閑話:メタ
我は世界が初代魔王と呼ぶ力の残滓。
意識体としての生まれはつい先程、この我の媒体となった憑依先の哀れな男の脳に接触したその瞬間。そして、憑依先への乗っ取りを完了したら我が意識は消え去る。
その時間、換算するなら0.1秒にも満たない。
だが、意識体には主観時間を限りなく引き延ばす走馬灯というものがあり、そもそも管理者にとっては時間の概念はあるようで無いもの。
この場ではそれを利用している。
つまり、我が人生・・・果たして人生と呼ぶべきものかという議論はともかく、それは管理者および傍観者に対して"解説"するためのものだ。
管理者はともかく、傍観者には「そういうものか」程度に聞いていてほしい。
さて。
かの邪教だとか秘密結社だとかの大いなる勘違いは、我は初代魔王の力の残滓であり、初代魔王そのものではない。
勿論、奴より生まれ出た意識であるが故、奴の世界を滅ぼしたい心境、狂った理由、過去は当然把握しているが、それは我に何の影響も及ぼさないものだ。
なので、初代魔王が降臨することはない。
ただ、その力を受け継いだ破壊の化身が誕生するだけだ。
もっと言うと、初代魔王は既に生まれ変わりを果たしている。奴は力以外の遺産を残していないので、奴の人格がどこからか複製されるということも、擬似的に生まれるということも無いのだ。
そんな、あくまで力の残滓でしかない我に、意識が生まれた理由。
邪教が永きの間、力をおかしな壺に封印していたことにより熟成、増幅した。わかりやすく言うと、膨大な時間を経て旨味が極限に増幅した古酒のようなもの。邪教の創始者が調達したその壺は、封印された魔王の力の残滓を育てる格好の環境だった。
その封印が解かれた瞬間のエネルギーが膨大すぎたため、力の残滓が脳に接触し、憑依先への乗っ取りが完了するごく僅かな間に、我のような意識が生まれるイレギュラーな余地を産んだことが理由だ。
そういう意味では、世界を滅茶苦茶にした上で滅ぼしたかった初代魔王と、その初代魔王を信捧している邪教の行動理念は一致していたと言って良い。
邪教は結果的に力を育てた。
とてつもなく大きく、ともすれば初代魔王を超える次元で、な。
そう。
これから生まれる脅威は初代魔王を超える。
0.1秒後、触媒の意識は消え、我の意識も消える。残るのは純然たる破壊の化身。
触媒となった邪教の総帥も、この僅かな時間でそれを察し、絶望している。もっとも、我の意識は認識していないようだが。
かつて世界中の生物が一丸となって挑んだ初代魔王という脅威を、超える脅威。
そんな脅威に挑むのは、当代の魔王と、異世界転移者のゴロー・パインブックのたった2人。
果たしてこの2人の戦力が、3000年前の世界連合と比較して上回るものなのか否か。
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長々と話したが、ここまでで良いだろう。
我としては解説すべきを解説した。
限りなく時間を引き延ばしていたが、頃合い解除して消えゆく定めに殉じるとしよう。
既にこの先の未来が描かれている故、結末は分かりきったものになるだろう。であれば、その過程がどういう代物になり、どのような影響を与えうるのか。果たして。
初代魔王の力の残滓に生まれた意識は、自らの出自である初代魔王と、憑依先である邪教の総帥の知識をベースに話をしています。あくまで知識を用いているだけで、思想は全く影響を受けていません。
邪教の総帥は酒類を好んでいました。だから、唐突に酒の喩えが出ました。
もっと言うと、邪教の初代総帥が初代魔王の力の残滓を封じた壺は、元は当時の酒瓶として用いられている陶器でした。咄嗟に封じることのできる器具が酒瓶くらいしかなかったので。3000年どころか100年くらい経てば、それが元々酒瓶だったとは普通は思わないでしょう。勘づく人は勘づきますが。
つまり、邪教の総帥は世襲制であり、大なり小さいなり酒類の好きな家系でした。当代の総帥は勘づいていた側です。




