閑話:御用記者、振り返る
俺は辺境国某新聞の記者だ。
今回は、俺がここ数年追いかけている冒険者パーティ「絶滅危惧種」について話をさせてもらおう。
実は俺は彼らがパーティ結成した場に居合わせていた。それ自体は全くの偶然ではあったのだが、デスベアーと戦って生き残った駆け出しの冒険者と僧侶、そして新進気鋭の剣士と中央でも名を聞くエルフという奇特な組み合わせに、ピンとくるものがあった。
彼らは着実に実績を積み上げていっていた。クエスト成功率は9割に上り、特に戦闘系のクエストで失敗することはなかった。
そりゃゴブリンの女剣士の戦闘力が高いってのもあったが、斥候役のエルフと回復役のオーク、そして最初はお荷物だと思っていた人間族の魔法使いであるリーダーがゴブリン族の女剣士より強いってのだから、ある意味当然だった。
ゴブリン族の女剣士のアーク氏と、魔法使いのゴロー氏の模擬戦を見る機会があったが、アーク氏が魔法を使わないゴロー氏にあっさり倒されていた。
アーク氏曰く「ゴローは動体視力と判断力が高いし、身の運び方が達人級だから、身体能力で勝てても立ち合いじゃ勝った試しがない」とのこと。
ただ、アーク氏は負けているにもかかわらず悔しそうな顔はしなかった。向上心がなくなったとか諦めたとかではなく、むしろとても嬉しそうにしていた。今考えると、ゴロー氏に好意を寄せていたことも無関係ではないだろう。
辺境国ギルド周辺に設けた拠点では、二人の立ち合いが名物となっていた。
さて、絶滅危惧種には2度の転機があった。
まず、彼らは黄金郷を踏破した。
世界の守護者たる魔王ですら手を出さない、最大級のアンタッチャブル。それでなくとも黄金郷由来とされる呪いが世界各地で稀に発生するとされ、領域に入り込めば呪いにより死は確実と言われる地に乗り込んだ。
それで生きて帰ってきただけでも大偉業だが、しかも調査の過程で黄金は消失したというのだから仰天もする。
何故消失したのかは不明だ。
彼らも、その理由はわからないと言う。
だが、彼らが黄金郷に干渉したことにより、黄金郷は消失した。更には、黄金郷由来とされる世界各地の呪いも消失した。
彼らが何と言おうと、どういう経緯であろうと、もし彼らが黄金郷消失の理由を実は知っているにせよ、黄金郷消失は紛れもなく彼らの功績だ。
辺境国で新進気鋭の優秀なパーティという扱いだった彼らの知名度は、これで一気に全世界に轟いた。
有り体に言うと、取材の申し込みが殺到した。あまりに殺到しすぎて彼らだけでは捌ききれなくなり、旧知ということで俺が取材申し込みの仲介というか窓口になることを申し出たくらいだ。
主要国サミットが近いため取材申し込みが下火になるのは早かったものの、それでも怒涛の様相を呈していた。グラビア特集やろうぜ!というトンデモな提案をしてくるメディアも出てきたくらいだ。しかも複数社。
一応それを伝えると、さすがに却下された。そりゃそうだよな。容姿で売れる素質があるからって、容姿で売るとは限らないもんな。
2つ目の転機。
黄金郷消失の後、パーティメンバーはそれぞれの理由で聖王国にいた。
折しも主要国サミットの開催時期であり、ゴロー氏の魔力測定およびゴロー氏とアーク氏が入籍したほぼ直後。
サミットでエルフ王国建立、黄金郷消失という重大な議題が進行している中で起こった「スタンピード」だ。
理由は不明ながら、不定期に大都市を大量の魔獣が襲う、歓迎されない大規模イベント。
それがサミット開催中に起こった。
しかも、大規模は大規模でも過去起こったスタンピードを遥かに上回る規模だったと、後の調査で判明している。
オークの僧侶であるアンドリュー氏は女神教を動かして後方支援に貢献。
エルフのエルリィ氏はサミットで同行していたエルフ女王の指示のもと、同じく帯同していたエルフたちを指揮して斥候に専念して戦況把握に貢献した。
これが功績として認められた。
そりゃそうだろう。女神教の助けがなければ聖王騎士団や各国連合、ギルド連合は回復が間に合わず壊滅していたとされるし、エルフの戦況把握がなければ効果的な戦力配置もままならなかっただろう。
それ以上に。
ゴロー氏とアーク氏は魔王とともに最前線で戦い、聖王騎士団・各国連合・ギルド連合と同等の役割を演じて、その3勢力を上回る戦果を叩き出していた。
アインスと呼ばれる女神教の少女に連れられて見たその光景は壮絶の一言。
魔法により生み出される圧倒的な物量により魔獣を殲滅するゴロー氏。
もはや魔獣のランクを勘案せず平等に斬り棄てるアーク氏。
これに加わる人類の切り札である魔王。
この3人がそれぞれを同格と見做して、スタンピードの最前線で魔獣たちを食い止めていた。
「・・・が、メディアの人間にこれをお願いするのは非常に酷ですが、私はともかく2人の活躍についてはオフレコに願います」
スタンピードの脅威を退け終えた直後、血塗れの魔王が笑顔で俺にそう告げた。
冒険者だが元は一般人の彼らが、魔王とともに活躍したことを知られたら間違いなく政治的な扱いをされる。それを避けたいという意図はすぐに理解できた。
アンドリュー氏とエルリィ氏は仕方がないというか、元々あるべき場所に戻ったと言えなくもない。もっと言ってしまえば、アンドリュー氏とエルリィ氏にとって絶滅危惧種は大切な居場所ではあるものの、仮住まいでしかない。
せめて、一般人であるゴロー氏とアーク氏はそういう場から遠ざけたい、関わらせたくないというのが魔王の意向だろう。
それはつまり、
「絶滅危惧種は遠からず解散するでしょう。少なくとも、アンドリューさんやエルリィさんは脱退せざるを得ません。ここであなたがパインブック夫妻についての記事を書くと、彼らはその道に進まざるを得なくなります。彼らの活躍を見てきたあなたからすれば、彼らの将来を閉じたものにするのは好ましくないでしょう?」
驚いた。
魔王はたかだかいち記者でしかない俺と絶滅危惧種の関係を知っている。
その上で、激戦を繰り広げた直後にもかかわらず俺に交渉、どころではなく「お願い」をしている。
確かに、俺はいま特大スクープを握っている。だが、どう書くべきか、そもそも書くべきかを迷っていた。
実質的に魔王は俺の選択を後押しした。
「ご理解いただけて助かります。では」
疲労困憊であろうにもかかわらず、俺の選択に満足したのか魔王はその美貌で俺に微笑み、体をふらつかせながら去っていった。
ふとゴロー氏とアーク氏のほうを見てみると、2人は間近で横たわっていた。限界の限界を超えたのだろう。
エルリィ氏が駆け付けるのを確認した後、俺は王都へと戻って行った。アンドリュー氏とエルリィ氏の記事を書くために。
そして、聖王国から辺境国に戻ってしばらく後に、俺はゴロー氏から「絶滅危惧種の解散の報道をしてほしい」と依頼を受けた。
それは俺の独占スクープであり、御用番のようなものだった俺と絶滅危惧種の関係の終わりを指していた。
スクープの反響は凄まじかったが、それよりも絶滅危惧種がなくなる喪失感と、彼らの新たな旅立ちを祝福する気持ちのほうが俺にとっては重要だった。
アンドリュー氏は教会に戻り、
エルリィ氏はエルフ国に戻り、
ゴロー氏とアーク氏は小さいながらも会社を興した。
その2人の興した会社が、絶滅危惧種を遥かに上回って世界で重要な立ち位置になっていき、その動向を記事にしている俺が忙殺されつつも報道業界でいつの間にか地位を確立していく話は、また別の機会に。
アインスが彼を戦場に連れてきたのは、彼をスタンピードにおける第三者の観測者とするためです。
次エピソード、執筆中です。
順当にいけば9/7 0時更新ですが、未定です。




