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帝国編14:食事会

 さて。


 なんやかんやあって、俺たちは竜種の棲家の離れで食事会をしている。

 「なんやかんや」の過程にはある意味ではセンシティブな事柄もある。お察しというか、尊重してくれるとありがたい。


 その食事会の会場。


 ここはかつて竜種の棲家の建設に携わった土魔法使いが建てた自分用の仮家とのこと。

 仮家とはいえ、当時の皇帝が来た時の迎賓館でもあったので造りはしっかりしていて、広くて間取りも多い。4LDKといったところか。


 食卓を囲むのは俺、立ち直ったリャン、シアユン。

 だけでなく、人化した竜種、鬼、狼、樹もいる。


「栄枯盛衰、稀代の天才が生涯を費やして作ったものも、いずれは壊れてしまうものだ。だが、ちゃんと手入れすればその壊れてしまう時を遅くすることはできる。思い出は風化するが、この棲家と離れがある限り我々はかの皇帝たちのことを思い出せるのだ」


 竜種は感慨深げにそう言う。


 驚くべきことに、いま俺たちの前に並べられている数々の料理は、竜種が作ったものだ。

 食材を亜空間から取り出し、下拵えして調理する。手際が料理のプロ顔負けだし、実際美味い。竜種のような超越者が、一般的な人種のように料理をするだけでと驚きだが、その一連の流れから超越者らしからぬ生活性を感じたことにもっと驚いた。


 そうした超越者の作った料理を食べている。

 リャンとシアユンは驚いていた。

 それ以上に、眷属の3人が驚いていた。

 そりゃそうだろう。世俗から最も遠ざかった存在と思っていた主人が、人化してエプロンという世俗的な格好で部下を出迎えたのだ。恐らくこの主従は相当長い付き合いであるだろうが、竜種がそういうことをする一面があると知らなかったのだろう。


 俺も前の世界での趣味が料理だったし、こちらの世界でもたまに作るが、手際の次元が違う。本当にプロの所業以上の語彙を出せない。

 超越者らしく、煮込み料理やフォンドボーを作るときに魔法で鍋の中に強引に圧力を加えて時短する場面はあったが、それを差し引いても凄い。凄い以外の言葉がない。


 しかも、そうした手際の良さに比例して美味い。恐る恐る牛肉の醤油煮込みスープを食べた鬼が、その瞬間固まってしまっていた。

 後で聞いたところ、鬼はこれが目当てで人里に行くほどの大好物で、しかも東北の村の誇る一流レストランで食べるより美味しかったとのこと。


 かくいう俺も驚かされた。

 俺の卓にだけ、どうしても見過ごせないものがあった。

 蕎麦だ。わんこ蕎麦。量的には半玉か。

 マジかよと思って食べてみたら確かに蕎麦の風味と食感。ダシは魚介、ただの醤油じゃなくてくてニンニクをつけ込んだたまり醤油。ご丁寧に卵黄と葱と、しかも刻み海苔まで乗せられている。


 蕎麦と海苔はこの世界で食べたことのないものだ。蕎麦粉は概ねガレットに用いられているし、海藻を食べる文化も無い。


 明らかに俺にだけ向けた一品。ここでこんなものを出されるとは全く予想だにしなかった。


「私も眷属も食事をせずとも生きてはいける。が、こうして食事をすること、誰かと食卓を囲むことは活力たりえる」


 最初は竜種が作った料理を食べるということに戸惑いを感じていたが、食べ進めることによって緊張がほぐれてきたのか、それぞれ他愛のない話をしつつ、ちゃんと会食の体を取れてきていた。


 メインディッシュを食べ終えてデザートの頃合いあたりには、リャンが皇帝になってからの話では盛り上がっていた。執政にあたり良かったこと、悪かったこと、リャンはありとあらゆることを腹を割って話していた。近衛兵長であるシアユン以上に、樹が話に食いついていた。


 そのシアユンは鬼と狼と戦闘談義を始めていた。帝政で最も結び付きの強いリャンとシアユンが、もしかするとはじめて何のしがらみもなくお互いのことを気にしない時間になったのかと思うと、付き合いが長いわけでもないのに俺も感慨に浸るものがある。


「ふむ、お前も含めて皆、満足してくれたようだな。ホストとして嬉しい限りだ」


 皆の光景を眺めていた俺に、竜種が話しかけてくる。


「いやいや、かなり驚いた。格付けなんてのはあまりやりたくはないけど、この世界に来てから一番美味い食事をした気がする」


「フフ、隠れ家ダイニングでもやったらカルトな人気が出そうだな」


 竜種は妖艶に笑う。

 理外の理とは、この世界以外の知識を指しているとのことだ。それは、俺のいた世界もそうだし、それ以外にも異世界はあるのだという。


 竜は実在する。

 のだが、竜種を遥かに超える力を持つとはいえ神直轄の被造物であり、竜種のように別世界の知識を持っているわけではない。

 その知識が竜種にとって竜に唯一勝るアドバンテージらしい。そうした別世界の知識を持つからこそ、野心のある竜種は他の種族を下に見て世界征服を試みたそうだ。


 別世界の理を持ち込むことは禁忌だ。

 そういう意味では、女神は俺に禁忌を冒させようとしているとも言える。


「そこまで深く考えなくてもいい。今回振る舞った料理だって、この世界のレシピをベースに理外の理の要素をエッセンスとして加えたものだ。そりゃ美味くも作れるさ。文化のひとつやふたつの持ち込みくらい、世界は大目に見るさ」


 成程。

 そう考えるとこれから俺たちがやろうとしていることに罪悪感の類を抱かずに済む。とはいえ、手際の良さは知識だけでは説明がつかないが、そこに言及するのは野暮か。


「という意味では、10年後あたりか。少し面白いことを考えたのでな。お前たちの事業に乗っかるようなことを私がやってもいいかもしれんな」


 意味深なことを言うので具体的に聞こうとしたら「企画前段階だから秘密だ」と返された。


 竜種にはアークにすら言えなかった悩みを話して、それを解決することができた。

 恩人と言っても良いというか、そう見做すべきだと思っている。

 

 俺自身のこと。

 今後のこと。

 それらの不安に思っていたことが解決できて、とても晴れやかな気分だ。あくまで異邦人ではあるものの、この世界に骨を埋める気が益々高まった。


「本来私が心配することではないのだが」


「?」


「皇帝のことは今後気にかけてやってほしい。あの子はお前との縁を特別なものだと感じたようだ。皇帝という立場上、これからも苦難が続くだろうが、縁を持つお前が気にかけているという事実があの子の今後の助けとなる」


「わかった」


「私たちが直接助けてやれればそれが一番手っ取り早いのだがな。それをしてしまえば、今まで築き上げてきた皇帝という立場の意味がなくなる」


「・・・そうだな」


 俺なんかを遥かに上回る権謀術数。

 上位冒険者を凌駕する戦闘能力。

 彼女は彼女で様々、数々の修羅場をその努力と才覚で乗り越えてきたのだろう。

 だが、だからといって、それがあまりにも濃密すぎて、精神の成熟が完全に追いつけているわけではないということが、さっき取り乱したことでよくわかった。


 あと、どうしても姿が似ていることもあってかつての後輩の面影を追ってしまう。


 竜種に言われるまでもなく放っておけない。

 かといって、リャンに皇帝の立場があるように、俺は俺の立場がある。


 果たして俺に何ができるのか。

 宴を終え、竜種の棲家内に用意された部屋に敷かれた布団の中で、俺はそれを考えながら眠りについた。

亀の竜種は興味をもった世俗的なことに熱心に取り組んでいて、料理もその対象でした。

あらゆる料理人の動きをトレースしてものにしているので、例えば包丁で指を切ってしまう経験もありませんし、そもそも包丁程度では怪我をしません。


また、異世界の知識で自分とリンクしている影武者を作ることが可能で、実は眷属3人分とは比較にならない頻度で人里に降りています。

なお、他の異世界にリンクしていようと産まれはこの世界のため、黄金郷問題を解決できません。彼女は彼女で解決のために動きましたが、結果に繋がりませんでした。

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