表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
24.よくあるひとつのこと
132/160

24-2.

*****


 ヴォイド共和国。人口は五百万程度らしく、それって案外多いと言える。福祉が行き届いていて医者にかかるのはタダ、金銭が要らない。そのぶんどこかであおりを食う格好で税金を取られるわけだが、そのへんのニンゲンにインタビューした限りだと、その事実、政策については、誰も不満だとは捉えていないようだった。


 大げさ――かつ気高いに違いない一室、阿呆くさい大仰な部屋。


 いかにも偉そうな執務机の向こうの、いかにも偉そうな革張りの回転椅子の上に、AA――もはや見間違えようもない、アズラエル・アルトアイゼンの姿がある。まったくもって傲岸不遜。見た感じは謙虚に見えなくもないのだが、じつのところそれは完全なるポーズであり――そうやって頑張れるあたり、やっぱり奴さんは大人物なのである――とか評価してみたりするのだが。


「久しいな、アズラエル・アルトアイゼン」

「私はきみのことを忘れた瞬間などなかったよ、ミス・イーブル」

「それはそれで喜ばしい事象なんだが、ともあれ、だ」

「何か?」

「ブランケンブルクはどうした? おまえの口から聞かせてもらいたい」


 アズラエルは不思議そうに首を右へと傾けてみせた。


「意外でしかないな、デモン・イーブル。ささやかな興味、あるいは嫌味、なのかな?」

「そう言われると弱い」デモンは口元を皮肉に歪めた。「まあいいさ。話を進めよう」

「いや、私にはもはや、話したいことなどないのだよ」

「そんなの、知ってる」

「で、あれば――」

「ああ、そうだ。やはり話をしようじゃあないか」


 するとアズラエルのグリーンアイは邪に歪み――。

 そして脇に控える赤髪、美男であるギラト・ハインリヒ青年が不愉快そうに顔を歪め――。


「『ライズ』、だったか」


 そんなふうに、デモンはアズラエルがあずかる組織の名を口にした。


「そうだよ、ライズだ。その点、なにか?」

「いや、な、要はおまえは世直しがしたいだけなんだろう、と思ってな」

「微妙に違う」

「微妙にというだけだ」

「行く末が楽しみなのだよ」

「せいぜいほざいてろ、この堕ちた天使めが」


 デモンは笑い、その先にある未来すら嘲笑ってやるつもりだった。



*****


 ヴォイド共和国の、トップの男にお目通しが叶った。さすがは「超級」のデモン・イーブルである。立派な王であるように映った。少なくとも市民のことは大切に思っており、そこにあるのは優しさであるように見受けられた。いい年をこいたいい老人なのだろう、ほんとうに。だからといって、なんらか妥協してやるつもりなどないのだが――。


「ヴォイドの長よ、わたしが今、ここを訪れたこと、その理由については見当がつくかね?」

「まるきり『はてな』だ」と言って、彼は穏やかに微笑んだ。「だが、あなたは只者ではないのだろう? 『ニケーの魔女』――相当な手合いだと伝え聞いている。でなければ、真っ先に会おうなどとは考えない」

「耳が早いのはいいことだ。魔女とははなはだ心外だが、しかしそれはそれでそのとおりだ」デモンは「はんっ」と鼻を鳴らした。「申して差し上げよう。お前は死地にあるぞ」

「ヴォイドを良くすることが使命だと考えている」

「王である以上、そんなの当たり前だ」

「AAは? やはり私を討とうというのだろうか?」


 デモンは、はっはっはと嘲り笑った。


「独裁だと聞いたぞ。違うのかね?」

「違わないが、それが間違いだとは――」

「体制を維持する上ではエラーだ」デモンはそう言い切った。「残念だったな。AAは乗っ取りにくるぞ。システムにも寿命があるということだ」

「この国は限界だと?」

「そうだ。奴の遊びに、おまえは付き合わされることになる」


 誰がどんなふうに言おうと、AAの存在感に変化は生じない。

 ヴォイドの王よ、おまえはつくづく、遅きに失しているな。

 だから負けるんだよ、悲しいかな、当たり前のように、な。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ