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愛しの彼女は地味で大人しいのに  作者: バネ屋
2章 仲間に助けられて過去に決着
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#17 ケンピの退部事件




 1年の頃、俺は陸上部に所属していた。


 ブサイクだけど走るのは自信あったし、それくらいしか取り柄が無かったからな。



 陸上部には、同じ1年のマネージャーとして千葉アキも所属していた。


 千葉アキは、穏やかな性格で世話好きで働き者な感じの子で、その上容姿も可愛らしい子だった為、陸上部の中でも人気の女子マネージャーだった。


 千葉は、俺みたいな女子から嫌煙されてしまうような男子にも分け隔てなく世話をしてくれるような子で、俺がもしイケメンだったなら堂々と好きになって告白してただろう。 当時はそれくらいの魅力を感じる子だった。

(後で考えると、それはただの見せかけだけで、多分中身はそうじゃなかったんだろうけどな)


 とは言え、自分の身の程を弁えていた俺は、そういった好意を表へ出すことも口にすることも無かった。




 ある日部活中の休憩時間、先輩や友達たちと雑談をしていたら、2年の先輩から「お前ら、誰が好きなの?」と一人づつ好きな子を白状させられるという地獄の様な事態になった。


 俺は、散々「居ません」と拒否ったが、それでも「好きじゃなくてもいい、どの子が一番好みに近い?」という質問に渋々折れて「千葉さん」と女子マネージャーの名前を出した。



 ブサイクな俺が身の程を弁えずに、人気者の千葉の名前を出したのがよっぽど面白かったのだろう。


 次の日には「ケンピが千葉さんのこと好きだって」と事実と異なる内容で広まり、その話を聞いた千葉はその日から俺を避けるようになった。


 陸上部の先輩や周りの連中は、事あるごとに「千葉がケンピのこと見てるぞ!頑張れ!」と揶揄って来て、ある日遂に爆発した俺は、みんなの前で「千葉さんに告白なんてしてません!どんな子が好みか聞かれたから、例えとして千葉さんみたいな子だって言っただけです」と訴えると、今度は女子部員たちから、今更告白取り消すとか最低だの嘘つきだの更に悪者にされた。

 当事者の千葉も、以前までは優しくしてくれてたのが嘘の様に俺のことを睨んでいた。


 してもいない告白をしたことにされ、更に嘘つき呼ばわりされて激高したが、俺はその千葉の態度で心が折れてその場で陸上部を退部した。

 千葉は俺から告白などされていないことは承知のはずだし、俺は心のどこかで「千葉は本当のこと分かってるし、優しいから俺のこと助けてくれる」と思ってたんだろうな。その千葉から憎しみの籠った視線は、到底耐えられるものでは無く、無様に逃げることしか出来なかった。


 更にそれだけで終わることは無く、後日女子部員たちに囲まれて、千葉への謝罪を要求された。 冗談じゃない!と逃げ回ったからかなりしつこくされたけど、あいつらの正義って嘘とか関係ないんだよな。「気に入らないから悪者」っていう感情だけだから。



 俺は陸上部の先輩、女子部員、それに千葉のことを散々恨んだ。



 でも、それと同時に「もし俺がブサイクじゃなかったら、こういう風にはならなかったよな」「もし俺がイケメンだったなら、千葉にも睨まれるどころか、きっと喜ばれたんだろうな」という思いも強く残った。




 そして、この件でもっとも学んだことは、ブサイクには人権が無いこと。


 1年の部員を退部に追い込んだというのに、陸上部の連中は誰一人責任を感じていないのだ。

 陸上部同学年の連中は、今でも俺に馴れ馴れしく話しかけてくるし、当時2年の先輩も悪びれもせずに「もう陸上部には戻らんのか?」と呑気に聞いてきたりした。

 女子部員たちなんか相変わらず俺のことは目のカタキの様に睨んでくるし。

 千葉は知らん。 視界にも入れたくないからな。


 つまり

 ブサイクには何をしてもいい。 

 ブサイクだからこういう仕打ちも仕方ない。 

 ブサイクだから酷い扱いに慣れてて打たれ強いハズだから、この程度なら平気だ。


 こういう認識なんだよ、やつらの中では。

 どいつもこいつもガキで、ホント胸糞悪い。








 宮森さんは、多分千葉アキと知り合いなんだろう。


 今更千葉の話題を持ち出すなんて、何が目的なのかは不明だが、ロクな事じゃないのは間違いない。

 あの件に直接かかわっていない宮森さんが「1年の時、ケンピくんが告白した」って言ってたことから、有ること無いこと吹きこまれているのが容易に想像できる。


 それに、やつらマジで言葉通じないから。


 どんなに理詰めで説明しても、感情で判断して決めつけて来るから、やつらの中ではブサイクだっていうだけで俺みたいなのは最初から悪って決まっちゃってるんだよ。 だからもう二度と近寄りたくない。

 2年のクラス替えで一緒にならなくて、心底安心したくらいだし。






 あー、くそ!

 折角ワラシのこと考えてたのに、もっとも忘れたい女の名前聞かされて、すげぇ気分悪くなってきた。



 ワラシだけだ、俺の天使は。


 早くワラシに癒されたいな。




 俺は眼をくわっ!と開くと眼に力入れたままワラシに向かって無言で「ワラシ、可愛い」「ワラシ、コッチ向け」「ワラシ、俺を癒してくれ!」と念を送った。


 すると不思議なことに、ワラシはこちらを振り向いて俺と目が合うと、ニコリとほほ笑んだ。



 一瞬で癒された。

 すげぇ

 ワラシ、やっぱりマジモンの天使だ。





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