閑話:聖女、飛び立つ
私はスカーレットと申します。
聖女、と言ったほうが通りが良いでしょうか。
初代聖王が如く「光」の属性を持った非常に希少、かつ高いポテンシャルないしは既に強力な特異性を持つ女性を指す言葉と定義されているようです。
両親ともに聖王都の家具職人ですが、ひょんなことから見出され教育を受けた結果、名実ともに正式な聖女と認められるようになりました。
果たして聖女が何をするものなのかというと、特に定められたことはありません。
かつての初代魔王のような、どこからどうみても邪悪な存在はこの世界にいません。強いていうなら人は誰しも正しい心と悪の心を持っていますが、魔獣という全人類を脅かす存在がいるので、人類は大きな戦争を起こすことなく大枠で一致団結できているというのが現状です。
平民ではあるものの聖女候補特権で通った貴族学校を卒業した私は、世界各地を旅することにしました。
主要国のみならずそれ以外の国、国として成立していない地域を巡って見聞を広め、私の力をどう活かすべきなのかを模索したいと思います。
「要は、やっていることはガーランド嬢と同じではないか」
失敬ですね。
あの方は世界のありとあらゆる強者と戦いたいだけです。その副産物として見聞を広げているようですが、そもそも領地経営という役目があの方にはあります。今後どうあれ、ご当主の補佐をするという大目的が変わることはありませんよ。
強さの面において、これ以上を求めるのは分不相応というものです。魔王と剣鬼は既に超えています。かつ、魔力を含むカタログスペックでは彼の方より私は上回っていますが、経験というか圧倒的な勝負感で敗れています。率直に言うと、あの勝負感と戦術を上回るのは無理です。超えようとすることが徒労です。
「最早、神にも挑めるほどのガーランド嬢と互角の貴様が彼奴に敗れるというのが理解できない、と言いたいが、神への反逆者である筈の我も敗れているからなぁ。確かに彼奴は理外よ」
彼の方は初代魔王とは別ベクトルで規格外です。初代魔王は私と貴方と勇者の3人がかりでどうにか倒せましたが、彼の方に同じ編成で挑んだとして、果たして勝てるかどうか。
そんなことより、他に優先させることがありますよね。大枠で平定されたこの世界は3000年前とは全く違った様相を呈しています。私が興した聖王都も長い年月で進化を遂げてきました。世界を実質平定させた私たちが、その行く末を見て回る権利はあると思いませんか?
「そこは否定せんよ。まぁ我は眠りにつき、貴様はこの時代に生を受けたのだ。事情は違うにせよ、あの殺伐とした世界が今どうなっているのかを体感したいという気持ちは理解できる」
でしょう?
初代聖王としても、このスカーレット本来の身としても、世界を見て回りたいのです。
「そういえば勇者はどうなったのだ?」
これが、わからないのです。
聖王国を興したときには、行方知れずになっていました。また、少なくとも聖王国には彼のことを記述する文献はほぼありませんし、あっても高々数行。後見人のアークさん経由で竜人族を調べてみても、何も伝わっていないんです。
ええ、世界を回る理由の一つに、勇者の痕跡を探すというのもあります。
人知れず天寿を全うして生を終えたのか。
転生したのか。
それとも、次元の狭間に取り込まれて私たちの理外の世界に転移したのか。
せっかく貴方にも出逢えたのです。勇者がどうなったのかを知りたいという気持ちもご理解いただけると思います。
「そうだな。気の長い話になりそうだが」
私は最早、貴方と同じ不老の身です。
気の長い話にはいくらでも付き合えます。
・
・・
・・・
「む」
感じましたか。
ある意味で懐かしい、しかし二度と感じたくなかった気配ですね。せっかくのキャンプもこれで終わりにせねばなりません。
とはいえ、これは想定は全くしていなかったというか、これもガーランド様の仰ったシナリオの呪縛というものですかね。
「ふむ、気配の質はあの時と同じだな。黄泉還ったか、力の残滓が蓄積されて爆発したか。何にせよアレを知る我々が行かねばならんな」
飛べますか?
「無論。竜化する。貴様は背に乗れ。かなり遠いが、星の反対側にあるわけではない」
形は不明ですが、スタンピードも霞む超級の厄災であることには間違いないようです。
そしてこの厄災、恐らくすぐ行動可能ですね。辿り着くまでに被害が少なければ良いのですが。
今世は前世と違って攻撃偏重の性能になっていますが、こうなるとやはり勇者も一緒だと良かったと思います。
「前衛・中衛・後衛のバランスがよかったが、仕方がない。我と貴様の前衛コンビで抑え切るしかない」
ええ。
しかし、人化した姿も良いですが、竜化した貴方は本当に素敵ですね。惚れ直します。
「言っている場合か。よし、乗ったな。全速力で向かう」
よろしくお願いしますね。
さて。
率直な戦略分析をするのであれば、かつての初代魔王が相手であれば、今の私なら単独撃破が可能です。
まず、武術や魔力による肉体操作補助の技術が発達した現代では、個々人の戦闘能力は3000年前とは比較にならないほど高まっていますが、あくまでそれは市井の話。
冒険者クラスにおける上位級の力は、実は3000年前の英傑たちと比べて大きな差はありません。平均値が上がったにせよ、最大値が上がった訳ではありません。
つまり、もし、かつての力をそのまま携えて初代魔王が蘇ったとしたら、現代では間違いなく最大級の脅威です。現魔王は歴代魔王の中でも抜きん出た実力を持つとされていますが、そんな彼でも届きません。竜様であっても同様です。
対抗できるとして、私か、ガーランド様か。
・・・はたまた、そんな私やガーランド様を降した異世界転移者か。
願わくば、私が辿り着く前にそういった特記戦力が足止めしてくれることを。
そして。
私が辿り着いたら3000年越しの因縁にこの手で終止符を打って差し上げましょう。
竜様のお手を煩わせることはありません。
その思いとともに拳に力を入れたと同時に、竜様は超スピードで野営地を飛び立ちました。
カタログスペックは
五郎<超えられないカバー<竜<エリス(悪役令嬢≒スカーレット(聖女)
ですが、実際に戦うと
竜<エリス≒スカーレット<五郎
となります。
バリアを貫通し、防御も半ば効果がなく、ノータイムかつ一撃必殺の波状攻撃が可能な五郎にとって、強大すぎる力を持つエリスもスカーレットも「攻撃開始を決めて実行に移すのに0.1秒以上かかるのであれば撃破は容易」と見做す対象となっています。
現魔王の最後の仕事の閑話でした。




