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閑話:師弟・託

 師弟。

 良い響きだ。

 師匠となる立場の者がそれまで培ってきたことを、弟子となる立場の者が教わり成長していく。

 場合によっては弟子の在り様に感化されて師匠の成長にも繋がる。

 弟子であるからにはいずれ師匠超えが求められる。それが可能かどうかは、師匠の壁の高さと、弟子のポテンシャルと努力次第だ。


「そういう意味じゃ俺は師匠としての壁が低いし、更にはあいつらのポテンシャルが異常だったとも言える」


「うわぁ、ご愁傷様です」


 俺の席の向かいで酒を呑む2人の女性は同時に同じセリフを言った。

 まぁ辺境国ギルドで様々な冒険者を見てきた受付嬢と、その異常なポテンシャルを持った実質弟子とパーティを組んでいたエルフの女のエルリィだ。俺が誰の事を言っているのか、確認するまでもない。


 ただ、これは泣き言というより、奴らのことを語る際の大前提でもある。とはいえ、俺がチュートリアルカリキュラムで教官役となった際の教え子たちは、いずれも俺よりランクや実績が上になっている。


 まぁ教え子と言えるかどうか微妙な連中がちゃんと活動できているなら僥倖だし、俺自身も細々と食い繋げられるのなら過分な力は不要だからそれで良いんだが。

 とりあえず、老後の蓄えはできているので、あとは体が動く間は適度な運動も兼ねて貯蓄をしていこうと思ってはいる。


「師弟か。長命種でもありそうそう子の産まれないエルフではあるが、やはりそうした師弟関係はあるよ。私も弓の使い方や走り方は相応に鍛えられてきた。今となってみれば師より私の方が圧倒的に上だが、そういう教えがあってこその今だと感謝している。あの2人にとっても同様なんじゃないかな?」


「同じくです。私の場合は応対や事務能力ですけど、教えられたことがあってこその今ですし、それをほぼそのまま下の子たちに教えている側になっています」


 生きていると、自分がそれまで教わり培ってきたものを大なり小なり継承する機会はある、ということか。

 まぁ受付嬢は現在進行形でその姿を見ているわけだし、再度エルフの国から離脱したエルリィには新しい立場がある。そこでそうした教えることもやっているんだろう。


「ま、俺のことはいいんだよ。折角の再会なんだから、お前のことを聞かせろよ。魔王領の四天王だって?風の噂に聞く限りじゃ大層な働きぶりだそうだが」


「そうだな。私としては魔王領にはそれこそ観光で行ったつもりだったんだがな。魔王と謁見してその場でスカウトされて受諾したんだよ。というところからでいいかな?」


「あぁ」


・・

・・・


 結局のところ、紆余曲折を経て俺が辺境国ギルドマスターになっても、そこだけは変わらなかった。


 変わらなかったというか、俺が望まなくても勝手にそういう依頼が舞い込んでくる。


 ギルドマスターとしての仕事の傍ら、それとは別の人材育成をやっている。


 本業が多忙なのでさすがに数は減らしているが、特に多いのが商会経由でアークから来る育成依頼。


 人材育成マネジメントの一部を外部委託していると言えば聞こえがいいが、ある意味ただの丸投げだ。が、実際金払いは良くビジネスとして成立しているので文句を言いたくても言えない。

 せいぜい、妻に愚痴るくらいだ。


 そう、人材育成。

 俺にできるのは冒険者としての基礎知識を教えるのと、それに関連するもの。

 アークが送り込む人材は男女問わず。上はともかく下はまだ10歳にも満たない子供もいた。


 数ある育成対象のうち、その10歳にも満たない子供が厄ネタになっていた。アークやゴローも大概な規格外だったが、その子はそれすらも上回る規格外だ。


 見た目は普通の人間種の女の子。

 生まれら聖王国の家具職人一家。少々裕福だが貴族ほどではない。アークが機能性の高さに惚れ込んで商品を自宅やオフィスに導入していて、その縁でこの子を見出したということだが・・・


 身体の基礎能力が尋常でなく高い。

 飲み込みが異常に早い。


 辺境国ギルドは絶滅危惧種の影響もあり世界各国の支部の中でも屈指の人材が集うようになっていた。

 それこそ中央に匹敵するレベルで。

 さすがに絶滅危惧種と並ぶパーティはいないものの、冒険者ランクAの逸材も少なくなくいて、かつパーティランクもB上位のパーティもいるくらいだ。


 新たな時代を担う有望株たち。

 そんな彼らを、訓練をはじめて1ヶ月に満たない少女は模擬戦という形で蹴散らした。


「ギルマスが本気で育成したら、こんな小さな子でもこんなに強くなるんですか。さすがですね」


 と言われたが、いやいやこれは完全に素材がおかしい。

 確かに力の使い方を知らない、ケンカなんてしたことのない子だったが、ちょっと術理を教えたくらいでここまで急成長するのはありえない。近接戦闘で最高峰の逸材だったアークすら霞むし、そもそもまだ筋力も骨格も未熟な身で、何らかの補助魔法や魔力が体に行き渡って強化されているとしても、これは異常だ。


 後に彼女は聖王国で聖女と呼ばれることになる。聖女は初代聖王が即位する前に人々から呼ばれていた称号で、以降は聖女候補は出ても実際に聖女と扱われる人材は出なかったと聞く。

 それ自体は納得だが、それだけでは説明がつかない何かが彼女にはある。得体の知れない特殊性と言うべき、何かが。


 まぁ人生で娘も含めて規格外の育成に何度か携わることになるのだが、本題としてはアークから人材育成を委託されることが多くなったということ。

 そのほとんどが規格外とは言わないまでも相当優秀な人材で、単純な強さだけで言えば辺境国ギルドのトップクラスに比肩するレベルになったケースばかり。

 さすがに自分の身の程は知っているにせよ、才覚の差を日常的な見せ付けられるようになると流石に辟易する。


 ただ、多くの育成に携わっていると共通するポイントがいくらか見出されたので、それを書き出して纏めていった。どんどん溜まっていったそれをアークがめざとく見つけて、あれよこれよと書籍化された。

 これが世界中に拡散されて印税が尋常でなく入ってきたんだが、アークは書籍の内容を前提に訓練された人材育成を依頼してくるので、育成内容がどんどん高度化していった。


 よって建てることになったのが、この学校。

 教員にはアークが過去に送り込んで俺が育成した人材を充てる。

 人材育成の合理化と負荷分散が目的で、これで五分五分だったギルドマスターの業務の割合を少しは増やすことができた。


 と思ったのだが、運営そのものは職員に丸投げしても名誉学長としてやらなければならないことが色々あって、お偉方との会合なり会食なりが増えて実質何も変わらないという事態になっていた。


 ギルドマスター。

 育成学校の名誉学長。


 結果として過分な身分を2つも得てしまい、日常的にやっていた酒場の片隅で安酒をチビチビやる時間が、滅多にやることのできない贅沢な時間になってしまった。


「そういう貴重な時間を私に使ってていいの?」


「いいんだよ。両方ともとっくに引退したんだし、独りでチビチビ呑むのが好きだと思ってたけど、何だかんだ誰かが横にいることのほうが多くなった。有り体に言うと独りで呑むのが寂しくなったともいう」


「なるほど」


「あと、娘に時間を割かない親はいないさ。そういうもんだ」


 今年14歳になる娘が串焼きを頬張りながら話を聞いている。声は抑揚があるものの無表情。そういう子だ。


 聖女ほどの素質を持った者は現れなかったが、娘はそれに匹敵する素質を持っている。育成を長い間やっていると、そういうことが何となくだが分かるようになってきた。


 俺の年齢的に、最後の弟子ということになるのだろう。とっくに俺なんかは上回っているが。


「どうしたの?」


「いや・・・」


 ふと、この子の将来が気になった。

 適正については常日頃から気にしているが、師匠と弟子という形ではなく、仮にも親という立場で気になった。


 この子は何でもできる。俺が今まで出会ってきた規格外に分類してもいい。身体能力や魔力の高さ、飲み込みの良さに留まらず頭も良いし、無表情ではあるが人付き合いも良い。マクロとミクロの目線に同時に立った上で大局を理解する力にも長けている。


 その規格外さはゴローやアークにも通じるところがある。どこかの騎士団に入ることも、このまま冒険者になることも可能だし、戦うこととは無縁の職業にも就けるだろう。


 とはいえ、俺に教えられるのは冒険者が生き残るためのものだ。だから、今まで出会った規格外を参考に、規格外に相応しい教育を施した。この子はそれに全て応えてきた。あとはこの子自身が自分の将来を決めるべきだろう。もっとも、その頃に俺はこの世にいないだろうが。


「お父さん?」


「ん?どうした?」


「いや、考え事しているようだったから」


「あぁ、そうだな。これからどうしていこうかなと考えてた」


「ふぅん」


 この子は聡い。

 俺が何を考えていたのか、察しがついていてもおかしくはない。


 多分、この1年で俺はポックリ逝く。なんとなくだが、そう確信していた。

 平均寿命は上回った。細く長く生きるという冒険者稼業をはじめた頃の目標は達成した。長生きできないかもしれない職なので難しいかもしれないと思ったが、存外生き延びることができたし、想定外の役職に就いて思った以上に大成してしまった。


 子供にも恵まれ、託せる資産も蓄えることができた。これ以上言うことはない。

 だから、残りの時間は最後の娘のために費やそう。規格外たちと出会って得たものを、なるべく全て託すために。


 師弟として。

 親子として。


 そう思いながら、僅かに残っていたエールを全て飲み干した。

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