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帝国編3:近衛兵長、思い出を振り返る

 私はシアユンと申します。

 帝国における近衛兵長を務めております。

 もっと申し上げるのであれば現皇帝の幼い頃からの世話係であり、ある意味では戦友とも言えます。


 何故、戦友なのか。

 14歳の頃に先帝が急逝されてから、帝位第一継承者だった彼女は権力者たちに命を狙われて、私は彼女と共にそういった不届者と戦ったからです。


 権謀術数、単純な強さが求められる局面、ありとあらゆる戦いを経て彼女は尋常でない成長を遂げました。為政者としては私から見ても若干の甘さがあるものの、頭脳的にも武術的にも帝国内で並ぶ者が居ない高みに至っています。


 それは、初回に出席した主要国サミットで聖王様や魔王様をはじめとした各国首脳が彼女を激励したことと無関係ではありません。即位して間もない頃、直接的な助けにはならくとも、孤独な戦いではないという心持ちが、目の前の脅威に抗うだけでなく、先を見据えて自己を成長させるということにも視野を広げることになる機会となったのでしょう。


 命の危険に晒されつつも様々な意味で強くなることに必死で努力して、それを支えてくれる精神的な後ろ盾があるということが、彼女が強くなった主因です。


 そういう意味で、私は場当たり的なことしかできませんでした。世話役であるにもかかわらず彼女の精神を支えるに足らず、暗殺の機運を感じた際にそれを何とか阻止するくらい。当時の私は少し武芸の心得がある程度の、単なる世話役だったのですから。


 日進月歩と成長する彼女を目の当たりにして、私も強くならねばと努力しました。それが一助となれば嬉しいですが、結果、彼女は権力者たちとの戦いを制し、皇帝としての立場を確立するに至りました。

 私は皇帝の近衛兵長を襲名しました。今でも過分な立場だと思いますが、現皇帝の一助となるべく日々研鑽を積んでおります。


「シアが居てくれてよかったと思います」


 とは立場を確固としたときの皇帝の談。

 であれば、私は期待に応えなければなりません。


 さて。


 武力的な強さで言うなら現皇帝は常軌を逸しています。元々の才能はあったのでしょうが、命懸けの研鑽の末に帝国の誰もが敵わない強さを誇っています。なにせ、非公式ではあるものの、あの聖王国の騎士団長を降しているのですから。


 権力者たちとの戦いの最終局面。最大の黒幕だった元宰相を儀礼の場で社会的に追い込みました。

 進退窮まった元宰相は、暗殺者を含む私兵を総動員し、あらゆる貴族が見ているにもかかわらず恥も外聞もなく皇帝に襲いかからせました。


「往生際の悪い・・・シアユン、私が処理します。手出し無用です」


 重量のある帝衣を纏っているにもかかわらず、現皇帝は腰元の宝刀を抜き、盛大な立ち回りを演じました。

 熟練の武芸者を事もなげに斬り伏せます。中には元上位の冒険者や、素行が原因で退団させられたものの確かな実力を持った元帝国兵もいましたが、十把一絡げにそれぞれ一太刀で、しかも殺さず戦闘不能にしました。

 皇帝の本領は二刀流。にもかかわらず、片手剣1本のみでまるで舞を見させられているかのように流美な動きで立ち回る。それはまさに「強さを見せつける」だけではなく「強さと権威を示すためのデモンストレーション」だったのでしょう。


 脅されて元宰相に従わなければならなかった前帝の近衛兵長が、最後の相手でした。

 何度も前帝の危機を救った英雄であり、飛び抜けた実力を持つ猛者ですが、数合打ち合っただけで降しました。英雄と皇帝の差は、そこまで隔絶したものでした。


 元宰相の野望は潰え、現皇帝は自身の敵となる勢力を全て打ち倒し、その立ち回りが誰ともなく「剣帝舞踊」と語られるようになり、現皇帝はその地位を確固たるものにしました。


 はっきり言って、私は生涯を武に費やしたとしてもあの域に達することは無理です。


 ですが・・・


・・

・・・



「いやぁ、さすがにお兄様と同じくらいの強さというのは伊達じゃありませんね。攻め立てたつもりが全く太刀打ちできませんでした」


 目の前の光景が信じられません。


 皇帝はお忍びで市井に繰り出すことがあります。


 その際は本名から「リャン」と名乗っていますが、今回の目的である辺境国の冒険者との帯同に際して彼に「実力を見せる」ことになり、まず私が冒険者に挑んであえなく制圧。


 それなりに研鑽を積んだつもりが全く通用しなかった事にも驚きましたが、その後に「リャン」が挑みはしたものの、辺境国の冒険者は彼女を素手で制圧してしまったのです。

 リャンは二刀流。模擬戦ではあるものの本気の現れです。いえ、この場合は本気を見せないと侮辱にあたると判断したのでしょう。


 辺境国の冒険者が、スタンピードで魔王様とともに数多の魔獣を殲滅せしめたことは知っています。彼は魔法使いであり近接系の戦士ではないとも。


 にもかかわらず、彼は私たちと相対するにあたって自ら「魔法を使わない」縛りを課していました。その状態で私を降したばかりか、帝国最強と言っても過言ではないリャンさえもあっさりと制しました。


 理解ができませんでした。膨大な魔力を持っていることは分かりますが、それだけです。身体能力であれば私たちの方が上だし、対人戦において私たちは相応に経験を積んでいる筈なのに。


「たぶんね、アレは目の良さと判断力の速さ、あと力の流れをちゃんと見て合理的に動いていたんだろうね。それだけだけど、そうそうできる芸当じゃない。身体能力以外の素質と、冒険者としての経験値、あと胆力に負けたって感じだね」


 リャンはそう解説しました。

 実際、辺境国の冒険者に話を聞いたところ、まさしくその通りでした。というか、開示してくれたステータスは一般的な魔法職より少し上なくらい。となると、それ以外の要因で私たちは敗北したのでしょう。


「けど、駆け引きとしては私たちの勝利かな。ちゃんと実力を"認めさせた"わけで、実力を理由に帯同を断ったり、行動を制限させることはできなくなった」


 本来武力で負けることはまず無いですが、たとえ負けてしまっても目的を達成させてしまうあたりは流石です。

 とはいえ、基本的に皇帝の意に付き従う行動を取るようにしていますが、疑念というか疑問に思うことがありました。


「畏れながら、そもそも何故彼と行動を共にしようと思ったんですか?スタンピード鎮圧の立役者であり重要人物であり、彼の目的がかの竜種であるという理解していますが、執務を後回しにして誰かといるために数日間費やすなど、考えられないと思っておりました 」


「シア、このモードの私のことはちゃんとリャンとして接してね。それはそれとして、理由かぁ。うーん」


 彼女がお忍びで市井に赴く際、私は必ず帯同するようにしています。彼女がそこらの輩に遅れをとるような事は万が一にも有り得ませんが、近衛兵長として形式上そうしないとならないようになっています。いざという時の捨て駒にもなれますし。


 だからこそ沸いた疑問でした。

 彼女は事柄について興味を持って市井に出る事はあっても、特定個人に興味を持つ事はありません。それこそ、今回が初めてのことでした。


 考えた後、リャンは答えました。


「わからないから、その答えも探したいってとこかなぁ」

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