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帝国編15:元事務職員、帝国を去る

帝国編最終話です。

 結果的に俺の目的は十分達成された。


 いや、むしろ想定していた遥か上で達成されたと言っていい。今後行いたいビジネスに関してだけでなく、極めて個人的な、解決できないかもしれないと思っていた不安も見事に解消できたからだ。


 竜種とのコンタクトは大成功。

 かつ、ほぼ間違いなく今後も付き合いは続いていく。それこそ個人的な感情としては感謝してもしきれない。


 また、竜種は帝政に関わることはないが、帝国とも今後友好的な関係を続けていきたく、面会の頻度を上げるばかりか竜種側が帝城に赴くこともあるとのこと。


 さすがに帝城では眷属も含めて人化するとのことだが、それでも長い帝国の歴史の中で竜種が積極的に動くことは前代未聞のため、リャンもシアユンも唖然としていた。


 で。


 そのリャンだが完全に立ち直っていた。

 とても晴れ晴れとした表情をしていて、帰りの道中でも他愛のない世間話を振ってきたり、無茶振りのようなお願いをしてきたり、気遣いをしているのか自由奔放なのかわからないスタンスに拍車がかかっていた。


 まぁ、そうだな。立ち直ってもらわないと困る。困るのだが、立ち直ったら立ち直ったでこちらが疲れる。振り回されること自体は別にいいのだが、ある意味で気が休まらない。


 兎にも角にも、俺たちは竜種たちと別れて、帝都に戻った。

 一応俺はまだ冒険者ではある。

 そして、今回の道中もギルドを経由した冒険者としてのものだ。

 だからギルドに話し得る範囲での報告をしなければならない。そして、正式な手続きは辺境国に戻ってからにはなるが、帝都のギルドで引退の仮手続きを行わなければならない。


 そうして、リャンとシアユンとの旅が終わる。リャンは皇帝に、シアユンは近衛兵長の立場に戻り、それぞれのあるべき日常に戻る。


 たかだか4日間の旅だが、色々な意味で濃密だった。そして、この2人が俺にとって絶滅危惧種や魔王と同じくらい大切な仲間になるのだろう。


 そう思いながら、冒険者の引退手続きに係る書類を書いていた。


・・

・・・


「終わりましたか?」


 仮手続きを終えてギルド貴賓室に入ると、そこで待っていたリャンが問う。


「あぁ、そのうち辺境国ギルドで正式な手続きをしなきゃならないけど、これで俺の冒険者としての活動は終了だ」


「多分、魔王のお兄様からも同じようなことを言われていると思いますけど、帝国に来て私を支えていただけませんか?奥様とともに重用しますよ?」


「お気持ちだけ有難く。まぁ、もしかしたら事業の先で妻が君をスカウトしそうな気がするよ。スカウトというか、なし崩しに断れないような状況で、しかも皇帝の立場はそのままになるように」


「あははっ、それが出来たらとんでもない策士ですよ。期待せず期待しておきます」


「それはいいですが、もしそうなってもリャンには公務がありますから、手加減してくださいよ」


「善処するよ」


 そうした会話をしつつギルドを出て、馬車の手続きをする。


 刻一刻と別れの時間が迫る。

 と、リャンは思い出したかのように声を出した。


「あ、もう少し時間ありますし、最後にお昼ご飯一緒に食べません?お連れしたいお店があるんですよ」


 そう言って連れてこられたのは、馬車乗り場から少し離れた、カウンターのみのあまり広くない大衆定食屋。

 手入れは行き届いているが、肉の脂の匂いが染み付いている店内。既視感が強い。


「3人とも並の肉増しで。スープとサラダもつけてください」


「あいよ」


 リャンの注文に無愛想に答える店主らしき男。

 注文の仕方も既視感が強いが、出されたものを見て驚いた。


「・・・牛丼じゃん」


「あれ、ご存知でした?好きなんですよー。そういえば、今回はまだ食べてなかったなって思って」


 牛肉の薄切りを一口大に切り、ざく切りにした玉葱と一緒にダシと醤油でさっと煮込む。

 それを、丼に盛った米の上に豪快に乗せたもの。

 何をどこからどう見ても牛丼以外の表現ができないし、そもそもリャンがこれを牛丼と認めている。


「生卵を落として食べると最高に美味しいんですけど、まだ帝都での流通販路と技術の確立ができていないんですよね。その解決は喫緊の課題ですが、帝城では出せないカジュアルな料理ですから、市井に出たときには必ず食べているんです」


 市井の料理。そりゃそうだ。

 前の世界の繁忙期にどれだけ世話になったことか。店としてはある程度作り置きできて早く提供でき、無駄という無駄を削減して実現した安さと、それでいて追求された旨さ。


 そして、前の世界の後輩が好んで俺を連れて行って食べていたのが、牛丼。もう少しお洒落なものを食べても良いんじゃないかと言ったら「牛丼、好きなんですよ。実は五郎さんはお嫌いだったりします?」と問われた。当然「そんなことはない」と返したが。


 そういう思い出に浸りながら牛丼を食べ終わって、店の外に出る。

 刻一刻と時間が過ぎて、頃合い別れの時間だ。約束していた4日の最終日で、俺は目的を完遂した。


 リャンは手を上にあげて大きく体を伸ばしている。体だけでなく、心も伸び伸びしているように見えた。


 彼女は皇帝だ。

 だが、どうしても、どうしても前の世界の後輩に重ねてしまう。

 容姿だけだと思っていたが、ここ数日一緒に過ごしていると口調、仕草、考え方の根幹がまさしく後輩そのものなのだ。もしかすると魔王と同じく異世界転生者で、違いは記憶が戻っているか戻っていないかくらいだろう。


 あの子は責任感が強かった。

 色々なことに気を配る子だった。

 努力を怠らない子だった。

 ややもすると自分そのものを顧みないことのある子だった。


 彼女が何かの拍子に潰れはしないか。

 ある意味で、天涯孤独の俺が前の世界に残してきた唯一の未練が、彼女の未来だ。

 皇帝のスペックは高い。文武両道、権謀術数に長け、稀代の傑物と言われる。


 だが、俺にとってはどうしても後輩に見えてしまう。

 そんな彼女が竜種の棲家で取り乱したときは俺もどうしていいか分からなかった。だから、言ってしまえば、心配でたまらない。


「五郎さん」


 リャンは俺の心境に気付いたのか、俺の右手を両手で優しく握る。


「大変ですけど、私は元気で幸せな人生を送れています。だから、五郎さんも、奥さんと幸せな人生を送ってください」


 あぁ。

 やはり。

 リャンは本当に彼女の生まれ変わりなのだろう。

 転生を経て、記憶は戻っていなくても、黄金郷での気まぐれのような俺の殴り書きのような問いかけに、いま答えた形になったのかもしれない。


 本当にそうなのかは分からないし、確認することも出来ないのだろうが、そう思っていて良いだろうと思った。


 俺が異邦人であることは変わらないから、どうしても前の世界のことを引き摺ってしまうことは逃れられない性だと受け入れた。

 そして、その引き摺っている胸の支えのひとつが、ホロホロと解けたような気がした。


「あぁ、うん、そうだな」


 とはいえ、そう答えるのが精一杯だった。

 精一杯だったのだが、何故だろう。左手で彼女の頭を撫でていた。


 近衛兵長としてはあまりに不敬な態度と怒り心頭になってもおかしくないが、シアユンは俺たちを見て微笑んでいた。


 リャンは少し驚いたようだったが、嬉しく思ってくれたのか今までの中で一番な満面の笑みを向けてくれていた。


・・

・・・


「ゴブリン族は広報として期待できそうだね。世界各地に多くの集落を作っているってのもあるけど、確認してみたら思った以上に横の繋がりがあるみたいで、そこをベースに世界的に拡散させることはできそう」


「こちらも竜種を確認できたよ。こっちは逆に横の繋がりはなくて、ほぼスタンドアローン。ただ、帝国とは繋がりを持てたかな。商業、冒険者ギルドと帝室執務系」


「おー」


 聖王国王都でアークと合流して、戦果の情報交換を行う。登記上、会社の本拠地は辺境国としているが、2人それぞれ世界を飛び回って状況を把握したり、商機を見つけることに専念している。

 将来的にはどうなるかわからないが、今は2人だけの会社だ。こういった報告も本拠地に縛られずフランクに行える。


「まぁ、冒険者としての最後の仕事として皇帝に謁見しろと言われた時にはどうしたものかと思ったけど、竜種の他に労力に見合った成果は得られたと思うよ」


「あぁ、帝国の国家転覆を企んだテロリストの大捕物のことね」


 その報は国際的なニュースにもなった。

 表向きは帝都と帝国東北ギルドの連携により、乱気流が主導で解決した事件となっており、たまたま帝都にいた俺も一枚噛んだという形になっている。

 皇帝が関与した事実は報道されていない。おかげで手柄は帝国のギルドひいては乱気流のものとなった。特に乱気流は一気に名声を上げ、皇室御用達のパーティと祭り上げられ、かつての俺たちのように各所からのインタビュー地獄と戦っているそうな。


 帳尻合わせが大変そうだな。ご愁傷様。


「皇帝とは会ったの?」


「会ったどころか、一緒に行動させられたよ。もっと言うと大捕物にも関与どころか主体的に行動してたし、竜種とも一緒に会ったよ」


「へぇ」


 ちょっと不機嫌な様子になるアーク。

 それも仕方ないだろう。スタンピード後の聖王との謁見で、側からは俺が皇帝に見惚れているかのように見えていただろうし、アークもそれを疑っていた。


 が、ちゃんと話をしなければならない。

 皇帝ひいてはリャンがどういう人間なのか。

 この旅がどういうものだったか。

 大捕物と騒がれていることは、率直にいって俺にとってはどうでもいい。

 リャンのことを大切に思っている近衛兵長のシアユンのことも話したいし、思っていた以上にフレンドリーだった竜種やその眷属のことも話したい。


 少し長くなるだろうが、何が起こって、何を感じたのか、俺が今まで抱えていた悩みとそれが解消されたことを、アークにちゃんと話さなければならない。


 それが終わったら、いつになるか分からないが帝国の東北の村に行く提案をしよう。

 生食の卵、芳醇な味わいの牛肉のステーキ。アークが気に入らないわけがない。幸いにもこの世界には醤油がある。

 何ならいつになるかわからないとは言わず、次の予定を先延ばしにして卵かけご飯や肉を食べに行ってもいい。


 長話に備えて、俺はテーブルに並べていた書類を仕舞い、2杯目のレモンスカッシュを注文した。

フラグは「閑話:皇帝、懐古する」で回収しています。本話から数年後、心境の変化の有無、かつ公的な場での話なので、帝国編に比べて丸くなっていると解釈ください。


ここまで紆余曲折させるつもりはありませんでした。


次回は設定をまとめ、次々回から新編を始められたらと思います。

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