表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/86

悪役令嬢事変閑話:亀の竜種、報告する

 当事者ではないが、経緯と顛末を話しておこう。竜種という地上に於いては最高峰の存在ではあるが、俯瞰して見ればいち現場の者に過ぎない我が、管理者に。


 さて、この案件に関する意識合わせは、かの異世界転移者と魔王とも済ませてある。見解も概ね一致している。


 まず大前提だが。


 残念なことに私のようなこの世界出身の者は、事が終わるまであの脅威を認識できていなかった。

 魔王は異世界転生者であるが、肉体がこの世界の者であるから、同じく認識できていなかったよ。

 黄金郷と似たようなものだな。アレは管理者には認識できず、この世界由来の者には解決できず、あの異世界転移者が居なければ解決できなかったことだ。

 故に、これは私と魔王にとってみれば事態が解決し、今回の事象を正しく認識できるようになったからこその見解だ。


 なお、異変に気付く可能性のあった、かの異世界転移者は、脅威そのものに気付いていなかった。それは仕方がない。彼は今回の当事者ではなかったし、そもそも魔力量が高く人材としては優秀を極めているとはいえ、万象を司る人外の特殊能力は持たない。

 元々お前たちの本体から課せられているのは、この世界において未知の文化を導入することだから、こうした世界規模の危機に対応することが管轄外なのだ。


 では、本題に入ろう。


 仮称「シナリオの呪縛」の暗躍は、初代魔王への介入が最初期と見做して良い。

 初代魔王が生まれる土壌を作り、覚醒するよう彼の本来の仲間を誘導し、手痛い裏切りの後、絶望させることで初代魔王が生まれた。初代魔王という稀代の破壊者は、シナリオの呪縛の犠牲者でもあった。


 聖王国は物語の舞台だ。

 故に、物語を展開するためには聖王国を興す必要がある。

 その聖王国を起こす要因は聖魔大戦。聖魔大戦の魔側の首魁が初代魔王。そこが重要であり、シナリオの呪縛にとって聖王ははっきり言って誰でも良かったのだ。


 この初代魔王の存在が、全ての起点となっている。その初代魔王を生み出したのが「シナリオの呪縛」。

 異世界で賛否両論を巻き起こしたクソゲーの熱量が概念化し、世界を跨ぎ、時を遡ってこの世界で舞台化するために暗躍していたのだ。正邪の判断基準を持たず、ただ目的を達成する為の概念であり機構だったのだ。


 驚いたろう。

 気付かなかったろう。

 私も同様だ。これに気付いた時、のうのうと生きてきた3000年とは何だったのか、そう愕然としたよ。


 聖魔大戦を経て興った聖王国は、シナリオの呪縛の介入をもとにゆっくりと、しかし確実に舞台が整えられていった。シナリオの呪縛の影響を受けていなくても、その違和感がまったく抱かれないほど、管理者でさえ気付かないほど、ごく自然に。


 シナリオの呪縛の目的は「ベストエンディング」を迎えることだ。

 つまり、かのゲームの結末を再現すること。悪役令嬢が正義の王太子に断罪され、ヒロインである聖女と結ばれること。

 たかだか、そのためだけに3000年という長い月日を費やしたのだ。常人にはできることではないし、人外や管理者も同様だろう。人格ではなく、正邪の判断基準を持たず目的達成するための概念であり機構と表現したのは、そのためだ。


 初代魔王を生み出し、聖王国を蝕むように誘導して舞台を整えたことも厄介だが、更に厄介なことに、シナリオの呪縛はストーリーを開始してから著しく力を付け始めた。

 物語の進捗度が高くなっていくごとに、強制力がどんどん強まっていく。具体的には、シナリオの呪縛は最終的に攻略対象の1人である王太子をアバターとしたが、彼に関わるあらゆる存在を自分の勢力としたというところだ。本人が持つ思想信条とは関係なく。


 聖王家や聖女、また特殊な力や洗脳への高い耐性を持つ一部の者はそうした洗脳効果を受けなかったものの、もしシナリオの進捗度が100になった場合、彼らも洗脳の対象となっただろう。

 もっと言ってしまうと、聖王国内に留まっていた洗脳の規模が世界的になり、洗脳の対象はこの世界由来のあらゆる生物に及んでいただろう。魔王も、竜種も、賢者も、持つ力の強弱の分け隔てなく。

 更に、ゲーム本編では目覚めていなかった竜王が目覚めている。また、現世で初代魔王や竜王より力を持った聖女もいる。この2人が王太子側に取り込まれるとなると、管理者がありとあらゆる権限を使い総力を持って対処しなければならなくなる。


 シナリオ進捗度が100になった場合でも唯一逃れられるのは、この世界由来の人間でないあの異世界転移者のみ。ややもすると、完成したシナリオの呪縛が彼を異物と見做して排除しようとすることで、聖魔大戦以上の惨劇が起こっていた可能性すらある。彼は聖女より力を持たないが、何でもありの戦いであれば彼のほうが上だ。彼がタガを外してしまえば、初代魔王や悪役令嬢、聖女を超える戦力となるからな。


 はっきり言って、このシナリオの呪縛をこの世界由来の人間が打破することは不可能だった。ある意味、シナリオの呪縛が介入を始めた時点でこの世界は詰んだいたとも言える。


 その筈だが、かの悪役令状役の異世界転生者と初代聖王の生まれ変わりはシナリオの呪縛を打破した。


 2人はそれぞれの動機でこの世界のあらゆる存在を凌駕する強さを身に付けた。私や魔王はおろか、もはやカタログスペックでは世界最強と目すべき異世界転移者をも超える、尋常でない強さを。

 そのぶつかり合いの余波が概念の破壊にまで及ぶなど誰が考えられようか。この世界由来の者が、本来打破できない存在を打破した。これは驚嘆に値する偉業だ。


 3000年の時を経てこの世界に侵食していた異世界由来の凶悪なる概念は、その目的を達成する直前に、進捗度が100になるほんの直前に、途轍もない力を全く者同士の戦いの余波によって消滅した。

 これが、今回の脅威の顛末だ。


「・・・信じられませんね。いえ、経緯や顛末がというより、管理者が感知できない出来事がこうも起こっていたという事実が」


 恐らく本体も頭を抱えていることだろう。

 だが、感知できないバグ、ないしは最初期に仕組まれていた小さなバグが、構築されている世界に徐々に影響を与えるということはありうる話だ。複雑怪奇に入り込んでいる世界で、全くの矛盾もバグもない状況を構築するなど至難の業だ。

 まるで、不完全を承知で生きていかねばならない我々のように。


 そして、大変残念なことだが、再発防止策は無い。今回のシナリオの呪縛のような概念が実は他にも紛れ込んでいて、この世界に悪影響を及ぼしていたとしても、それを感知することはできないだろう。


 見えるところに手をつけるのが精一杯。

 もし、そういった目に見えない不安要素を排除するとするなら、世界を一度リセットするしかない。


「それは・・・」


 あぉ、不可能だろう。管理者の役割として、そんな世界を放り投げるなどというのは許されないことだ。

 黄金郷の教訓を活かしてアバターを地上に送り込むのは手の一つとして確かに有効だ。だが、最終的には起こったインシデントに対して場当たり的な対応をせざるを得ないケースは有り得ることだろうし、もはや手遅れだったということも考えうる。そもそも、アバターがこの世界由来の存在であるから、シナリオの呪縛の感知は不可能。


 それでも、唯一やれるとすれば、異世界転移者の数を圧倒的に増やして、バグ取りに専念させることだ。

 だが、異世界転移者の存在そのものが各々の世界のパワーバランスを崩しかねないし、そもそも異世界転移者は世界の在り方を変えてしまいかねない。

 だから、この手も使えない。

 かの異世界転移者はパワーバランスを崩さないように様々な手続きを経た上での例外中の例外だろう?それでも、非常に強力な個体となっている訳だが。


 つまり、なるようにしかならないのだ。

 今回は結果的に大事を阻止できた。

 次回もそうとは限らない。

 そもそも、その次回が今度はいつ起こるのか。数年後かもしれないし、数千年後かもしれないし、世界や星が寿命を終えるまで無いかもしれない。

 であれば、各々が各々の役割を粛々と果たしていくことが重要だろう。管理者も同様ではないのかね?


「そう、ですね。仰る通りです」


 ふぅ。

 耳の痛い話で大変申し訳ない。

 私としてもこういう話の展開は甚だ不本意だが、現場の報告としては以上だ。事の起こりと経緯、顛末を説明させてもらった。

 その上で所感と進言をしたが、結論を言うとあまり気にする必要はない。とはいえ、最終的な判断は管理者がすべきだがな。


「ありがとうございました。本体にはあなたが仰ったことがダイレクトに伝わっておりますので、私としても管理者の今後の判断を尊重する立場です」


 うん。

 管理者殿には今後もよろしく頼む。


 とりあえず、私はこれからやらねばならぬことがあるので戻ることとする。

 かの異世界転移者の伴侶である代表取締役社長が試食会という名の慰労会を催すということでな。

 ふむ、貴様も呼ばれているのか。ならば仕事の話はここまでにしよう。新作のスイーツがあるとのことで、私や部下も楽しみにしていてな。


 兎にも角にも、こうした催しも、シナリオの呪縛の企みが成功していたら行われなかっただろう。

 かの絶大な力を持つに至った2人には最大級の感謝せねばな。とはいえ、直接会う機会もそう無いだろうが。


 さて、行くとしようか。

 我らは我らの出来ることをして、これからも生きていくのだ。

以上、読切および2話等投稿の悪役令嬢についての脳内設定の書き散らしでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ