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帝国編6:正面突破

 僕の名前?


 知らなくっても問題ないよ。


 ただ、帝国の元宰相の妾の子だって認識していればそれでいい。


 僕だって、つい先日までそんなことは知らなかった。


 母さんは亡くなったよ、1ヶ月前に。


 女手ひとつで育ててくれたけど、今になってみれば僕を守ってくれていたんだなと実感している。


 母さんは帝都外れの牧場の従業員として働いていて、僕たちは母さんの雇用主の別邸に住まわせてもらっていた。


 僕にとって牧場は大切な実家だし、母さんの雇用主もよくしてくれていた。金持ちに取り入るような母ではないし、別邸とはいえ簡素なつくりの家なので裕福な生活をしているわけじゃなかったけど、母さんや雇用主のおばあさんと従業員の人たちと楽しく仲良く生活できていた。


 半年前、母さんは病に倒れた。

 医者曰く、どうやら治療法は無いらしい。入院しようが、自宅療養しようが、死は免れないと。

 雇用主のおばあさんは良いと言ってくれたけど、僕は仕事が欲しいとお願いした。

 母さんの看病をしつつ、働いて、そうしているうちに母さんは亡くなった。雇用主のおばあさんや、従業員の人たちに今までの感謝をして、僕に幸せになってほしいと言い残して。


 それから僕は母さんを弔ったあと、このまま牧場で住み込みで働くことにさせてもらった。他に道がないというのもあるけど、そもそも僕がそうしたかったから。

 皆が僕の決意を尊重してくれた。だから仕事を頑張って、酪農に関する色々なことをどんどん覚えていった。


 風向きが変わってきたのは1週間前。

 怪しい男が僕に接触してきた。

 後々になって怪しいと振り返ったが、その男は帝国の役人の服を着ていて、その時は何も思わなかった。何かの調査をしている合間に、気紛れに声をかけたのかなというくらい。


「若いのに仕事に精を出していて偉いね」


「ありがとうございます」


「今まで見たことがなかったけど、君、名前は?」


 役人だという先入観でここで馬鹿正直に答えたのがまずかった。


「ここに隠れていたとはな。あの恩知らずの女がくたばってくれて良かったぜ」


 僕が雇用主のおばあさんの屋敷に業務終了の連絡に訪れた時には、武装した男たちが屋敷を制圧して、おばあさんは首元にナイフを突きつけられていた。


 リーダーらしき初老の男は、拘束された僕に僕の出生をつらつらと語った。

 母さんは前宰相の妾で、僕は前宰相の血を引いた唯一の生き残り。実子はいなかったそうだ。

 前宰相は謀反の罪で処刑されたが、帝国の本来の王は前宰相であり、僕はその遺志を継ぐべきであると。


 急展開で意味もわからないまま、僕は監禁されることになった。おばあさんの身柄は解放されたけど、男たちが屋敷を拠点として、外部に怪しまれないよう監視付きで牧場経営を続けることになった。


 僕の安全を確保するため、従業員の人たちも男たちに従った。怪しい動きをしたら殺すとの脅しもあった。


 男は母さんの悪口を言っていた。

 恩知らずというところから始まり、僕の行方が今まで全く掴めなかったのは母さんが隠していたせいだ、と。

 事情を知っていた雇用主のおばあさんも同罪だと。今は必要だから始末しないが、やがて始末するとも。


 そうか。

 母さんとおばあさんは僕を守ってくれていたんだ。

 僕の出自だとか、経緯だとか、意図だとかはどうでもいい。僕が守られていたという事実が大事。


 同時に僕は厄災の元ということ。

 なら、僕がどうにかなれば事態は好転する筈。

 自殺?それをしてしまえば逆上した男たちが何をやるか分からないし、そもそも母さんとおばあさんが僕を大切にしてくれていた意味がなくなる。


 どうやってこの状況を好転させるか。

 学があればすぐ思いついていたのかもしれない。必要なことしか勉強してこなかった自分が恨めしい。もし無事に切り抜けられたらちゃんと色々なことを勉強しよう。


 そのためにも、どうにかしてここを切り抜けなければ。

 足りない頭で、必死に考えなければ。


・・

・・・


「あっはっはっはっ、うっわたっけー!!これ罷り間違って落ちたらぜってー死ぬやつじゃん!たーのしー!!!!」


 こいつ、アホの子だ。

 学があってもアホの子だ。


 皇帝が壮絶な過去を乗り越えた偉大な為政者なのは間違いない。

 帝国内では生きながらにして伝説化し、その偉業は聖王や魔王にすら匹敵している事実もまぁ事実ってくらいだから事実だ。

 ちょっとした策謀なら少なくとも俺では勝てる気がしないというか、実際に負けた。少し手合わせした程度ではあるがそこらの冒険者では全く歯が立たないくらいの突出した強さを持つ。


 文武に優れた、時代が産んだ傑物。

 そう言っても過言ではない。

 それでも言うよ。こいつ、アホの子だわ。こういう子、嫌いじゃないけどね。


 風魔法の重ねがけで飛行していて、シアユンは黙ってしっかりしがみついているのに、リャンは大声を出して笑っている。

 飛行の勢いを体感で把握して大丈夫な範囲内で手を離したりもしている。そりゃ落ちたときのフォローも視野に入れているが、こちらの気も知らずにかなりギリギリの線を攻めて上空の旅を楽しんでいるという風体だ。


「こ、この方は立場上思い切って遊ぶという機会に恵まれていなかったのです。何卒ご寛大に受け止めてあげてください・・・」


 空の旅を楽しみにしていると言ったものの、結局は飛行速度の風圧に耐えることに必死なシアユンが何とか言葉を紡ぐ。

 まぁ境遇は理解するけどさぁ。あっはっは。


「ねぇねぇ、これおんぶでもイケそうな気がするけど、体勢変えていいですか?」


「左右のバランスが崩れるからさすがに却下」


「ちぇーっ。あ、でも、もういいですね」


 ひとしきり騒いだ後、リャンは声を一段階低くする。


「ここはもう牧場の敷地内。この敷地自体はとても広くて、詰め所は手前側だけど奥側に牧場主の屋敷があります。黒幕がいるとしたら、恐らくそこです」


「ふむ」


「事前に見取り図を確認したと思いますが、屋敷内を正面から強襲します。各階層を遊撃して制圧を試みます。シアユンは1F、ゴローさんは2Fを、私は地下に行きます。行方不明となった従業員が捕えられているとするなら、恐らく地下の物置です。そして、黒幕は地下か2Fのどちらかにいるでしょう」


「入口のドアは?」


「破壊してください。牧場主には追って帝国から補償します。それ以上の破壊行為は必要最低限に抑えつつ、電撃制圧しましょう」


「了解」


 俺たちは牧場主の屋敷の前で降りた。シアユンはさすがに着地に少しもたついたが、それでも降りたほぼその瞬間に風魔法の重ねがけをした空気圧で木製の扉を粉々に破壊して、俺たち3人は同時に屋敷の中に飛び込んだ。

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