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黒き邪心に薪をくべろ  作者: XI
24.よくあるひとつのこと
131/160

24-1.

*****


 相変わらず西へ、西へと向かっている。理由? そんなものは誓ってないと断言しまくれるが、とにかく西へ、具体的にそれはまさに日常的行動で――。


 本日は首尾よく馬車を拾うこともできなかったので、デモン・イーブルは足でもって自力で歩いている。たまにはいいものだ、つくづく、歩くことだって。前向きになれる。だって歩くしかないのだから。


 息一つ切らさないあたり、強靭なデモンである。徒歩の最中、ようやっと馬車が通り過ぎようとした。デモンは無作法にも荷台へと軽快に飛び乗り、とっととふかふかの干し草の上に仰向けに転がった。御者のおっさんが「えらく偉そうだ、お嬢ちゃん」などとまさに正しいことを述べてくれたがそこはとことん気にしない。おっさんは「チップははずんでくれるのかい?」などと軽口を叩いてくれたのだがやっぱり気にしない。


「そもだ、おっさん」

「なんだ、嬢ちゃん」

「わたしはな、つねに次の訪問先を面白がっているんだよ」

「だったら、楽しめるかもな」

「なに? 根拠でも?」

「AAの話は伝説的だ」


 AA?

 AA……?

 ああ、AAかと思う。

 わたしが知っているAAなら、まあ興味深いか――と考える


「AAとは前に、ここからずいぶんと東で会ったんだが」

「ああ、それで正解かもな。ここから見れば今は西にいるってこった」


 デモンは眉を寄せつつ、「奴さんは何がしたいんだ?」と問うた。

 するとだ、「そんなのわからんよ」などという放り投げるようないい加減な解を寄越され――。


「AAはいい奴だ。街のみんなも、そう言ってる」

「はなはだ、そうなのかねぇ」

「ってぇと?」

「アレはぶっ壊すことは得意だが、組み立てるのは不得手に違いないんだよ。所詮はパンピーだということだ」

「だったら、停滞している現状については嬢ちゃんがなんとかしてくれるってのかい?」

「阿保抜かせ。劇的未曽有の途方もない馬鹿なんかに協力してたまるか」


 まずは会ってみたらどうだ、聞いたところ久しぶりなんだろうし。

 そんなふうに、おっさんは言った。


 なおもデモンは荷台の干し草に寝そべっている次第である。


「まあ、ところでだ、御者のおっさんよ、この馬車の入国先、すなわち街とやらの名は?」

「ヴォイドだよ。ヴォイド共和国の首都ヴォイドだ。貧乏人が損ばかりを被る安っぽい街だよ」

「そこがAAの居所だと?」

「さあ。今の寝床だという表現が正しいんじゃないか?」


 唇を真一文字に結んで眉を寄せ、そんな表情でデモンは目線を上にやる。

 青空には不機嫌そうな顔に見えたかもしれない。 


「ヴォイドか、そうか、ヴォイドか。なんともいかめしい名ではある」

「AAはいったい、何をするつもりなんだろうな」

「それは今、おまえ自身が述べただろう?」

「いや、言ったは言ったんだが、そのじつ、そのへんはわかりようがないんだよ」

「立派でしかないわたしは彼と会うだろう」

「だから、そうなんだろうなって。で、だ。あんたはその果てに、何を成すつもりなんだ?」


 デモンは「わからんよ」と応えて、「あっはっは」と朗らかに笑った。「とりあえず、つまらん要素は除外するだろうな。そのうえで、興味深さをもって事に当たろうと思うわけだ」と続けた。


「あんた次第なのかもしれないな、ヴォイドの行く末は」

「そんな大げさな話でもないだろうさ。わたしはただ、ただただわたし自身が楽しめればいい」

「俺の勘は当たるんだがな。まあ、幸運を」

「おっさんよ、それは言われるまでもないと言ったんだ」

「幸運を」

「しつこいな、せいぜい苦労を見て生きるがいいさ、馬鹿者めが」


 今日も不遜なデモンである――。


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