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帝国編2:元事務職員、試験を行う

 行程想定は3〜4日。

 初日に馬車で竜種がいると目されている村に行き一泊。

 2日目に山を登り竜種を探す。可能であればその日に竜種を探し出せればベストだが、高望みはせず野営を視野に入れている。

 4日目になればタイムアウト。いったん村に戻って今後どうするか思案する。


 それが、俺が皇帝に提示した条件。

 そうでなくともお忍びとはいえ一国の長が一介の冒険者と共にするのだ。いや、むしろお忍びだからこそ責任が取れない。何かあったらどうしろというのか。


 相手が魔王なら良い。

 国王に限りなく近い立場ながら、世界の誰もが認める最強の実力者であり、何より男だ。

 罷り間違うことなどありえない。ありえないったらありえない。


 だが、皇帝も文官も女性だ。

 どちらかがアーク級の実力を持っていると仮定したとしても、流石に躊躇う。

 高貴な身分の人間に、野営なんてさせられる筈がない。あと、アークに操を立てているから間違いは起こさないにせよ、何のセーフティもなしに一緒に年頃の男女が野宿するなど抵抗感がありすぎて困る。


「まぁ、そこはご安心ください」


 馬車を待つ広場で、動きやすい普段着に護身用の剣を腰に刺した肯定は自信満々に言い放つ。


 言葉で言われても安心できないんだよ!根拠を教えてくれ!!

 とは言えず、相手が相手なので最大限譲歩した結果が4日間の行程。


 ある意味で今までで一番覚悟を決めなければいけない案件になってしまった。これで何か間違いが起こってしまったらアークに申し訳が立たないというか、膾斬りにされても文句は言えないし言わない。


「ご心配なのは私たちの武力と、奥様への義理立てについてですよね?後者に関しては存じ上げておりますし、当然尊重する意向です。為政者たるもの身内でない者への節度を忘れてはいけません」


 お気持ちはわかりますけど。

 けど、何もなかったとしても、それを知らない人が客観的に見たらどうですかねという話。当事者の事情を誰もが理解してくれるとは限らんのですよ。


 とはいえ、そこはもう諦めた。抵抗するだけ無駄な気がする。せめて心を強く持つのと、2人を信用しよう。


 であれば、もう1つの懸念事項。


 最悪、俺が2人を守ることも視野にいれてはいる。ある意味仕方がない。

 それでも、どれくらいなら大丈夫だということを把握しておかなければならない。つまり、この2人が冒険者だったとして、どれくらいの力量を持っているのか。


「つまり、ゴローさんが私たちの力量を測るということですね」


 端的に言うと、そう。


 当然、力量を測るだけなので本気を出すことはない。具体的には魔法を使わない。魔法を使わない状態での俺の身体能力は決して高くない。むしろ、冒険者としては低い方だ。


 それでも、黄金郷に行く前の俺は聖王国騎士団の団長を降している。彼ほどの戦力は求めないにせよ、相応の実力は求めたいところだ。


「では、私から」


 まずは女官が構える。

 武器はメイス。しかも二刀流。

 先端に重量があり振り回し辛いと思いきや、軽々と振り回す。見た目と違ってパワータイプか。


 女官が突進する。言うだけあって遅くはない。俺にとっては見切るまでもない程度ではあるが、突進からメイスを振り下ろして土の地面を抉るその一連の動きは、かつてアークと戦った聖王騎士団の副団長級と同等の所感を抱いた。

 ばかりか、振り下ろして硬直するわけでもなく、すぐさま切り返してメイスを振り上げる。それを避けてもなお動きの反動を利用するかのように攻撃が止まらない。


 何度仕掛けても攻撃が当たらないことで方針を変えたのか、急に低姿勢で体当たりを仕掛けてくる。足を捉えて転ばせ、マウントを取ろうとしている。

 俺はその更に下へと潜り込んで、足払いを仕掛ける。女官はそれには対応できず転んだので、すかさず右手に当身と関節技を仕掛けてメイスを落とし、無力化させた。


 確かに言うだけあって、女官は強い。

 それこそ、冒険者であれば上位に台頭できるくらいに。

 腕試しとはいえ本気だったのだろう。制圧され無力化されたことに悔しそうな表情をしていた。はっきり言って、彼女が皇帝を守るのであれば確かに心配はいらない。お忍びに単独で帯同するだけある。


「では、次は私ですね」


 と思ったら、皇帝がやる気を出していた。

 こちらも二刀流か。両手にはショートソードより少し刃が短めの剣がそれぞれ握られていた。

 えっ、本当にやるの?


「お兄様とスタンピードの戦線を共にして絶大な戦果を上げたその実力、私にも見せていただきます」


 お兄様・・・魔王のことか?

 それはともかく、女官が皇帝を守れるだけの力を持っているからこれ以上は不要と思っていたが、皇帝は意気揚々と構えて本当にやる気十分。

 途端に皇帝の持つ双剣に氷の魔力が纏われる。と同時に、まずは左の剣を遠距離から強く振るう。


「うおっ」


 高速で飛んで氷の刃を見切って避けた。

 僅かに油断して不意を突かれたとはいえ、対人戦で見切りを使うことはここしばらくなかった。それこそ、アークと模擬戦をする時以外は。


 自分の戦力を客観視したときの大きな武器のひとつが、見切り。

 動体視力と、それを活かして攻撃に移す速度が常人の本能を遥かに上回っていることがわかった。本来であれば莫大な集中力を要するが、それを俺は常時展開しているらしい。

 集中力の質が常人と異なる。

 魔王からの指摘でそれを自覚した俺は、あえてそれをデチューン出来るようにした。つまり、見切りを発動させないこと。それが相手との力量差を測るときのバロメーターとなるだろうから。


 オフにしていた集中力を元に戻した。

 本能レベルで「このままではヤバい」と察した。戻されたと言っても過言ではない。

 皇帝の初撃は、そういうものだった。


 避けたその先で、更に右手の剣が腹部を襲う。

 身を捩るようにして避ける。それを皮切りに、右左右左上下とまるで踊るように、しかし猛スピードでの剣戟の連発が襲ってくる。


「っ!」


 攻撃を見て避け続ける程度で対応する筈が、想定以上の猛攻だったのでいつものように隙を見つけて攻撃を差し込んでしまった。

 右の袈裟斬りに合わせて両手首に手刀で当て身を入れ、剣を落とさせる。

 それで終わるとも思えなかったので、右手首を掴んで合気道の四方投げの要領で関節技をかける。


 もしかすると魔法を使われるかもしれないが、それをすると俺が逆に魔法で制することを察したのだろう。皇帝は抵抗せず降参した。


「いやぁ、さすがにお兄様と同じくらいの強さというのは伊達じゃありませんね。攻め立てたつもりが全く太刀打ちできませんでした」


 お互い模擬戦というところで本気は出していなかったにせよ、確かに皇帝の強さを測ることはできた。

 舐めていた。はっきり言って、強い。見切りを使ってしまうのは想定外だった。

 比較すると、見立てでは騎士団長以上。

 つまり、黄金郷に行く前のアークを上回っている。皇帝は聖王や魔王と違って武力を誇る要素を持たないと聞いていたが、そこらの人間じゃ全く歯が立たない。

 剣に氷を纏わせていたから水魔法も使えるのだろう。底が知れない。お互い本気の場合負けるつもりは一切ないが、手心を加えて手加減をすれば足元を掬われかねないと思ってしまうほど。


「皇帝陛下は魔王閣下に憧れていらっしゃいます。故に、憧れに近づけるよう執務の傍ら武芸の稽古にも熱心に取り組まれてました。その結果、近衛兵長の私が足元に及ばない強さを身につけていらっしゃいます」


 女官の説明。成程。成程?


 憧れでここまでの強さを得られたってこと?

 女官だと思っていた彼女が近衛兵長だってのは納得だけど、皇帝の強さはちょっと信じられない。

 その信じられない強さの理由を後に聞くことになり、確かに納得することになるのだが。


 兎に角、2人は実力を見せるということに結果を出した。自分が誰かの実力を測るようになるとは、と思ったが、魔王もそこは「前の世界でそういう立場だったのなら、こっちでも自信を持ってやってみればいい」と言っていたので倣ってみた。

 俺と魔王の時みたいな苛烈なことはやらないが、これが今後の自信につながることになった。


「お眼鏡には叶いましたか?」


 皇帝の問い。

 皇帝を試すというのも不敬な話だが、文句なしにお眼鏡に叶ったよ。帯同に問題がないどころか、背中を任せられる。


「率直に申し上げて、私と彼女が帝国軍および帝国城の中で最高峰の戦力です。もしかしたら市井に隠れた実力者がいるかもしれませんが、少なくとも相応にお役に立てると思います」


 ぐうの音も出ない。

 必要ならギルドを頼れというのはあくまで建前。冒険者・商業の両ギルドに俺の目的は事前に伝えていたし、そこから聞いて最初から俺に帯同するつもりだったのだろう。ご丁寧にしばらく執務をしなくても大丈夫なように事前処理や根回しを済ませた上で。


 お忍びとはいえ皇帝は皇帝。俺がおいそれと何か願い事なり命令なりを断るわけにはいかない。

 苦し紛れなれど妥当だと思っていた帯同条件は、俺にとっては想定外の強さをもって見事に満たした。


 後輩の面影があっても、まだ若いとしても、彼女は皇帝なのだ。俺も前の世界で相応の経験を重ねてきたつもりだが、駆け引きの経験値が違う。役者が違うのだ。


「わかりました、野営の可能性があるということに躊躇いはありますが、皇帝陛下におかれましては是非私の帯同をお願いしたく存じます」


 降参。負けだ。

 俺は皇帝の要求を飲むことになった。

 断るという選択肢があっても、選べない。選ぶ建前が完全に潰されてしまった。


「やったぁ!ありがとうございます!とはいえ、お忍びの立場で皇帝というのも何ですし、私のことは『リャン』とお呼びください。あ、敬語も無しでお願いします。ゴローさんのほうが歳上なんですし」


「私は『シアユン』です」


 女官と思っていた近衛兵長は本名だろうが、皇帝の場合は偽名ないしは愛称なのだろう。一応、守るべきことは守るが「もうどうにでもなれ」と投げ槍な気分にはなってきた。


 ここまで振り回されることもそうはない。アークは興味のあることに引っ張って行く感じだが、皇帝・・・リャンは興味のあることをやるために外堀を埋めて断る選択肢を排除するような感じだ。

 まず間違いなく駆け引きの力は俺より上。油断していると何に巻き込まれるかわかったものではない。


 俺の諦観を他所に、リャンは為政者とは思えない屈託のない笑顔で喜び、シアユンは感情を出さず付き従っていた。

 

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