閑話:不死王と不死王
アタシは不死王。
誤った不死王。
何故わざわざそんな枕詞を付けてるかっていうと、アタシは元々生を受けたニンゲンだったから。
不死王は、その起源が生の無いものが突然変異だとか進化だとかしたものを指す。
ただ、たまに世界のエラーなんだろうね。死んだ者が罷り間違って生き返ってしまうことがあるんだ。
厳密には心臓は動いていないんだけどね。だけど、脳も臓器も動くし代謝もしている。心臓は動かないけど魔力のポンプみたいな働きをしていて、アタシは血じゃなく魔力で動いている。
アタシはそうした不死者の中でもとびきり力の純度が高いらしい。不死王とは無機質の頂点に立っている意志あるものだけど、誤った不死王とは不死者の頂点に立つもの。
つまり、不死のあり方が全く違う。
アタシはこう見えて生前は聖王騎士団の魔法部隊で師団長をしていたのよ。だから、そうした魔力の関わる定義ごとにはちょっと煩いわ。
生前の死に様は呆気ないものだったのよ。
ぬかるみに足を取られて、転んだ先に大きな石があって、そこに盛大に頭をぶつけた。
折しも休暇を利用したソロハイキングで、壮景の湖に向かうところだったんだよ。人も滅多に通らないところで死んだから、すぐ部下や誰かに遺体を回収されることもなかった。
それが功を奏したんだろうね。
幸運にも魔獣や野生の動物に遺体が荒らされることもなく、しばらくしてアタシは不死者として目覚めた。不死者である自覚はあったわ。なにせ心臓が動いていないんだから。
さすがに不死者が聖王騎士団に戻るわけにもいかないから、持っていた荷物を見つかりやすい道に捨てて、それが騎士団に届くように仕向けたわ。遺体は魔獣や野生の動物に喰われた。これでアタシの死が騎士団に伝わると信じてね。
「なるほど、知識があったから自分が死から目覚めたということを認識し、私が本物の不死王であると気付けたということか」
ちょっと違うわ。
知識があろうがなかろうが、魔力を察知することに長けたこの世界の人間には、アタシの存在がイレギュラーだってことはわかるでしょ。
何かが入って蘇った、混ぜ物の突然変異。
それが誤った不死王であるアタシよ。
で、アンタが正しい不死王と看做したのは、知識以上に単なる直感。でも、間違ってないでしょ?探ってみてもアンタからは生を感じない。
「ふむ、自らを強大な力を持つ不死王と過信する紛い物はいるが『誤った』と自認するケースは珍しいな」
あら、紛い物でも本物を超えることはあるわ。本当の意味で力をつけた紛い物に寝首をかかれないようにしなさいね。
あぁ、誤解しないでね、アタシはそんなつもり無いわ。ただの忠告よ。
そもそも、人はアタシみたいな怪異に対抗する力を持っている。強力な個は群体に駆逐される。対抗策を見つける。聖王騎士団がそういう組織だからね。身に染みて知ってるわ。
それに、アタシは死後に強い力を手に入れちゃったけど、別に人のままでもアタシを倒せる力を持つケースだってあるのよ。
魔王なんかその典型じゃない?
強力な個体を倒す群体を、更に上回る強烈な個体。
並の魔人族、竜人族はものの数じゃないけど、あれほど突き抜けた個はちょっとした群体でどうにかできるレベルじゃないわよ。
それにね。
アタシは見逃されたのよ。
帝国の皇帝は知ってるわね?
成人前に帝位を得て、自らを傀儡にしようとした権力者を公的な場で見事に処断した話は有名よ。聖王国でも話題になったわ。
ひょんなことから皇帝にとってアンオフィシャルなシチュエーションで戦うことになったのよ。
アタシは闇魔法が使えるようになってたし、そもそもの身体能力が格段に向上していたわ。バトルジャンキーの騎士団長も一蹴できる自信があったわ。
そんなアタシを、軽々と一蹴したのよ。
その上で見逃されたわ。
あの舞踏剣、確かに美しかったけど、それ以上にとんでもなく凶悪だったわ。魔王がそれ以上だって思うと、元々抱くつもりのない野心なんて抱かないわよ。
「魔王。ふむ、魔王か」
興味があるなら会いに行ってみてもいいんじゃない?そもそも、私とも戦うつもりはないんでしょ?
「そうだな、紛い物の不死王だが変わり者がいると聞いたのでな」
あはは、変わり者ねぇ。
否定はしないわ。
「であれば、次は魔王だな。さて、どういった存在か、楽しみではある」
・
・・
・・・
不死王は行ったわね。
あー、怖かったわ。
強気に接してみたけど、あれも格が違うわね。魔王や皇帝、あとスタンピードのほとんどを1人で殲滅させたっていう埒外の魔法使いとはまた別ベクトルね。
まぁ私は嘘は言っていないわ。
人類と敵対するつもりもないし、
不死王として頭角を現すつもりもないし。
昼は棺桶で寝て、夜は空を自由に飛び回る悠々自適の生活をしているほうが全然楽しいわ。全く飽きない。
かつて恐れられた怪異の如く吸血鬼って呼ばれているみたいだけど、吸血衝動なんてないわ。失礼しちゃう。その吸血鬼こそ、群体に駆逐された怪異の好例。
ま、もしかしたら、その吸血鬼もアタシのようなイレギュラーな形で生まれた怪異だったのかもしれないわね。
かつて数々の街を滅ぼした怪異は、団結した生き残りによって逆に滅ぼされた。
そういう滅ぼし滅ぼされる螺旋に入るつもりはないわ。人の強さは誰よりも身をもって知っているつもりよ。
私は自由。
生前のように、美しい景色を見るために生きている。
夜の静かさが好きなのは、蘇生したときにそういう特性が備わったからなのかしら。なんにせよ好都合だわ。
この翼で、さて今日はどこの空を飛び回ろうか。
スタンピード編と帝国編の間の出来事です。
吸血鬼はスタンピード時の五郎を遠視して「無理、あれ絶対勝てない」と看做しています。
あまりに五郎のインパクトが強すぎて、魔王と同格になったはずのアークは認知できていません。
また、吸血鬼は五郎が転移したしばらく後に死亡し不死者として復活しています。彼女の死亡時より今の聖王騎士団長は格段に強くなっていますが、それでも吸血鬼には及びません。
そんな吸血鬼を一蹴する皇帝は、魔王には及びません。
騎士団長<吸血鬼<皇帝<魔王
が強さの序列となります。
騎士団長はバロメーター扱いされます。




