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閑話:聖王、危惧する

 私は85代目聖王だ。


 約3000年の歴史を持つ聖王国の最高責任者であり、その名の通り王だ。


 聖王とは世襲。総合力での完全実力主義の襲名制である魔王領の魔王とはこの点で異なる。故に、聖王家由来の特殊な力を持ちはするものの、私自身はどうしようもなく凡人である。


 生まれ持った特殊性はあるものの、聖王家に連なる血筋であれば大なり小なり持っているものだ。そんな私が王となれたのは、兄弟姉妹に比べて優れていたから。家族内での相対的な優秀さはあっても、世間一般での絶対的な優秀さはないことを、強く自覚している。


 それでも王としてやってこれたのは、既に聖王国が完成された政治体制を確立していたことと、優秀な家臣たちがサポートしてくれているからだ。

 もし私が帝国の現皇帝のような幼き頃から四面楚歌の状況に居たら、たちまちのうちに暗殺されて終わりだろう。だからこそ、他国ながら才気溢れて親友の忘形見である皇帝に心理的な庇護をしたわけだが。


 要するに私は恵まれているのだ。

 そんな恵まれた私だからこそ、その恩恵が全く通じない相手が天敵たりえる。


「言うに事欠いて天敵とはご挨拶ですね」


 いや、どう考えても天敵だから。


 アーク・パインブック。


 過去は我が聖王騎士団の団長すら凌ぐ凄腕の強さを持つ冒険者。

 今は新進気鋭の商会の代表取締役であり、私を王ではなく商談相手として接しているその豪胆さ。

 国家の代表を「個」と見做して交渉するなど、今までそんな者は居なかったぞ。


「無茶振りしている自覚はありますけど、ちゃんと利益は齎していますよ。そもそも、本当に嫌なことだったり、国家のためにならないことだったら、ちゃんと拒否しますよね」


 そうだな。

 だが、逆にいうと彼女は聖王国に結果的に利益を齎す提案をし、最終的にはプラスになっているものの相当な無茶振りをした結果そうなっているとも取れる。


 無茶振りが大前提なのだ。


 聖王国における国家国民規模で「風呂」の文化をを定着させる。

 そのために支店を聖王都に作り、特定条件に合致した人材を国に集めさせ雇用、遊ばせている国有地を商会が安く買い取り、公衆浴場を建設し、市井に文化が広まったあたりで個々人の家に風呂を比較的安価に設置させる。


 その過程で国が出した費用は相応に大きい。

 しかし、個々人の邸宅はともかく公衆浴場における収益は「入浴税」として国庫に入る。その額はバカにはできず、国が出した費用はおよそ5年で回収し、以降はメンテナンスを加味しても黒字に転化する見込み。文化として定着したばかりの今の世代だからこそのご祝儀感はあるものの、早々に廃れることはないだろう。


 なお、これらの一連における私を最終承認者とした決済は100を超す。確かに無視できない利益にはなったものの、手続き面だけ見ても非常に負担が大きいのだ。況や資金面をや。


 そして、風呂の次は食品流通に手を出した。

 詳細の過程は省くが、輸出入が加速して国内の食生活が潤ったものの、これに関連する国家稟議の数は50を超える。


 国家を通したため、これらはいずれも準国家事業という扱いだが、商会も当然収益の恩恵を受ける。これを世界のあらゆる国で行っている商会の総資産は国家予算に相当する規模だし、アーク・パインブック個人の資産は恐らく国家首脳である私個人より上。


 首脳国サミットで商会の力を分散させることに成功してなおこの様相だ。

 それほどのやり手こそが、アーク・パインブックという女傑だ。

 この世界には魔王や彼女の夫であるゴロー・パインブックという規格外はいるが、ゴローは政治面で台頭せず、また魔王はバランスを重要視し逸脱した行動をしない。


 彼女自体は自重や配慮をしているのかもしれないが、振り回される側としてはそれでも自重していないと感じつつも振り回されるのが、この女傑の恐ろしいところなのだ。


「さて、今日は何の用向きなのだ」


 露骨に溜息をついた私は、腹を括った。

 この程度の嫌味に臆するアークではないことは、よく分かっている。天敵なのだからな。少々の悪態は許されたい。


「聖王国が運営する貴族学校がありますよね?非常に高水準の教育を施している、世界最高峰の教育機関。そこに、見込みのある平民を1人、入学させて欲しいというお願いです」


「貴公が推薦するならば余程の人材なのだろうし、身元保証も問題なかろうな」


「とはいえ、原則的に聖王国および友好国の貴族しか入学できないとされる貴族学校に入学させたいと請うのです。その最高責任者に仁義を切る必要はあるでしょう。なので、事務的な手続きを進める前に謁見をお願いした次第です」


「ふむ、ではその見込みとは」


「いま、別室に控えてもらっています。直接『彼女』を見てご判断いただけるとよろしいかと」


・・

・・・


 我々は別室に移動し、アークが推薦する『彼女』と面会した。


 成程、結論としてはやはり『厄ネタ』である。


 一体どこでこんな人材を見つけてくるのか。聞けば懇意にしている家具屋の娘とのことだが、なるほど私は王としてではなく彼女のポテンシャルを測るバロメーターとしてアークに使われたと言って良い。


「聖王国王家は初代聖王の血を絶やさず世襲にて王座を継承している。それは、初代聖王が類稀なる特殊な法力を有していて、その力を絶やさないようにしているからに他ならない」


 その話を私はアークにしなければならない。

 そもそも教会僧侶が使う治療魔法の類は、特級に稀少な聖属性魔法を万人に使えるようにしたデッドコピーだ。

 私は凡人だが、その聖属性魔法を使えるという点で特殊性を持っている。聖王国王家の血筋に連なる者は、強力ではないものの聖属性魔法を使えるのだ。


 勿論、市井で聖属性魔法を使える者が発生しないわけではない。だが『彼女』のポテンシャルはそうしたレアケースや現王家とは次元が違う。


「元冒険者の見立てとしては『彼女』は遠からず私を超えます。また利発で今のうちから高等教育を施すことで何かの分野において目覚ましい功績を残してもおかしくないと思いました。あとは、彼女から感じる私では具体化できない不思議なポテンシャルを、王自らに測っていただきたかったのです」


 成程なぁ。

 アークはアークで気遣ったのだろう。

 ややもすると初代聖王の再来と言われる人材。それが王家が囲っていない形で世に台頭した場合、3000年の歴史を誇る聖王国ひいては王家の威光が揺るがされかねない。

 それは確かだ。最悪の形だと対立関係になりかねない。ただ初代の血を引く王族と、初代のような力に溢れた新進気鋭の若者と、はてさて民衆はどちらを支持するか。


 だからといって今その存在を認知してどうにかしろというのは、それはそれはで酷な話だ。一体何をどうしろというのか。


 あ、だから貴族学校に入学させることで王家としては彼女を囲いつつ、卒業するあたりでどういう扱いにするのか決めろということか。そういう執行猶予があるのは素直に助かる。


「当然ですが、入学にあたっては私が後見人となりますし、彼女の様子は定期的にチェックします。場合によっては、私が彼女を制御、制圧に乗り出すことも可能性として考えています。成長度合いでは歯が立たないでしょうが」


「厄ネタを見つけ出したことを咎めるべきか、感謝すべきか。後者であろうな。うむ、あとは事務手続きを進めてもらえればそれで良い」


「ご高配、感謝申し上げます」


 ともすれば、アークは脅威となりうる存在を脅威とならないよう働きかけ、かつ稀少な存在を遊ばせないよう立ち回ったということか。


 その後、件の『彼女』は聖王およびパインブック商会を後ろ盾として貴族学校に入学した。


 齢13にして強さはアークに一歩及ばない程度と凄まじい。騎士団長は「また私より強い者が出てきたのか」と嘆息をついたが、ああいう例外を除けば彼は単独で強力な魔獣や怪異に対抗しうる英傑である認識は変わらないので、強く生きて欲しい。


 しかし自身の力を完全に制御できているわけではなく、また貴族特有のマナーはもちろんのこと学力も一般的な貴族学校生徒に比べて劣る状態。

 こういった学力面を補填しつつ、初代聖王に比肩する力を発揮できる将来を手に入れてくれれば重畳。卒業までに聖王国はその環境を用意する。


 たかだか貴族学校に平民を入学させることについてここまで考えないといけないということに辟易しなくもないが、それだけに収まらないような気がした。

 それは、私やアークのこの選択が、世界が存続するか滅びるかといった更にスケールの大きな賭けに世界を追いやったのかもしれないということ。


 杞憂なのかもしれないが、そう直感めいた不安を抱きつつも、私は決裁に追われる日々を送るのだった。

引っ越し関連で時間が取れず間が空きました。

次回投稿は未定ですが、エタるつもりはないので、細々とちょくちょく閑話を書こうと思います。

引き続きお付き合いいただけますと幸いです。

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