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帝国編13:皇帝、情緒不安定になる

 竜種に促され、私とシアは地上階に戻った。

 そこで待っていた眷属たちは気が気ではなかったのだろう。ゴローさんがいないことに懸念を抱いている様子だった。


「皇帝、あの男と竜種は」


「私たちに聞かれてはならない話をするのでしょう。内容の推測はできませんが、そうなることは薄々分かっていました」


 鬼の問いに返す。


 竜種はゴローさんが抱いている何かをわかっている。そのことを前提にした含みのある話し方をしていた。


 私はゴローさんに何かがあることを確信していた。彼は冒険者として数々の偉業を成し遂げている。いや、黄金郷の解決や、過去最大級のスタンピードを乗り越えた立役者など、冒険者という括りをすることが誤りであろうことは理解している。

 ということを差っ引いても、私はゴローさんにある種の特別を感じている。成し遂げた偉業を勘案しない、全くの直感で。


 そう私が直感した理由を、竜種は知っているようだった。その内容を知りたいと思っても、いくら皇帝の立場を濫用しようとも、私が部外者であることは変わりない。

 だから、大人しく引き下がった。個人的な興味はあるが、それを主張してはならない気がした。


 正直、歯噛みする思いだ。

 私では根本的な意味でゴローさんの力にはなれない。ということを、竜種の言葉で確信してしまった。


「リャン」


「シア、私は悔しいよ。皇帝の権力も、鍛え上げたこの力も、ゴローさんの役には立ててないんだ。こんなに悔しいことはない」


 皇帝に即位してから、弱音を吐いたことはない。ありとあらゆることに私が対応できるようになったからだ。

 だが、これは解決できない。

 待つしかない。

 眷属たちは私の気持ちを慮ってくれていて、何も言わない。

 シアも同様に。


 しばらくして。

 階段を上る足音が聞こえてきた。

 音は2つ。思った通り、片方はゴローさん。もう片方は恐らく人化した竜種。


 人化した竜種を見るのは初めてだが、背の高い女性の姿をしていた。ローブを羽織っているが、首元に鱗のような模様があるので、竜種で間違いないだろう。この状況で新しい登場人物が現れるなど考えづらい。


「ゴローさん」


「済まん、遅くなった。話し込んだが、終わった」


 ゴローさんはすっきりした表情をしていた。私たちが去る前の、緊迫した影のある雰囲気はなくなっていた。


 それが何だか悲しくて。


「うえええええ」


 私は泣き出していた。

 そういうことが立場的にも、年齢的にも良くないことだと分かっていても止められなかった。


 この悲しさには覚えがある。

 お父さんが死んだときと同じだ。

 私を置いていってしまった、あの時と。


 ゴローさんは私のことをどう思ったのだろう。兎にも角にも、私が泣き止むまでの長い間、ずっと頭を撫でてくれていた。


・・

・・・


「あの3人は客間に移動させました。落ち着くには時間を要するだろうなというのが近衛兵長の所感ですが、あれでよろしかったのですか?」


 眷属の鬼が問う。

 まぁ問題ないというのが回答だ。

 別に落ち着くのが数時間後であろうが、数日後であろうが、数年後になってしまったとしても、極端な話そこはどうでもいい。


 皇帝の気持ちは共感こそできないものの理解を示すことはできる。異世界転移者にしてみれば悩みが解決できただけの話だが、皇帝にしてみれば大切な者が自分を置いていったというトラウマが刺激されたのだ。


 そもそも、皇帝は子供から急激に大人にならなければならなかった過去を持つ。感情の発露をしきれないまま大人にならざるを得なかった皇帝が、何らかの理由で子供のような感情の発露をすることは仕方がないとも言える。


 私が諌めても仕方がない。

 であれば、あとは当事者がどうにかするしかない。そこに時間を要すことは、長命種である我々にとってはどうでもいいことだ。


「狼と樹は?」


「念のため棲家の周囲を警戒しています。万が一、何かの理由で変な横槍が入っても困ります。というは建前で、いたたまれなくなって場を離れたという方が本音ですね」


 眷属たちは眷属化により長命となったが、珍しく感情の振れ幅が短命種のそれと似ている。恥も外聞もない皇帝の泣く姿に、各々思うところはあるだろう。


 理解できる、というのも考えものだ。

 感情移入し、必要以上に肩入れしてしまう。

 それでも私たちは超越者の側だ。一線を引くことができる。


 一線を引けなかったのが、皇帝。

 最初は興味本位の物見遊山程度に考えていただろう。それが、やがては感情移入し、必要以上に肩入れした結果、自らのトラウマを刺激してしまっている。

 そうなる土壌があるにせよ、強さがどんなに常人を超えていても、皇帝自身は超越者でも何でもない、ただの超優秀な皇帝だ。


「あの異世界転移者は、常人でありながら超越者の精神性に片足を突っ込んでいた。そうした精神性の変異を自覚していたからこそ、超越者であり理外の理を知る私にコンタクトを取ろうとしていた」


「異世界、ですか」


「異世界転生者は、その過程で魂が洗浄され転生する先の世界の精神性に適合する。だが、転移者はそのプロセスを経ない。あくまで異邦人であること、転移者特有のユニークな力に振り回されること。この2つの要素で、異世界転生者の精神は変質する。大体は転移直後に脳が掻き回されることで常軌を逸するが、そうではなく彼は徐々に蝕まれていた」


「えっと」


「無理が祟って精神がヤバくなった、くらいの認識でいい。異世界云々は説明が難しい」


「そうですか・・・とはいえ、少なくとも先程の様子だと精神に異常があるように見えませんでしたが」


「乗り越えたのさ。自力で」


 私は理外の理を駆使することはできない。ただ、知っているだけだ。

 私は、ある言葉を贈った。

 そして、彼は平静さを取り戻した。

 対処療法だが効果はある。その心持ちを忘れなければ、彼はこの世界で天寿を全うするだろう。


 なので、後は皇帝の問題が残るだけか。

 これは本人や当事者がどうにかするしかない。だから、鬼には待つだけで良いと伝えた。あぁ、それはあくまでこの成り行きについての話であって、外は夜になる頃合いだろうし、3人がそれぞれ休むための部屋と食事の用意は指示しておいた。


 さて、どうなるのか、成り行きを見ておこう。せっかく人化までしたのだ。超越者としてではなく、人の流儀に則って見届けるとしよう。

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