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帝国編4:元事務職員、ステーキに舌鼓を打つ

 帝国近衛兵長のシアユン。

 皇帝だがお忍びという扱いのリャン。

 そして俺。


 この3人での3泊4日を目処とした旅が始まった。


 目的は、帝都より東北にある郊外の山麓に棲むとされる竜種に会うこと。


 竜種と竜は違う。

 そのことは魔王から教えてもらった。

 竜の存在は確認されていないが、竜種とはそもそも竜そのものではなく、別の生物が何かの影響を受けて突然変異を起こし、竜に似た形状に進化した個体のことを指すようだ。


 魔王が知る竜種は5体。

 そのうち、帝都郊外に棲む個体が一番会う難易度が低いと魔王は見做している。


「竜種はいずれも聖王国が興る3000年前より更に前から存在している。彼らは例外なく進化の過程で世界の理を把握するに至った。俺が前の世界との繋がりや女神の存在を知ったのも、彼らからそのことを教えてもらったからだ」


 故に、異世界転移者として一度は竜種とコンタクトを取っておいたほうが良いというのが魔王の老婆心だった。


 冒険者を引退したら竜種に会いに行く機会はそうそうないだろう。それこそ、事業で竜種が関連するような案件を意図的に作り出さない限りは。


 だから、アークは今回の同行を敢えて辞退した。やろうとしている事業の下準備で忙しいというのもあるが、ビジネスとしての用件はともかく、俺の本題の事情を鑑みてくれた結果だと思っている。


 なるべく早急に終わらせて帰還しよう。

 そう思っていた矢先、確実に今日から3泊4日は時間を要することになってしまった。

 しかも同行者の2人は女性で、うち1人は前の世界で妹のように可愛がっていた歳の離れた後輩と瓜二つな上、お忍びとはいえ皇帝という天上人の立場だ。


 気が重くならない筈がない。

 が、同行の前に確固たる実力を示してもらったからには邪険にするわけにもいかない。

 ので、ある程度は観念することにした。


「というところですね。いずれ商業ギルドを通じて把握されるとは思いますが、我が帝国の主要輸出食材は各種畜産系です。量産を主目的とした牧場がほとんどですが、飼育コストを度外視して味を追求するような牧場もあります。今回行く村は、後者の牧場のある村ですので、夕食は楽しみにしていていただいて良いですよ」


 馬車の中で、皇帝であるリャン直々に帝国のことについて教えてもらっている。

 最初こそ前の世界の後輩の講釈を聞いているような不思議な気持ちだったが、帝国の歴史を前段として一種の物語のように聞かせてくれるその内容に、いつの間にか傾聴していた。


 リャンが敢えて結論から話さなかったのは、これはビジネスではなく他愛のない会話の類であるということを示したかったのだろう。つまり、ビジネスという建前や壁を取っ払って、親密な関係を作ろうとしている心遣いなんだと受け取った。


 そこまで気遣いしてくれているのに、いつまでも気を重くしているわけにも行かないし、むしろこちらも打算や身分の隔てなく接しようと思うようになった。少なくとも、この道中では。


 こちらも異世界転移者であることは明かさず、しかし冒険者時代の色々な出来事について話をした。為政者として帝国に縛られる人生を送ってきたリャンは、俺の話を興味深く聞いてくれていた。


「一応開示しておきますと」


 と、それまで沈黙を守っていたシアユンが口を開く。


「今回ゴロー様の目的である竜種は歴代皇帝とも浅はかならぬ因縁があります。とある皇帝は討伐を試み、とある皇帝はその類稀なる知識を竜種に請い帝政に活かしました。リャンが会うのはこれが3回目となります」


「最初は先帝・・・お父様に連れられて行った時のことですね。2回目は私が完全に帝国の実権を握った後の報告に。世俗に興味を持たない方ですが、かといって訪れた者を邪険にする方ではないですから、そこはご安心ください」


 成程。


「200年ほど前でしたか、時の皇帝が竜種への敬意を表するために秘密裏に大規模な祭壇を作りました。以降、竜種はそこを棲家としています。歴代皇帝とその側近にのみが知る場所ですので、いくら魔王様の紹介があったとはいえ他言無用に願います」


 まぁ無闇矢鱈に吹聴するつもりはないし、秘密にしろというなら秘密にはするさ。


「とはいえ、竜種が狩られるとかそういう心配ではなく、単にご気分を害されないかが心配なだけですけどね。2回目にお会いした際に力を見せろと言われましたが、当時の私では竜種の皮膚に傷を負わせることすらできませんでした。魔王のお兄様ならもしかするかもしれませんが」


 あー。防御力が高いのか。

 多分それ、俺は突破できちゃうんだよな。

 俺は下級魔法、初級魔法の類しか使えないけど、黄金郷の出来事を経て防御貫通の効果を付与できるようになったし、今では貫通させるかしないかを完全にコントロールできるようにもなっている。


 貫通スキルは、あらゆる防御効果を無視してダメージや効果を与えることができるものだ。

 なので、魔王級のチートな自動回復が発動しない限り、俺は多分その竜種にダメージを与えてそれを蓄積させて、倒す段階まで進めることができる。


 まぁ、挑まれない限りはやらないけど。


・・

・・・


 竜種が棲む山脈の麓の村に着き、宿屋併設のレストランで食事をいただく。


 リャンが自信をもって話していたとおり、牛肉のステーキが絶品だった。これは一般流通には乗らないらしく、地産地消もしくは貴族や皇帝に献上されるようなものとのこと。


 地元の知る人ぞ知る高級和牛のようなものか。

 それを何枚も食べていいとか、剛気が過ぎる。


 なので、そういう肉を食べに村に訪れる旅行者が後を絶たず、他にも様々な観光資源で潤っているそうな。


「聖王国は調理に力を入れてますが、帝国では素材の味を高めることに力を入れてます。特に輸出上位に来る食材は、ほぼ例外なく上位互換となる食材が創出されていて、有難いことに皇帝はその恩恵に預かっています。そういうことも手伝って、民のたゆまぬ努力があってこその皇帝という意識が、歴代皇帝の考え方の根底にあるんです」


 へー、良い考え方だなぁ。


 と、


 それまで楽しそうに話して食べていたリャンの手が止まった。


 それは、シアユンも同様だった。


「どう思うシア?」


「狙いは私たちじゃないようですが、穏やかではない殺気ですね。恐らく例の件です」


「ほぼ間違いなく戦闘になるね。数は概ね10と2前後かな」


 ガキン!と外から金属と金属がぶつかったような音が聞こえる。

 と同時に、リャンとシアは店の外に飛び出て、俺も一足遅れて外に出るのだった。

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