教会組編06:神造聖女、選択を迫られる
「っ・・・・!!」
昏倒事件を追って辺境国王都の郊外にある貴族の邸宅地下に侵入した俺とアインスは、ソレを見て声にならない声を出した。
少なくとも俺にとっては既視感と言っていい。
明かりの差し込まない、監禁用とも思える空間。鉄格子の存在が場の説得力を持たせる。
魔力を動力源としているランタンに照らされた室内と鉄格子。その先にソレがいた。
「こいつが怪異か・・・」
鉄格子の先。
つまり牢屋の中には幼い女の子がいた。
見た目5、6歳くらいか。
女の子の姿をした、怪異。
牢屋にいるには似つかわしくない高級そうで豪華なドレスを身に纏っているが、目は虚で体に力というか、それこそ『生気』が感じられない。
手首も細い。ウェーブがかったブロンドの髪はひどくボサボサ。まるで、栄養の行き届いていない海外の貧困層の子をテレビで見たときのような。
そして、少女の周りには黒い縄のようなものがまるで意志を持っているかのように蠢く。まるで黄金郷で敵対していたときの土地神を彷彿とさせるかのように。これが俺の既視感の正体だった。
俺は唖然としていたものの、すぐに思考を取り戻した。が、アインスは何かにショックを受けているのか手を口に当てて目を大きく見開いていた。
「アインス!」
事態を解決させる張本人が何も動かない、考えないのは悪手。
もしかしたら少女の周りの黒い縄のようなものが攻撃してくるかもしれない。決して広くない室内で波状攻撃を仕掛けられたら、俺だけならともかく誰かを守るのは非常に難しくなる。
「すみませんゴロー。ええ、彼女が昏倒事件の犯人であり、怪異です。牢屋に鍵がかかっていますが、開けていただけませんか?」
正気に戻ったアインスの言葉を受け、火魔法と風魔法をミックスさせて熱を持った振動する剣を作り、格子の切断を試みる。
「黄金郷の呪いは元々権能であったものをグレードダウンさせたものです。黄金郷の人たちを守るために、直接作用させるには神の力は強すぎるものだったためです」
格子の切断には多少なりともの時間を要する。その時間を使った解説、説明の類だと解釈した。
「故に神より圧倒的に出力の劣る怪異がその力をグレードダウンする必要はありません。つまり、これは魔法、魔術、更には呪いの類ではなく、この怪異の権能によるものです。なので、隠蔽の機能が元々備わっていたのでしょう」
説明が続くものの、一方でアインスは言葉を出すことに怒りや焦燥、少なくとも良い感情を抱いていないようだった。拳を強く握り、時たま言葉を止めて歯を食いしばっている。
「ゴローに分かりやすく言うと、コレは非業の死を遂げたまつろわぬ魂が受肉して、同時に強い権能を持つに至った怪異です。魂は輪廻の巡りに合流せず地縛霊のようなものになり、強い情念により実体化し、更には受肉するという、この世界では極めて珍しいケースです」
魂の具現化。
地縛霊。
ということは、この怪異は。
「詳しい素性はともかく、これは外見年齢と似合う年齢で、ここで死んだ者の魂の具現です。生気を奪おうとしているんじゃなくて、怪異とはいえ生きようと本能的に足掻いた結果、生気を奪うために権能が自動的に発動したと見るのが適切です。そして悲しいかなこの権能、1000人分の生気を集めてようやく自身の使える子供1人分の生気を充足できるようになるほど自己への効果が弱いものです」
アインスが苛ついている理由がわかった。
もしこの怪異がここの貴族の子だったとして。
事情や経緯や親の意図はともかく牢屋に入れられて、死んだとして。
と想定したら、それだけで怒りが込み上げてくる。俺の立場では本当にそうかは調査しないと分からないが、アインスは少女の死因や権能を行使した理由、もしかするとその経緯すら読み取ったのかもしれない。
だから、アインスは苛立っているのか。
マザーを害したことが許せない。
だが、その加害者は生きたいと願った悪意なき幼い少女。
怒りの振り下ろしどころが無いのだ。
「私はどうしたらいいんでしょうか」
苛立ちを隠せない声色でアインスが聞いてくる。
まず、はっきり言って、俺にとってその怒りの遣り場は一つしかない。これは今のアインスには思いつかないことだろう。
が、それ以前にこの少女は明らかな怪異であり、同情して仮に1000人分の生気を集めて目的を達成させたら、ただ助かるだけでなく人類の脅威として完成する、という結果になるかもしれない。
怪異たる少女の行為を見逃すことに多大なるリスクがある。俺の視点ではそうなる。
あの夜空が大好きな吸血鬼も、今後人類が空をメジャーな交通手段とする時代が来た場合、今と同じく併存できるかわからないのだ。それは本人も自覚的に、かつ自虐的に言っていた。刹那の併存になるかもしれない、と。
「もしこの怪異を助けたいというなら手段は2つ。1000人分の生気を吸い取り終わるのを黙殺するか、デグレードした女神のアバターとはいえ竜種を超えるアインスの生命力をこの怪異に分け与えるか。いずれにせよ、怪異が目的達成した後に人類の脅威になる可能性があるのが最大のリスクだと思う」
「リスク・・・」
選択肢を提示したが、リスクを勘案するならこのまま怪異を討滅するのが1番手っ取り早い。
倒すか、倒さないか。
この怪異に対峙したのが俺だけなら倒すしか選択肢が無い。そもそも、俺にとっては一撃必殺となりかねないあの黒い縄のようなパスが襲いかかってくることを常に警戒しなければならないのだから。
だから、その是非をアインスに問う。
「・・・わかりました、決めました」




