悪役令嬢事変閑話:王家の元長兄、血の繋がりを意識する
短いです
私は聖王国第一王子。
だった者だ。
というのも、ごく個人的な事情で市井に降ることになり王家からは嫡廃。
もはや王家とは何ら関わりが無い筈だが、現国王である父とは連絡を取り合うパイプが残存し、かつ私に懐いていた歳の離れた妹である第5王女とは頻繁に面会している。
第5王女は姉の第4王女と険悪な関係ではあったが情はあるようで、あの夜会が近づくにつれ姉にクリティカルな何かが起こるのではないかと危惧し、かつ恐怖していた。
故に、結果的に夜会会場の徹底的な破壊に留まったことは幸いと言える。
いや、歴史的建造物の破壊とかとんでもない話だが、最悪の場合はそんな程度では収まらなかっただろう。
私が嫡廃ののち王位継承権第一位となった王太子である第4王子を除いた全ての弟妹が、各々の事情を抱えて夜会会場ないしは会場付近で待機していたのだ。
何か起こるかもしれないもいう漠然とした不安から、必ず何か取り返しのつかないことが起こるという確信まで様々な理由で。
そればかりではない。
聖王家の血を分けた地方の貴族の子々孫々もそれぞれ何らかの形で警戒していたという。
「図らずも聖王家の特殊性が顕になった出来事でもありましたね。まぁ歴史的に例があることではなかったので、今後もそうそう起こりうることではないでしょうけど」
とは第5王女の言。ごもっとも。
しかし、こう軽く言っているものの、もし第4王子の想定通り物事が進んでいた場合、そうした危惧を抱いていた我々も彼の思想に取り込まれていた可能性があったそうだ。
これは弟妹の中で最も法力に優れている第2王女の言。裏付けはある。全てが終わった後、人外とのパイプが多い元冒険者が同じことを言っていた。そのパイプ先の人外たちは、揃いも揃って元冒険者にそう語っていたのだ。と、教えていただいた。
まぁ、たらればの話だ。
結果的に危機は回避できた。
納まるべきは、納まるべく場所に納まった。
王太子は処分を受け追放。
第4王女は渦中のガーランド家に嫁いだ。
第5王女は貴族学校と王宮を往復する日々に戻った。
私も冒険者に戻った。
そこからしばらくして妻が妊娠してからは基本的にはソロ活動、たまに流れで様々なパーティにスポット参加していたが、今はどういう成り行きか人外とのパイプの多い元冒険者と行動している。
「仕事熱心なのはいいけど、なるべく拠点を離れず、ちゃんと奥さんを気遣える距離で仕事をする環境を構築すべきだ」
そう私に念押す。
子育ての先輩の言葉は重い。
その重みに、先輩の年齢以上のものを感じたが、さすがに気のせいだと思いたい。
とはいえ、私はその先輩からの依頼をこなすことで長期間の遠征をする必要のない依頼を受ける土壌を確立できた。
そこは非常に感謝すべきだ。
が、スタンピードのように国家のみならず冒険者ギルドが総出で取り組まなければならない緊急事態があればその限りではない。
「ところで、だ」
先輩にとっては夜会での出来事は既に過去のもののようで、私に新たな依頼をする。
正式には先輩がギルドへ依頼の手続きをしなければならないが、事前の根回しのようなものだ。
冒険者を引退して商人になった先輩は、目まぐるしい毎日を送っているという。事業は軌道に乗り、ゆっくりする時間は確保できる状態の筈だが、間を置かず新規事業を立ち上げたらしく、忙しさは変わらない。
私がかつて聖王国の第1王子であったことを知る人間は少ないが、それを知ってなお変えぬ態度には好感が持てる。
むしろ、冒険者としての実績と、王宮で培った諸々の能力を評価してくれている。かつての肩書ではなく、今の私を評価してくれることは非常に嬉しい。
詳細は省くが、今度の私のクエストは、かのガーランド家が絡むもの。
はてさて、どんなことが待ち構えていることやら。家で安静にしている妻にどう話すか思案しつつ、私は卓上のコーヒーを飲んだ。
・王家を出奔するエピソード
・夜会で弟妹たちと立ち回るエピソード
を書いていたのですが全没にして数行でまとめています。
初代聖王の血統の特殊性を描きたかっただけです。
王家および血縁者が夜会会場に集った理由は、夜会で起こるであろう騒動や惨劇を直感し、それを回避させるため=抑止力となるためですが、王太子の企みが成功してしまうと御都合主義補正が発生し彼らは抑止力から王太子を支持する端役に転身してしまうところでした。




