閑話:男子会という名の密室での目線合わせ
「待たせた」
そう言い魔王は席に座る。
ここは聖王国の冒険者ギルド併設の食堂の個室。ギルドマスターなどギルドの役職者の会食で用いられる、クローズドかつ重要な会談を行うための場だ。
大体こういう場には壁面に絵画が立て掛けてあったり、テーブルの上に花の活けられた花瓶が置いてあるものだが、そういう豪華に見せるための飾りの類が一切ない。
部屋の四隅に灯りのための簡素なランタンがある程度。完全に話と料理に集中するためだけの設計がされてある。
俺は魔王とサシで話をする。
議題というか、主題は「元の世界とこの世界との差分について」だ。
異世界転生者である魔王は、前の世界で若くして亡くなった。彼が亡くなってから、俺が異世界転移をするまでの間はおよそ20年強。同じ世界出身でも、ギャップがある。
そのギャップを埋めた上で、前の世界とこの世界の差分を埋めなければならない。
「なるほど、携帯電話を持つことが当たり前になっているのか」
「そうですね。性能も随分上がっていて、ただ電話とメールをするだけじゃなくてインターネットもパソコンと大差ない情報量を見る事ができていました。スマホという薄型の携帯ゲーム機のような形状でタッチパネルで操作するものに進化して、動画の再生や高クオリティのゲームも出来るようになってます」
「ふむ」
「そうなる要因として、通信技術が急激に進化したというのが挙げられますね。例えば通信系モジュールを自販機に組み込んで売上や在庫の管理をするとか、そういうこともやっています。あと、俺が転移する前あたりではSFで語られていたレベルのAIの実現性が叫ばれてました。それこそAIが人類を滅ぼすことが現実味を帯びてきたという学者が出てくるくらいに」
「とんでもないな。いや、同じ世界出身とはいえ、まずは20年の世代間のギャップを埋められてよかった。そういう意味では、門外漢のこともあるだろうが今後もちょくちょく話を聞かせてほしい」
魔王は顔を俯かせて深く熟考する。転生前の魔王は美男子という感じだったが、転生後の今は女性と見紛う美貌になっている。
一挙手一投足に艶を感じるほどだが、いざ戦いになると卓越した剣技と膨大な魔力で一個師団どころではない戦闘能力を発揮する。
魔王曰く、剣技ではアークに勝てず、魔力量では俺に勝てないとのこと。だが、総合力が高いというのは確かだし、そもそも魔王の強みはほとんど瞬時再生に近い自動回復と、戦局を見定める補佐となる解析能力だろう。
他に勝てても魔王に勝てる気がしないのは、恐らく頭の地力と解析能力で対策を練られるからだ。瞬発力で対応するにも限度がある。結局は消耗戦になって、自動回復を持つ魔王が勝利する。そんな未来しか見えない。
他愛の無い話から気になる点をピックアップして深掘りする。その繰り返しで既に数時間は経過していた。
既に用意されている軽食をつまみ、飲み物をいただき、また中座してトイレに行くことはあるものの、魔王は俺の話をどんどん吸収していた。
魔王がそれなりに俺の話した知識を吸収して、世代間のギャップを埋めることができたと判断したので、攻守交代。
「さて、これらの話を踏まえて、前の世界とこの世界の差分は何になりますかね。大体、中世西洋あたりの文明レベルに魔法が加わったと雑に見ると
」
「やはり兵器類だろうな。魔法という概念があるから科学の発達が遅い。初代聖王の頃からブレイクスルーがない。まず電気機器が存在しない。移動手段にしても船を水蒸気で動かすのが精一杯で車や飛行機が存在しない。そういえば馬車はあるが自転車もなかったな。冷蔵庫やコンロはあるが動力は魔石。そんな中で、戦術兵器どころか銃が生まれる筈もない。国家間の戦争がないとはいえ、魔獣やスタンピードの脅威があるから、あってもいいものだがな」
「あー、やはりそこか」
「戦国時代も銃の台頭で戦争の仕方が変わったし、近代では戦闘機で殺戮兵器を投下と更に戦争の仕方が変わった。どうしても白兵戦をせざるを得ない場面もあるだろうが、ドローンと言ったか?それが更に進化すればその必要すら完全に無くなるだろうな」
「ドローン・・・確かになぁ。可能性は秘めている」
「加えて身体能力の差だな。訓練や魔力によるバフで、前の世界の住人・・・便宜上「現代人」と呼ぶが、それより遥かに上の身体能力をこの世界の住人は持っている。それこそ、銃が不要な要因となるくらいには」
「あぁ、あと種族差か」
「そう、現代人は人種の区別こそあったが、こちらでは種族そのものに差がある。種族ごとに優れた特性を持つ。現代人に相当するのは人間種だが、訓練や魔力のバフで身体能力は段違いな上に、多種多様な亜人がいる。言うまでなくお前の細君とかな」
「そういえば、どれくらい亜人種はあるんですかね?」
「代表的なものとしては20くらいか。獣人族も狼人族や猫人族、オーク族など細分化すればキリがないし、もしかしたら歴史に現れていない未知の種族がひっそりどこかで生活を営んでいる可能性もある」
「これに竜種や一部の怪異といった例外的なれどコミュニケーションが取れる存在も含めるとなると、人種どころか種族の多様性は世界間の違いのひとつになりますね」
「種族差があることによる問題って何だと思う?」
「えっと、文化の差ですかね?」
「それもあるが、医療の問題がある。前の世界でも右胸に心臓があるという話を聞いたことがあるが、種族によって器官や内臓の有無や場所の違いや、また同じ器官であっても構造が異なる場合もある。画一的な治療ができないし、だから踏み込んだ治療が必要な場合はその種族専門の医師でないと手を出せないことが多い」
「あー、でも代わりに回復魔法が」
「アレも表層的なものだけで万能ではない。打撲、傷、骨折ならある程度対応出来るが、いわゆる風邪や伝染病といった疾患には無意味だ。水浴びや洗浄魔法があるから清潔の観点は保たれているが、確かにこの世界には風呂という文化はないので、清潔を保つ観点からも風呂の文化の拡散は是非お願いしたい」
「とはいえ、魔王も前の世界の記憶があるなら風呂を忘れていたわけではないんじゃ」
「いや、完全に抜け落ちていた。お前に教えてもらうまで何故その発想に思い当たらなかったのか不思議なくらいだ。転生の際にそこが抜け落ちるような仕組みになっていたのかもしれない。もしかすると、転生による制限のようなものなのかもな」
「アインスさんにも来てもらえればよかったかな」
「彼女は女神のアバターだ。管理者が積極的に世界の理を変革することはできないはずだ。だからこそお前を転移させたと考えるほうが自然だと思うが」
「なるほど」
そうして話が白熱していると、ドアがコンコンと鳴った。
「お時間になりましたので、夕食のご用意と、お連れ様をお呼びしてよろしいでしょうか」
「あぁ、そんなに経ったか」
「お願いします」
俺と魔王はお互い一息ついて、ウェイターの申し出を了承した。
かなり話をしたと思ったが、それでも足りないくらいだった。違いを洗い出して是正していくのは非常に大変だ。しかも、メモ書きなどない。残すことがリスクになるからだ。
聞き漏らしや覚え漏らしがあることが前提の会談。
とはいえ、得るものばかりだった。魔王は聖王以上に世界のことを知る人物。彼から話が聞けるということがそもそも僥倖なのだ。
「俺も少々疲れた。先ほどまでの話はいったん置いて、あとは楽しく歓談タイムと行こう。久々のオフ、満喫しなければな」
魔王は聖王との会談で聖王国に訪れている。明日が会談で、今日は本来はオフの予定だったが、俺たちが偶然聖王国にいることで夕方までの予定が変更になった。
俺は俺で魔王の提案に乗った形になった。お互い、認識の齟齬を是正した上で世界の中での立ち位置を確立させたいという意図があった。
そういう意味では有意義な時間だった。
当然、アークと一緒に来ていたが、魔王の妻になった元側近さんと女子会と称して街に消えていった。
「と思ったら、すっげぇ大物連れてきているのはどういうことかな」
「いやー例の喫茶店行こうと思ったらお見かけして、女子会に合流させました」
「させましたって、うーん、お忍びスタイルとはいえ皇帝だぞ?いいのかな・・・」
アークは皇帝もといリャンと、近衛兵長のシアユンを連れていた。そういえば魔王が聖王国に来た目的は三国会談。魔王と聖王と、皇帝。
であれば皇帝と出会う可能性がなくはないものの、こうも都合よく出会うとは思わず、しかも誘うとは思わず呆れていた。
「あはは、思った以上に早い再会になりまして、その節は本当にありがとうございました」
時間軸的には、俺が帝国に行った約1ヶ月後。情緒的な別れをして、次に会うのはいつの日かと思っていたが、確かに思った以上に早い再会となって気まずさすらある。
「まぁ料理はアークがいるから大量に用意していてそこは問題ないか。ビジネスの話が少し出るかもだけど、基本的には純粋に歓談と会食の場で、それで問題なければ」
「問題ないです!」
「右に同じく」
リャンの快活な返事と、ようやく口を開いたシアユン。
女子会で何があったのか聞きたい気もするが、俺たちはアークにも話せない秘匿案件を話していたので、聞くのは野暮だろう。
ギルド食堂の店員が個室の用意を終えてから、俺たちは改めて個室に入った。さて、本当に楽しい話になればいいんだが、果たして。
アーク「え、もしかして帝国の皇帝さん?」
リャン「ゴブリン族の女性で、その自然体ながら隙のない佇まい・・・ゴローさんの奥さんです?」
シアユン「この方が・・・なるほど」
その後、アークとリャンの2人は手合わせをしてリャンが魔法を絡めて全力で挑むもアークは結果的に剣技のみで一蹴。シアユンは驚嘆。
更にその後、アークとリャンの2人は意気投合してシアユン、元側近と女子会と称して某パーラーで平和に歓談。
更に五郎たちを含めた会食後、皇帝に思うところのあったアークが極秘にリャンとコンタクトをとり、とある密約を交わすことになった。
アーク「帝国城?警備がザルで侵入容易なんですけど」
シアユン「」
リャン「一応聖王城と同じくらいの警備体制なんですけど」
エルフ女王「王なので正面から入れてもらいます。アポ?知らない子ですね」
リャン「」




