24-2.
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ヴォイド共和国。人口は五百万程度らしく、それって案外多いと言える。福祉が行き届いていて医者にかかるのはタダ、金銭が要らない。そのぶんどこかであおりを食う格好で税金を取られるわけだが、そのへんのニンゲンにインタビューした限りだと、その事実、政策については、誰も不満だとは捉えていないようだった。
大げさ――かつ気高いに違いない一室、阿呆くさい大仰な部屋。
いかにも偉そうな執務机の向こうの、いかにも偉そうな革張りの回転椅子の上に、AA――もはや見間違えようもない、アズラエル・アルトアイゼンの姿がある。まったくもって傲岸不遜。見た感じは謙虚に見えなくもないのだが、じつのところそれは完全なるポーズであり――そうやって頑張れるあたり、やっぱり奴さんは大人物なのである――とか評価してみたりするのだが。
「久しいな、アズラエル・アルトアイゼン」
「私はきみのことを忘れた瞬間などなかったよ、ミス・イーブル」
「それはそれで喜ばしい事象なんだが、ともあれ、だ」
「何か?」
「ブランケンブルクはどうした? おまえの口から聞かせてもらいたい」
アズラエルは不思議そうに首を右へと傾けてみせた。
「意外でしかないな、デモン・イーブル。ささやかな興味、あるいは嫌味、なのかな?」
「そう言われると弱い」デモンは口元を皮肉に歪めた。「まあいいさ。話を進めよう」
「いや、私にはもはや、話したいことなどないのだよ」
「そんなの、知ってる」
「で、あれば――」
「ああ、そうだ。やはり話をしようじゃあないか」
するとアズラエルのグリーンアイは邪に歪み――。
そして脇に控える赤髪、美男であるギラト・ハインリヒ青年が不愉快そうに顔を歪め――。
「『ライズ』、だったか」
そんなふうに、デモンはアズラエルがあずかる組織の名を口にした。
「そうだよ、ライズだ。その点、なにか?」
「いや、な、要はおまえは世直しがしたいだけなんだろう、と思ってな」
「微妙に違う」
「微妙にというだけだ」
「行く末が楽しみなのだよ」
「せいぜいほざいてろ、この堕ちた天使めが」
デモンは笑い、その先にある未来すら嘲笑ってやるつもりだった。
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ヴォイド共和国の、トップの男にお目通しが叶った。さすがは「超級」のデモン・イーブルである。立派な王であるように映った。少なくとも市民のことは大切に思っており、そこにあるのは優しさであるように見受けられた。いい年をこいたいい老人なのだろう、ほんとうに。だからといって、なんらか妥協してやるつもりなどないのだが――。
「ヴォイドの長よ、わたしが今、ここを訪れたこと、その理由については見当がつくかね?」
「まるきり『はてな』だ」と言って、彼は穏やかに微笑んだ。「だが、あなたは只者ではないのだろう? 『ニケーの魔女』――相当な手合いだと伝え聞いている。でなければ、真っ先に会おうなどとは考えない」
「耳が早いのはいいことだ。魔女とははなはだ心外だが、しかしそれはそれでそのとおりだ」デモンは「はんっ」と鼻を鳴らした。「申して差し上げよう。お前は死地にあるぞ」
「ヴォイドを良くすることが使命だと考えている」
「王である以上、そんなの当たり前だ」
「AAは? やはり私を討とうというのだろうか?」
デモンは、はっはっはと嘲り笑った。
「独裁だと聞いたぞ。違うのかね?」
「違わないが、それが間違いだとは――」
「体制を維持する上ではエラーだ」デモンはそう言い切った。「残念だったな。AAは乗っ取りにくるぞ。システムにも寿命があるということだ」
「この国は限界だと?」
「そうだ。奴の遊びに、おまえは付き合わされることになる」
誰がどんなふうに言おうと、AAの存在感に変化は生じない。
ヴォイドの王よ、おまえはつくづく、遅きに失しているな。
だから負けるんだよ、悲しいかな、当たり前のように、な。