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閑話:賢者、引き篭れない

 私は地上において「賢者」と呼ばれていた者だ。


 今では聖王国と呼ばれるこの土地の、とある山脈の、この世界において唯一の「ダンジョン」と見做せる迷窟の最奥部に工房を構え、悠久の時を過ごしている。


 階層にして100。道中には魔獣がひしめき、総規模はスタンピードに匹敵する。つまり、世界のバグの中心地でもあり、封印地でもある。

 階層を降りるごとに脅威度は増し、最終的にはAランクの魔獣が徒党を組んで襲いかかるという、世界で最も危険な場所と言える。


 そこの最奥部でやっていることと言えば、この世界の成り立ちの研究だ。とある出来事から我が身は半怪異化し、エルフといった長命種を遥かに上回る寿命を得るに至った。具体的には聖王国の建国前に私は生を受けたと言えば分かるだろう。


 精神は元の人間種に近いとはいえ、そこも半怪異化しているので時の経過による劣化はない。とすれば、やることは真理の追求であり、それが世界の成り立ちを辿ることに繋がる。


 裏を返せば世界の成り立ちを辿ることは莫大な時を費やしてなお完結しない、長命種を超える私にとっては壮大な暇潰しだ。

 私には世界そのものへの害意を持っていない。故に、世界情勢に関わることなく、世界の成り立ちを追及する術を持っている。



「つまり隠しボスみたいな扱いということですわね」


 身も蓋もない。

 そもそも、私は敵キャラではなくただのNPCの延長線上のようなものだ。

 世界に対する害意もなく、今を生きる人間たちを害する意図もない。かわりに世界情勢を把握していても世界の脅威を取り除く抑止力になるつもりもない。


「語るに落ちたと言うべきでしょうかね?積極的に関わるつもりはなくても、実際に関われば抑止力にも破壊者にも足りうるだけの力は持っていると言えますわね」


 そこまで自惚れてはいない。

 だが、半怪異化し、また悠久の時を研究と研鑽に費やしてきたのだ。非才の身なれど相応の力は持っている。

 現在の地上の強者をバロメーターにするのであれば、悲しいことに私の戦闘力は現魔王以下くらいなものだ。しかも、既に私より格上の「竜」をお前は降している。私が戦って勝てる相手ではないのだよ。

 身も蓋もないことを言うと、お前の前世のゲームでも竜を倒した後に悠久の賢者と戦うことはシナリオ上、出来ない。


「あー、そうなんですね」


 む、その認識はなかったのか。

 まぁ攻略的にも悠久の賢者を倒してレベルキャップを上げなければ竜には勝てない仕様だ。順序を逆転させた際の挙動を知らなくても無理はない。シナリオを作った者は何故かそのエピソードを組み込んだようだがな。

 更に言うと、シナリオの呪縛を乗り越えているのだから、私がそのシナリオに誘導される必要もない。戦うこともできるが、戦わないさ。


「では、どうあっても貴方は私と戦わないと」


 繰り返すが、戦う意味も理由も気も無い。

 そもそも、ゲーム内での最強エネミーは竜なのだ。戦うのであれば、ゲームに登場しない者ならば今のお前の相手にはあるいは。


 ふむ、可能性としては魔王が挙げられるが、ゲーム内では竜に劣るという記述がある。相性の都合で実は良い勝負になる可能性もあるが、その記述のせいで魔王は竜を上回れない。


「シナリオの呪縛を乗り越えた今なら、魔王が力を付けて竜以上になっているという可能性は?」


 あるやもしれぬが、期待はしないほうがいい。

 それよりも可能性があるのは、そうした強さの寡多の記述の対象外となっている者。

 端的に言うと、ゲームに登場しない者だ。例えば、ゲームに登場しない皇帝は、強さこそ魔王に及ばないが、記述の対象外であるが故に竜を上回りお前の相手ができる可能性がある。


「あ、皇帝さんとは手合わせしていただきましたわ。勝利しましたけど」


 勝ったんかい。

 というかお前、あくまで他国の侯爵令嬢でしかないのに、一国の主に謁見して戦いを挑んで勝っちゃうとか国際問題にならん?


 というかね、

 私は地上に関わらないだけで情勢情報は仕入れている。ならね、うってつけの相手がいるんだよなぁ。


 本人は積極的に言わないが、ゲームのキャラクターになぞらえ得る異世界転生者ではなく、異世界転移者という完全なるイレギュラー。

 ばかりか、黄金郷の踏破と、過去最大規模のスタンピード解決の立役者。世代が僅かに上ではあるが、市井でもその名を知られ、冒険者を引退したとはいえ個の戦闘力は魔王を上回りる傑物。

 ある意味では、この世界の裏ボスと言ってもいいだろう。恐らく、彼女の頭の中にも同じ人物が思い浮かんでいる筈だ。


「急用がありますのでこれで失礼します」


 そう言って彼女は工房から去った。


 ちなみに、いま地上でこの魔窟を乗り換えて工房に訪れるだけの力を持つ者はかなり限られる。

 それこそ魔王、覚醒したゴブリン族の女剣士、そして異世界転移者くらいだろう。

 とはいえ、あの侯爵令嬢のカタログスペックはこの3人を上回る。戦いの余波が概念を消滅させるなど、神の御業に他ならない。力の度合いが飛び抜け過ぎているのだ。それでも、経験と勘の差で戦況をひっくり返しかねないのが彼らの恐ろしいところだが。


 次点で信頼できるお供を連れた皇帝か。とはいえ、かなり厳しいだろうな。皇帝が更に力をつければ、あるいは。


 ふむ、何か致命的なことをしてしまった気がしなくもないが、恐らくは些細なことだろう。それよりも、嵐が去ったことだし我がライフワークに戻るとしよう。

 異世界の観測はこの工房内では可能なのだ。その異世界群とこの世界を相対化させ、その差分からこの世界の成り立ちを辿るのだ。


・・

・・・


 この陽の差さぬ工房内において時間の経過を数えることは本来意を成さないものだ。

 が、ライフワークに戻ってから凡そ1ヶ月くらいか。

 世界一危険な場所にある筈のこの工房に、来客があった。


「ガーランド嬢に俺が異世界転移者だと嗾けたのがお前だな。正直、生きた心地がしなかったぞ」


 うわぁ。これキレてない?

 あ、そうか、私の致命的なミスはこれだった。思わず彼が異世界転移者であることをバラしてしまっていたんだった。


 すまない、悪気はなかったんだ。

 いや、わかるでしょ?あんな規格外も規格外な化け物を前にして、つい手持ちの情報を明かして矛先を変えようとしたい気持ちを。


 あれ?ちなみに君は彼女を


「倒した」


 嘘でしょ!?

 あれは物理に物理を極めて概念さえ打ち砕くほどの力を得たモノホンの化け物だよ?戦い方次第では勝てるかもとは思ったけど、勝てるものなんだなぁ。


「感慨に浸るのはどうでもいい。世界の成り立ちを暴くことをライフワークとしていると聞いた。なら、令嬢を嗾けた詫びに魔王のところに強制連行して、お前の研究結果を披露してもらうことにする」


 拒否権はないですね、わかります。

 そうして、私は数千年ぶりに地上に出て陽の光を浴びることになったのだった。

最強の力<初見殺し


かくして強制連行された賢者から根掘り葉掘り情報を引き出したことで、魔王のライフワークは一段落となります。

賢者としてはまだ解明されていない謎が山ほどあるという認識ですが、魔王はあくまで自分自身の納得感と為政に活かすために世界の謎を紐解こうとしていたので、賢者ほど世界を深掘りするつもりはありません。


ただ、解き明かした謎のうち賢者が観測した「とある事柄」だけはどうしても無視することができず、近い将来それと向き合わなければならなくなりました。

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