帝国編11:竜種との対峙
竜種の棲家、というかもはや神殿と呼ぶべきだと思う。山麓にあるとは思えない荘厳な外観、中に入ると非常に広く感じる。規模としては俺が魔王と戦った世界トップクラスの規模の舞踏会場を上回っている。
内装も壁に綺麗な飾りが彫られており、至る所に芸術性が盛り込まれているように思える。俺は芸術関係に疎いが、それでも圧倒されるものがあった。
眷属たちは棲家に入る前に術で人化していた。人化の術は人種でない者が人の集落に溶け込むために使う技術であり、誰もが使えるわけではなく訓練が必要なものらしい。
それぞれの意匠を残しつつも人の姿になっている。狼は頭部に耳がある獣人族に近い姿、樹は表皮に年輪のような模様のついた以外はかなり人間に近い姿。
そして確かに鬼は見覚えがあった。レストランで長身痩躯の赤めの皮膚をした女性が居た。
そっか。眷属は全員女性だったのか。
なんか最近、女難ぎみな気がする。
狼と樹はともかく、鬼は性別がわかりそうなものだが、リャン曰く「鬼は外見で性別がわかり辛い」とのことだった。
だだっぴろい通路を進むと、地下に繋がる階段があり、そこを降りていく。
降りた先の薄暗い通路。そこを更に歩いた先から、俺でもわかるような尋常でない気配を感じる。
「ゴローと言ったか。竜種には貴様が来ることを報告し、来訪を歓迎するとのことだ。用件はどうあれ、今は聞かないが竜種の前で明らかにすると良い」
鬼はそう言って止まった。
ここから先は俺たちだけで行けということか。
不思議と淡く光る洞窟を更に歩くと、巨大な空洞があった。体育館くらいの広さだろうか。たかだか一室だが、これも舞踏会場より広い。
その中央。
巨大な亀が居た。
竜種はあらゆる生物が竜の因子の影響を受けて進化した稀有な生物。
だから、これは亀の竜種と呼ぶのが相応しいのだろう。
「成程、眷属より強大な力を持った者が来るとは聞いていたが」
竜種が声を発する。
まるで臓腑に響くような低音。声そのものが質量を持っているかのようだ。
こちらこそ成程、だ。
これを攻撃手段として使われれば、生身では溜まったものではない。空気と土の壁を作って軽減しようにも、マンドラゴラの叫び声やゴリラ系のウォークライもは必要とする防御量の桁が違う。
何をするにも行動が規格外。
それが竜種。
そして、恐らくというかほぼ間違いなく上位に竜がいる。
俺が来たここは、まさしくファンタジーの世界だと今更ながらに納得するものだった。
「アンタに色々聞きたいことがあってやってきた」
端的に用件を告げた。
ここまでの進入を許したというか、竜種は眷属を使ってまで俺たちをここに連れてきたのだ。悪いようにはしないだろう。
「我ら竜種は悠久の刻を経て理外の理を識る。何を聞きたいのか凡その予想もつく。その聞きたいことに応じることはできるだろうが」
「が?」
怪訝そうに返すと、竜種は地響きも伴いくつくつ笑う。
「こういうクエストには腕試しが求められるものだろう?貴様ならばそういう予想もついているのではないかな?」
そうきたか。
眷属と戦うことはなかったが、まさか竜種とは戦うのか。確かに予想していなかったわけではないが、含みのある言い方が気になった。
既視感はある。
魔王との初対面がそうだった。魔王は俺が異世界転移者ということを知っていた。それは、当時と比べて成長してはいるものの俺が前の世界と姿が変わらなかったからこそだったが。
竜種の言った「理外の理を識る」というフレーズ。俺の預かり知らない何かで、俺が異世界転移者であることを察したのかもしれない。
「戦え、ってことか?」
戦うこと自体は好きでも嫌いでもない。
なのだが、自覚的になってきたが、俺は戦うことに全く抵抗のない人間だ。
前の世界でもそういう傾向はあった。それだけではなく、転移してすぐに当時格上だったデスベアーと戦わざるをえなくなり、一命を取り留めて冒険者となり、黄金郷で土地神と戦い、魔王と戦い、それからも何度も戦ってきた。
ネジが外れてしまった気はする。
格上だろうが、格下であろうが、戦う気があれば戦う。そう抵抗がなくなってきている。
「ふむ、それも一興だが、我の体に傷をつけられたらそれで良い。いかなる魔法も、術技も、今まで我を傷つけることはできなかった。そこな皇帝ですら、いかに成長したにせよ我に傷をつけることはできぬだろう」
竜種にとっては余興のつもりなのだろう。
亀の甲羅は言うに及ばず、確か露出している表皮も相応に硬い。リャンも同じように腕試しをしたのだろうが、そうした亀が竜の因子で進化したのであれば、傷つけることが出来なかったというのは何となく理解できる。
かくして、俺の竜種への力試しが行われることになった。




