばかりだが、その果てに平和は存在するのかね?」

「それくらいしか、面白いことがない」

「そら見ろ、おまえの本心はそのへんだろうが」


 あなたはどうする?

 そんなふうに、AAは問うてきて。


「面白そうなほうにつく。必然だ」

「だとすると、きみはたぶん、私の敵になるな」

「願ったりだ」

「こちらとしても、だ」


 後、あらためてヴォイドの王にアポをとったのである。



*****


「もう何度目かな。AAはいよいよおまえを仕留めるつもりらしいぞ、ヴォイドの王よ」

「それはわかっているのだよ」と、彼は今日も高い位置の玉座の上にて偉そうに物を述べ――。「私は長きに渡ってこの国を創り上げてきたつもりだ。しかしそこに綻びが生じるのであれば、それはそうに違いないのだろうと熟知を――している、つもりだ」

「独裁者にありがちな末路だな」

「否定はできないと考える」と潔い。「王とばかり呼ぶのはやめてもらえないかね――とわがままを言ってみる。私にはカピタンという名前があるのでな」

「それは失礼した」謝罪の弁は述べたが、そのじつ、ちっとも悪いと思っていないデモンである。「しかし、AAは強いぞ。恐らくだが、ハンパな軍だと止めようがない。その名を冠されがちなわたしが言うのもなんだが、奴さんは悪魔だよ」

「我々は討ち滅ぼされると?」

「ああ」

「手厳しい」

「しかし、それが現実だ」


 ここでデモンは右手の人差し指をピッと立てた。「提案がある」と言って、悪戯っぽく笑んだ。


「AA、ここで止めなければ、奴さんは立て続けに跳梁跋扈に勤しむことだろう」

「それはわかっているが」

「いっそ、わたしを雇ってみてはどうかね?」


 王は意外そうに目を丸くした。


「デモン・イーブル、おまえならAAを殺せる、と?」

「ああ。ご依頼さえいただければ、まるっとやってご覧に入れようじゃあないか」

「願ったりではある、が……」

「個人的な付き合いはあれど、それを長く続けるつもりはないんだよ」というのがデモンの本心だ。「新しいことを始めるためにつねに前へと進みたいのでね。奴さんが望もうが望むまいが、知り合った以上、どこかで関係を清算しておきたいと考える」

「見返りに何を要求しようと?」


 老翁、それはだな――。

 言って、デモンは「おまえが最も大切と定義するニンゲンの首だ」と告げた。


 そりゃそうだろう。

 王――カピタンは、にわかに表情を硬化させた。


「わたしは覚悟を問うている」デモンは言う、にぃと笑いもした。「おまえにとってほんとうに大切とするものとはなんなのか。国か? それとも己自身を主体とする個人か?」


 玉座の上の王は痛々しいまでに忌々しげに顔を歪めると、俯き、絞り出すようにして「わかった」とだけ口にし――。


「きちんと問おう。何がわかったんだ?」

「私が最も大切とするニンゲンは私だ」

「だからこその独裁?」

「そういうことだ。だから――」

「もういい。気が変わった。誰もおまえみたいにむさくるしい男の首など望んでいないからな」デモンは言う。「つまらんことを訊いたな。謝罪しよう」

「しかしだ、デモン・イーブル――」

「王よ、やかましいと言ったんだ。事後については事後、話し合うとしようじゃあないか」


 国が惜しいということはないのだよ。

 そんなふうに、王は説き――。


「誰が相手だろうと、分が悪いと思ったら明け渡すと?」

「それに近い。身勝手だろう?」

「独裁者とはそういう者だ。ゆえに驚きもしない」

「すまない」

「王よ、おまえはどうして謝るのか」


 玉座の上にあるからこそ、弱音が余計に弱々しく映る。

 王なる名目もこうなってしまっては形無しだ。


 立ち上がったところで、「待て」と呼び止められた。


「極力戦闘は避けたいとの思いがある」

「だから?」

「話を取り持つことに奔走してもらいたい」

「義理がない」

「存分に褒美をくれてやろう」

「王であるおまえは、わたしごときに何を見ているのか」

「もはや絶対的な信頼だ」


 デモンは前に向き直ると、宿の名を告げた。「金と使いを速やかに寄越せ。相談に乗ろう」と伝えた。


「助かる」

「へりくだるなよ、王のくせに」

「人を見る目はあるつもりだ」

「だろうな。だからこその厚遇なんだろう。少なくともわたしについては、冷遇ではなかった」


 じゃあな。

 デモンは踵を返すと右手をひらひらと振りながら、玉座の間をあとにした。



*****


 黒い下着と黒いシャツをまとっただけの姿で、ゆったりとロッキングチェアを揺らしていた。左手にはグラス、ウイスキー。細かくクラッシュされた白いキャンディーを「アテ」に琥珀色のそれをすする。濃厚なアルコールを口にする際は甘みを混ぜるに限る。とろんと気持ちの良い感覚をい味わえるからだ――尊い。


 部屋の戸がノックされた。おやおや、こんな時間にか――と思う。何もなければとっとと眠って朝になれば風呂に浸かってゆっくりしたというのに。とはいえ、おいでなすった以上、相手をしてやる必要がある。「使いを寄越せ」と言った手前もあるからだ。


 白い肌を無駄に安売りしてやるのもなんだと思い、ズボンをはいてから「入れ」と告げた。三人、ないし四人程度で入ってくるものだと予測していたのだが、一人だった。長い青髪に、ランプ一つの暗闇でもそれとわかる明るい碧眼。二十歳(はたち)そこそこといったところだろう。美しく、また愛らしい顔立ちが目を引く。まともな女ならいっそうほうっておかないに違いない。落とす影まで美男に見えた。わたしが「まともな」価値観の持ち主ならと考える。であればいろいろ求めてあんあんあんあん、気持ち良くなろうとしていたことだろう。――が、そんなことはないので、まずは名前を訊いた。識別子なんてじつはどうだっていいのだが、まあ、社交辞令だ。


「ガスケといいます。ガスケ・ガスパール」キレイめ男子はそう答えた。

「AA絡みの案件で、じつは暇なんてないご身分だと察するのだが?」

「違いありません。だからこそ、超級掃除人は無視できないという話なんです」

「よくご存じであるようだ」

「ニケー国は世界最強として有名ですから」

「『帝国』……という存在があるが?」

「あれは有象無象です。ゆえの不確かな最強」


 なるほど、馬鹿ではないようだ。

 デモンは率直に、「ガスパール殿は何をしたいんだ?」と訊ねた。


「とりあえず、AAは殺さないと」

「ま、だろうな」

「国王のお考えは理解しやすい」

「んなこた知ったこっちゃないが」


 どうするのが正解だと考えますかと、ガスパールは訊いてきた。


「まずはじっと静観することだ」

「静観? それでは――」

「やかましい。先方が掻きまわされている――その時点で仕掛けるべきだ」

「それは、理解できますが……」

「ま、なるようになるさ」


 さあ、出ていけ。デモンが立ち上がってしっしと右手を振ると、ガスパールは椅子から腰を上げた。よくはわからない。この期に及んで自分の気持ちだってよくわからないのだが、なんらかの接触、戦闘は近いだろうと、そんな予感がして――。


 国軍とライズの小競り合いがいよいよ始まったのは、翌朝からのことだった。


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